日産、追浜工場閉鎖で九州転籍者に給与5年分を補償へ
日産自動車が、神奈川県の追浜工場の生産終了に伴って九州への転籍を希望する従業員に対し、月給の差額を5年分一括支給する補償制度を検討していることが明らかになりました。転籍による給与減少分を手厚く補填することで、従業員の離職を防ぐとともに、円滑な人員シフトを実現しようとしています。
追浜工場閉鎖の背景
日産自動車は2025年7月15日、神奈川県横須賀市に位置する追浜工場の車両生産を2027年度末(2028年3月)で終了すると正式に発表しました。追浜工場は『リーフ』『ノート』『エクストレイル』など、同社を代表するモデルを送り出してきた歴史ある生産拠点です。
この閉鎖は、半導体不足をはじめとするグローバル・サプライチェーンの混乱、急速なEVシフト、そして固定費削減を同時に進める経営改革「Re:Nissan 2025」の一環として説明されています。
給与補償制度の概要
日産が検討している補償制度は、転籍に伴う給与減少を大幅に軽減するものです。具体的には、月給の約1割減となる差額を転籍加算金として補填し、その5年分をあらかじめ一括支給する案となっています。
この仕組みにより、月給が減少した場合でも、補填分を上乗せされることで、実質的な給与低下を抑制することが可能になります。転籍者の給与水準によって異なりますが、1人当たり最大1千万円超が支給される可能性もあり、相当な経済的支援が用意されることになります。
離職防ぐための手厚い対策
追浜工場の周辺には、日産系列を中心とする約110社のサプライヤーが集積しており、これらの企業の売上高に占める日産向け比率は平均68%と推計されています。日産の工場閉鎖は単なる事業再編ではなく、地域経済全体に大きな影響を与えるものです。
従業員の離職を防ぐことは、こうした地域経済への影響を最小化する上でも重要です。日産は希望退職制度と転籍プログラムを2026年4月から始める予定であり、給与補償制度はこの過程で従業員が安心して転籍を選択できるようにするための措置と位置づけられています。
転籍先での新しい機会
追浜工場の生産ラインは主に九州工場へ移管される方針が示されています。九州工場への転籍により、従業員は新しい環境での就業が可能になります。
日産自動車は複数の九州工場を運営しており、これらの施設は電動化やEV生産への対応が進められている重要な生産拠点です。転籍者たちは、日産の経営革新戦略の中核を担う環境で、新たなキャリアを築くことができるでしょう。
経営改革「Re:Nissan 2025」の一環
この補償制度は、日産が進める大規模な経営改革「Re:Nissan 2025」の重要な要素です。同社は急速なEVシフトへの対応と固定費削減を同時に進める必要があり、その過程で生産体制の再構成が避けられません。
2025年12月には移設ラインの詳細設計が完了し、主要設備の移転計画が確定される予定です。そして2026年4月には希望退職制度と転籍プログラムが本格的に始まります。この時間軸を見据えて、日産は従業員の雇用維持と円滑な人員配置に向けた施策を打ち出しているのです。
地域経済への支援体制
日産の工場閉鎖は、追浜工場を取引先とする多くのサプライヤー企業にも大きな影響をもたらします。こうした状況に対応するため、関東経済産業局では2025年8月29日に「日産自動車関連地域経済対策特別相談窓口」を設置しました。
この窓口では、中堅・中小サプライヤーに対して専門家によるアドバイス、公的金融機関による資金繰り支援、補助金事業における優先採択などの支援を行っています。日産の従業員補償制度と並んで、地域全体を支援するための多角的な施策が展開されている状況です。
今後のスケジュール
追浜工場の閉鎖完了までには、約32か月の移行期間が確保されています。工場の完全終了は2028年3月の予定ですが、その前段階として2027年3月に完成車ラインが停止され、試作・補修用ボディ組立のみが残される見通しです。
この期間中に、従業員の転籍、サプライヤーの新規顧客開拓やM&A、設備売却などが段階的に進められることになります。日産の給与補償制度は、こうした一連の変化の中で、従業員が安定した雇用環境を享受できるようにするための施策と言えます。
全固体電池開発への影響
追浜工場の閉鎖に関しては、別の懸念事項として全固体電池開発への影響が指摘されていました。しかし、重要な点として、追浜で閉鎖するのは生産工場であり、総合研究所とテストコースである「グランドライブ」は残されます。
全固体電池の試作は追浜の総合研究所で引き続き行われ、量産に向けた製造は神奈川県内の横浜工場で進められることが確認されています。日産は2028年を目途として全固体電池を搭載した電気自動車を市場投入する計画であり、追浜工場の閉鎖はこの計画に支障をきたさないものと見られています。
まとめ
日産自動車の追浜工場閉鎖に伴う給与補償制度は、転籍による給与減少分を手厚く補填することで、従業員の雇用を維持し、円滑な人員シフトを実現しようとするものです。月給の1割減程度を5年分一括支給する仕組みにより、最大1千万円超の補償が従業員に提供されることになります。
これは、経営改革「Re:Nissan 2025」を推し進める日産が、その過程で発生する人員変化に対して、従業員の立場に配慮した施策を用意していることを示しています。同時に、政府も地域経済対策特別相談窓口を設置し、影響を受けるサプライヤー企業への支援を行うなど、関係者全体で経営危機を乗り越える体制が構築されつつあります。



