致死率40~75%のニパウイルス、インド西ベンガル州で感染拡大 周辺国が警戒態勢
インドで確認されたニパウイルス感染
インド東部の西ベンガル州でニパウイルスの感染が報告され、国際的な警戒が高まっています。インド政府の発表によると、2025年12月から2026年1月27日までの間に確定例は2件確認されており、疑い例を含めると5件の症例が報告されています。
世界保健機関(WHO)は、ニパウイルスの致死率を40~75%と推定しており、流行を引き起こす可能性があるとして優先病原体に位置付けています。現時点で感染を予防するワクチンはなく、治癒させる治療法も存在しません。
感染源となる動物はコウモリ
ニパウイルスの感染源について、オオコウモリが主な媒介動物です。ニパウイルスはコウモリが保有するウイルスで、コウモリとの接触やその体液で汚染された食物を食べることで人間に感染します。
西ベンガル州での発生は季節的なパターンを示しており、通常は1月から4月の間に発生します。これはデーツパームの樹液収穫シーズンと重なり、この時期にコウモリとの接触が増加することが関連しているとみられています。
確定例と疑い例の混同に注意
報道において重要な点は、「確定(confirmed)」と「疑い(suspected)」の区別です。初期段階では疑い例の情報が先に広がりやすく、数字が揺れやすいという特徴があります。
インド保健省は2例の疑いが2026年1月11日にインド医学研究評議会(ICMR)のAIIMSカリヤニにある検査施設で検出されたと説明しています。しかし確定例に関連する接触者196人を追跡・検査した結果、全員が無症状で陰性だったという朗報も報告されています。
周辺国における警戒態勢
西ベンガル州での報告を受け、周辺国は積極的な対応を開始しました。タイ保健省は、ニパウイルス感染者が発生した地域から到着する航空機向けに駐機場を割り当て、乗客に対して入国審査前の健康申告を義務付けています。
ネパールや台湾も同様に対策を強化しており、体温スキャンや有症状者の隔離、入国時の監視強化が実施されています。マレーシアの保健省も、リスクの高い国からの入国者に対し、国際空港や港などの入国地点で健康診断を行うなど対策を強化しています。ハノイもニパウイルスの予防と制御に関する緊急文書を発行し、警戒を強めています。
空港検査の役割と「時間を買う」という戦略
なぜ確定例が少数でも各国は空港検査を強化するのでしょうか。その理由は「完全な水際対策」ではなく、「時間を稼ぐ」ためです。
発熱が出ない潜伏期の渡航者はスクリーニングをすり抜ける可能性があり、質問票も自己申告に依存しています。しかし、これらの検査を実施することで、国内流入の確率を少しでも下げ、医療現場が備える時間を稼ぐことができるのです。確定数が小さくても、初動の数日で封じ込めが決まることが多いため、早期対応が重要です。
今後の焦点と情報管理の重要性
今後の状況は以下の3点に注目されます。第一に、確定例が追加されるのか。第二に、感染経路が動物由来で収束するのか、それとも医療機関などで人から人への連鎖が見えるのか。第三に、公的発表と報道の数字の差が縮むのかという点です。
今回の騒ぎの本質は、病原体そのものの危険性だけでなく、「少数でも早く広がる不安」という情報の伝播が同時進行している点にあります。社会には「最悪を想定しつつ、数字は確定情報で読む」という態度が求められており、行政には疑い例・確定例・検査体制・接触者調査の結果を同じ粒度で継続的に更新する責任があります。
ニパウイルス対応で問われるのは、医療の備えだけでなく、リスクコミュニケーションの精度です。正確で透明性のある情報提供が、社会的な混乱を防ぎ、適切な対応を可能にするのです。



