都営大江戸線4km延伸計画、本格始動へ――期待と課題が交差する“鉄道新時代”

2025年10月、東京都は都営地下鉄大江戸線の「光が丘駅」から北西へ約4kmを延伸し、3つの新駅を新設する計画を正式に発表しました。長らく地域の悲願とされてきた「鉄道空白地域の解消」を目指すこのプロジェクトは、総事業費1,600億円、乗客増加数1日6万人、黒字化まで40年という壮大な試算が示され、早ければ2040年ごろの開業が見込まれています。市民の利便性向上と、東京都郊外エリアのまちづくり、さらには社会インフラの未来像に多くの注目が集まっています。

なぜ今、大江戸線を延伸するのか?

大江戸線延伸の直接的な理由は「鉄道空白地域の解消」です。練馬区の北西部、光が丘駅より先の一帯は、最寄り駅まで1km以上離れており、公共交通網が未発達のまま都市化が進んできました。「都心まで行くのにバス乗り継ぎが必要」「通勤・通学で時間と体力を消耗する」といった声は住民の間で数十年来絶えませんでした

  • 区内の新駅(仮称):「土支田駅」「大泉町駅」「大泉学園町駅」
  • 延伸区間距離:約4km
  • 北西部の多くが「鉄道空白」だった
  • 都心部、副都心部(例:新宿)への直通利便性強化

また、バスでのアクセスにも限界があり、道路混雑や定時性の低さが課題となっていました。東京都はこれらを背景に、2022年度末よりプロジェクトチームを設置して調査と協議を重ねてきました

事業概要と最新の事業費・採算見通し

今回の延伸計画は、主に練馬区北西部(光が丘駅〜大泉学園町駅)間に及び、区内には新たに3つの駅が誕生する見通しです(場所はいずれも仮称)

  • 総事業費:約1,600億円
  • 新規利用者増:1日あたり6万人想定
  • 黒字化目標:開業から40年以内
  • 想定開業:2040年ごろ
  • 高松車庫の改修や引き上げ線整備も

東京都が公表した2025年最新資料によれば、事業の採算性は「40年以内の黒字化」と試算され、都市開発による波及効果や地域活性化への期待も盛り込まれています

延伸による主なメリット――「生活価値」の向上

大江戸線延伸がもたらす最大のメリットは「鉄道空白解消」による交通利便性の向上ですが、それに留まりません

  • 都心部・副都心部へのアクセス向上:新宿への所要時間が短縮され、通勤・通学の効率化。
  • 地域の活性化:新駅周辺のまちづくりが進み、都市サービス施設の充実や居住環境の向上。
  • 土地・不動産価値への波及効果:新駅誕生により住宅地の資産価値向上や新たな商業施設の進出効果。
  • 道路混雑や環境問題の緩和:自家用車依存が減り、交通渋滞・CO₂排出減少に貢献。
  • バス交通の限界克服:バスのみでは対応しきれない乗客需要や遅延問題を緩和。
  • 防災機能の向上:災害時の輸送ルートや避難拠点機能の向上。

なぜ「誰得」論や懸念も巻き起こるのか

一方で、大江戸線延伸計画には懸念の声も多く上がっています。「公共投資に対して人口減少局面での需要減少」「開業までに約15年、黒字化40年という超長期回収」「巨額投資1600億円の回収可能性」「延伸先住民の規模や生活価値以外への効果」などが主な論点です

  • 東京都は「鉄道空白=解消すべき」という前提で進めているが、地域によってはバス再編・小型移動サービス拡充といった代替案も十分検討の余地が残る。
  • すでに人口減少傾向の強まる中、直近数十年でどれだけ利用者を維持できるのか。
  • バス網だけでは限界だが、逆にバスネットワークや再編の価値を軽視するリスクがある。
  • 「誰が本当に得するのか? 都心通勤層と一部不動産業者だけでは?」という疑義。
  • 延伸による街の変化に伴って、地域コミュニティや生活コスト影響も。

東京都・練馬区の公式見解と今後の課題

東京都と練馬区は延伸の目的を「区北西部の鉄道空白の解消」「新たなまちづくりの基盤づくり」「都心部と周辺を繋ぐネットワーク強化」と位置付けています。さらに、都市再開発や環境負荷軽減、防災インフラ強化など、幅広い目的で「都心集中型」だけでない都市デザインの転換を図るとも説明しています。

それでもなお、今後解決すべき課題として以下が示されています。

  • プロジェクト推進の財政負担・リスク分担(東京都と区、市民、国の連携)
  • 人口動態・需要予測の正確性
  • 周辺交通網(バスなど)との最適な再編・共存
  • 現地住民・地元合意のさらなる形成
  • まちづくりとの一体性(拠点整備、住環境改善、商業振興など)

こうした課題に対し、引き続き東京都庁と練馬区、関連自治体、鉄道事業者が連携し、「未来の交通インフラ」としての真価が問われています。

地域社会からの声――賛否と生活のリアル

地域住民からは次のようなさまざまな声が聞かれます。

  • 「毎朝の通勤時間が短くなるならぜひ早く実現してほしい」(住民A)
  • 「これまで不便だった外出や買い物がぐっと楽になる」(高齢者B)
  • 「新しくできる商業施設で街も活気づくと思う」(子育て世代C)
  • 「土地や住宅価格が上がって追い出されないか不安」(古くからの住民D)
  • 「小規模地域では経済波及がそこまで見込めるのか疑問」(地元商店主E)

こうした期待と不安の双方が共存するなかで、今後のまちづくりや住民参加の具体的な仕組みづくりも次の大きなテーマになっていくでしょう。

まとめ:大江戸線延伸、その意義とこれから

都営大江戸線の4km延伸計画は、単なる鉄道延伸という枠を超え、「人口減少社会」や「交通ネットワーク再構築」の象徴的な事業でもあります。長期的な黒字化計画とともに、東京都および練馬区は地域の持続可能な発展、交通インフラの質的転換、環境負荷の軽減、多様な市民需要とのバランスを、今後も市民や専門家と議論しながら形にしていくことが求められます。

現時点(2025年10月)で東京都の方針は「鉄道空白解消」「バス限界の克服」「都心アクセス改善」という積極姿勢ですが、時間の経過とともに新たな都市・生活課題が現れる可能性も含め、多角的な議論が今まさに始まったところです。
この動きをきっかけに、わたしたち市民一人ひとりが「これからのまち」と「暮らしやすさ」について改めて考える機会となりそうです。

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