オーストラリアで進むAIインフラ革命:OpenAI巨額投資とNextDCの存在感
米人工知能(AI)研究企業のOpenAIが、オーストラリアにおよそ46億米ドル(約7兆円規模)ともされる大型AIセンター計画を進め、シドニー近郊に約70億ドル規模の新たなデータセンター構想が伝えられています。この動きと連動するかのように、オーストラリアのデータセンター企業NextDCにも投資家の注目が集まり、「Stock of the day(本日の注目株)」として取り上げられています。
同じタイミングで、ニューサウスウェールズ州(NSW)では大規模な山火事(ブッシュファイヤー)への緊急警報も発令されており、エネルギー・インフラ・気候リスクという現代的課題が一度に浮き彫りになっています。本記事では、これらのニュースをわかりやすく整理しながら、オーストラリアにおけるAIインフラの現在地と、その背景にあるデータセンター市場の拡大について丁寧に解説します。
OpenAIがオーストラリアに巨額AIセンターを計画
まず焦点となるのが、OpenAIによるオーストラリアAIセンター計画です。報道によれば、総額46億米ドル規模におよぶ投資で、生成AIの学習・推論を支えるための大規模なデータセンターおよび関連インフラを構築する内容とされています。これは、世界的に見てもかなり大きなプロジェクトであり、オーストラリアがAIインフラの重要拠点として認識されていることを示しています。
オーストラリアではすでに、AI用途を強く意識したデータセンター計画が複数公表されています。日本企業を含め、シドニーでのAIデータセンター施設利用契約が2025年に締結されるなど、AI向けデータセンターに特化した動きが進んでいます。こうした既存計画とOpenAIの巨額投資が重なり合うことで、シドニー周辺は今後さらにAI専用インフラの一大集積地となる可能性が高いとみられます。
シドニーに約70億ドル規模の新データセンター計画
OpenAIの計画と並行して報じられているのが、シドニーにおける約70億ドル規模の新データセンター構想です。これはオーストラリア財務相チマーズ氏(Jim Chalmers)が歓迎コメントを出したことで注目を集めました。報道では「OpenAIが関わるシドニーの巨大データセンター計画」として取り上げられ、政府レベルでも雇用創出やデジタル競争力の強化が期待されています。
PwCオーストラリアの資料によると、オーストラリアのデータセンター容量は2018年の約0.5GWから2024年には約1.9GWへと急拡大しており、2025年以降も年平均成長率14%で拡大していくと見込まれています。特にシドニーとメルボルンが新設データセンターの中心となっており、AI用に特化した施設も西シドニー地域などで既に開発が進んでいます。
さらに、民間調査では、オーストラリアはすでに世界の主要データセンターハブの一つに数えられており、2024年以降、データセンターへの直接投資が急速に増加しているとされています。CBREの分析によれば、オーストラリアのライブ容量は2025年の約1.3GWから3年以内に約1.8GWまで伸びると予測されているものの、それでも需要には追いつかず、2028年までに0.7〜1.7GWの供給不足が生じる可能性が指摘されています。
このような「需要が供給を上回る」状況において、OpenAIの巨大AIセンターやシドニーの70億ドル級プロジェクトは、市場の供給ギャップを埋めると同時に、さらに新たな需要を呼び込む起爆剤になるとみられています。
「Stock of the day」NextDCとは何者か
OpenAIとオーストラリアのAIセンター計画が話題となる一方で、投資家の間で注目されているのが、オーストラリアのデータセンター企業NextDCです。金融メディアなどでは、「Stock of the day(今日の注目株)」としてNextDCを取り上げる動きがあり、その背景には生成AIブームを支えるインフラ需要の高まりがあります。
オーストラリアのデータセンター市場全体が大きく成長しているなかで、NextDCのようなハイパースケールデータセンター事業者は、AIやクラウド企業からの大型案件を獲得するポジションにあります。実際、オーストラリア市場ではハイパースケーラーやOpenAI、Anthropicなどの「ネオクラウド」と呼ばれる企業が、10〜50MW規模の大口コロケーション契約を相次いで結んでいると報告されています。
こうしたなかで、NextDCは「AI向けの電力・冷却能力」「低遅延なネットワーク接続」「拡張性の高い施設設計」といった要件を満たすことで、生成AI時代のインフラ企業としての存在感を高めています。今後OpenAIをはじめとするAI企業がオーストラリアでの展開を加速させれば、その波及効果としてNextDCなどの株式市場での評価にも影響が出る可能性があります。
チマーズ財務相「OpenAIのシドニー新DC計画」を歓迎
オーストラリアのジム・チマーズ財務相は、シドニーに計画されているOpenAI関連の大規模データセンター(約70億ドル規模とされる)について、雇用や投資、地域経済へのプラス効果を理由に歓迎の意向を示したと報じられています。このように、政府が積極的に支援姿勢を見せていることは、プロジェクトの推進力となるだけでなく、国内外の投資家に対しても「オーストラリアはAI・デジタルインフラに前向き」というメッセージとなっています。
また、PwCの資料でも、オーストラリアでは約75億豪ドル相当のデータセンタープロジェクトが主にNSW州で進行中であり、それが国内全体の主要プロジェクト価値の約77%を占めるとされています。NSWがデータセンター投資の中心地であることは、シドニー周辺のAIセンター計画と整合的であり、政府・企業・投資家の関心もこのエリアに集中しています。
NSWで発令された緊急ブッシュファイヤー警報
一方で、同じNSW州では、シドニー周辺を含む地域で大規模なブッシュファイヤー(山火事)に対する緊急警報が出される事態も発生しています。オーストラリアは毎年のように森林火災のリスクにさらされており、気候変動の影響も背景に、火災シーズンの長期化・激甚化が指摘されています。
これは、AIデータセンターのような電力集約型インフラにとっても無関係ではありません。大規模な山火事は、送電網や通信インフラにダメージを与える可能性があり、データセンター運営においては災害リスクへの備えが重要なテーマとなります。バックアップ電源、多重化された通信ルート、防火設計など、レジリエンス(強靱性)をどう高めるかが、今後のオーストラリアのインフラ整備における焦点の一つです。
なぜオーストラリアはAIデータセンターの拠点になるのか
ここで、なぜOpenAIをはじめとするAI企業がオーストラリアを重要拠点と位置付けるのか、その背景を整理してみましょう。
- 地政学リスク分散:アジア太平洋地域において、政治的・地政学的に比較的安定しているオーストラリアは、AIインフラのロケーションとして魅力的とされています。
- 電力・通信インフラの優位性:豊富な土地と再生可能エネルギーのポテンシャル、高品質な通信インフラなど、データセンター運営に必要な条件を備えています。
- 需要の急拡大:生成AIの普及にともない、GPUクラスタや高密度サーバーを収容できるデータセンターの需要が急増しており、シドニーやメルボルンは低遅延なAI推論ハブとして評価されています。
- 投資環境の整備:政府や州レベルでデジタルインフラ投資を重視する政策が打ち出されており、税制や規制面でも誘致の動きがあります。
調査会社CBREは、オーストラリアのデータセンターに対する投資可能市場規模を約300億豪ドルと推計し、今後4年間で約50%拡大し460億豪ドル規模に達すると予測しています。このような成長期待があるからこそ、OpenAIのような世界的AI企業に加え、投資ファンドや不動産会社、各国のIT企業が次々と参入しているのです。
生成AIブームとデータセンター需要の関係
OpenAIが牽引する生成AIブームは、単にソフトウェアやアプリケーションの世界にとどまらず、その裏側にある物理インフラ(データセンター・電力・通信網)の需要を爆発的に押し上げています。
CBREは、ジェネレーティブAIの商用化が前例のないデータセンター需要の伸びを生んでいるとし、マッキンゼーの推計では2023年から2030年まで世界のデータセンター需要が年率19〜22%で成長し、その約70%をAIワークロードが占めると伝えています。さらに、2030年までにはAI推論だけで全体需要の約60%を占めるとの見方も示されています。
このトレンドは、日本企業のレポートでも確認されており、ChatGPTの登場以降、世界的にデータセンター需要が急激に高まっていることが、統合報告書などでたびたび言及されています。オーストラリアにおけるOpenAIのAIセンター計画は、こうした世界的潮流の中に位置づけられる動きだと言えるでしょう。
エネルギーと環境への影響は?
AIデータセンターの拡大は、同時に電力消費と環境負荷の問題を孕んでいます。オーストラリアでも、データセンターのIT負荷(IT Load)が数十MW単位で増加しており、新規プロジェクトの多くが数十〜数百MWクラスの計画となっています。
日本を含む各国のエネルギー関連研究機関は、電力需要の中長期的な見通しのなかで、データセンターやAI関連負荷の増加を重要な要素として織り込んでいます。同時に、各国政府の情報通信政策の文脈では、デジタルインフラ拡大とカーボンニュートラルの両立が大きなテーマになっており、オーストラリアでも再生可能エネルギーとの組み合わせや高効率冷却技術の導入が進められています。
OpenAIのようなグローバル企業にとっても、環境負荷低減やクリーンエネルギー利用は重要な企業課題であり、オーストラリアでのAIセンター展開においても、電力源や効率性への配慮が投資家や市民から注視されることになるでしょう。
日本企業との関わりとアジア太平洋全体への波及
興味深い点として、オーストラリアのAIデータセンター市場には日本企業も参画しています。シドニーのAIデータセンター施設利用契約を締結した日本企業は、アジア太平洋地域で「最も信頼されるAIインフラ」の構築を目指しており、オーストラリアをグローバル戦略の最重要地域の一つと位置付けています。
また、日本の大手IT企業は自社の決算説明資料の中で、データセンター事業の大規模な受注やIT Loadの増加を報告しており、AIインフラ需要の高まりは国内にとどまらず、海外を含めた事業展開の重要なドライバーになっています。こうした背景を踏まえると、OpenAIとオーストラリアのAIセンター計画は、日本企業にとっても協業・参入の機会となり得る動きだといえます。
これからの注目ポイント
最後に、今後の注目点を整理しておきます。
- OpenAIのAIセンター計画の具体化:用地・電力契約・パートナー企業・稼働開始時期など、詳細情報の公表が待たれます。
- NextDCなど現地事業者との連携:OpenAIが既存データセンター事業者とどのような形で協力関係を築くのか、あるいは自前インフラをどこまで構築するのかが焦点です。
- NSWのインフラレジリエンス:ブッシュファイヤーなどの自然災害リスクにどう備えるか、電力網や通信網の強靱化策が問われます。
- エネルギー・環境政策との整合性:AIデータセンターの増加に対して、再生可能エネルギーや省エネ技術による環境負荷低減がどこまで進むかが重要です。
- アジア太平洋のAIハブとしての位置づけ:シドニーやメルボルンが、東京・シンガポールなどと並ぶAIインフラの主要拠点としてどこまで存在感を高めるかが注目されます。
OpenAIの巨額投資計画、NextDCのような地場データセンター企業の成長、そしてNSWのブッシュファイヤーという現実のリスク。これらのニュースは、AIがもたらす新しい可能性と、インフラ・環境・社会課題が複雑に絡み合う現代の状況を象徴的に示しています。オーストラリアを舞台にしたこの動きは、今後のAI時代のインフラのあり方を考えるうえで重要な事例となっていきそうです。




