ニコン、横浜製作所を2025年9月30日で閉鎖へ―事業効率化と今後の影響
株式会社ニコンは2025年8月21日、長年にわたり生物顕微鏡や工業顕微鏡などの精密機器開発・製造を手掛けてきた横浜製作所(神奈川県横浜市)を2025年9月30日付で閉鎖すると正式に発表しました。閉鎖後は、本社および神奈川県内の他拠点へ機能を移管し、開発および生産体制の集約化によるコスト削減と効率化を図るとしています。
横浜製作所閉鎖の背景
横浜製作所は、主に生物顕微鏡・工業顕微鏡・産業機器の研究開発並びに製造、ファインプレートディスプレイ(FPD)用露光装置などの開発において、社内でも重要な役割を担う拠点でした。その起源は半世紀以上前に遡り、国内外の研究機関や医療現場、産業界に質の高い精密機器を供給してきました。しかし、グローバル競争や生産体制の効率化、コスト構造の見直しが求められる中、機能の分散による非効率やコスト負担の増大が今後の事業展開の障害となりつつあったのです。
ニコン側は「本決定は長期的な競争力と経営の持続性確保、機動的な研究開発・製造体制の構築のため」と説明しています。また、近年は製造業・精密機器業界全体において、個別拠点ごとに機能を持たせる方針から、複数機能を一元的に運用する体制への転換が加速しています。今回の閉鎖も、同様の流れに沿ったものといえます。
移転・統合先および今後の流れ
- 本社/イノベーションセンター(東京都品川区)への開発機能移管
- 横須賀製作所(神奈川県横須賀市)および相模原製作所(神奈川県相模原市)への生産機能・一部開発機能の分散移管
これにより、同社は関連する研究・製造部門の物理的距離を縮めるとともに、情報共有や意思決定、リソース活用の効率化を目指しています。また、施設閉鎖後の従業員については原則として他拠点への配置転換を基本方針とし、雇用維持・スムーズな移行に向けた支援策を講じる方針と見られます。
経営インパクトと地域経済への影響
ニコンによれば、今回の閉鎖に伴う「今期業績への影響は軽微」と公表されています。主要製品の開発・生産が途切れることなく他拠点で継続できること、また施設の統廃合で省力化・コスト削減が見込めることが、その理由です。
ただ一方で、横浜市内の製造拠点喪失がもたらす地元経済への影響や、長年地域産業の一翼を担ってきたことによる周辺取引先・下請企業への波及は「今後の検証・取材を要する」とされています。行政や商工会議所等と連携し、円滑な事業移管および地域支援策についても検討が続く見込みです。
横浜製作所の概要とこれまでの実績
- 所在地:神奈川県横浜市栄区長尾台町471
- 敷地面積:約2万m2
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主要業務:
- 生物顕微鏡・工業顕微鏡等の研究開発・製造
- 産業機器・FPD露光装置の開発
特にバイオ・医療分野向けの高精度顕微鏡の開発は、国内外問わず高い評価を受けてきました。ここで生み出された技術は、基礎生物学・創薬・臨床診断まで幅広く活かされています。
今後の注目点
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事業効率化と研究開発力の両立
拠点統合でコスト削減・生産性向上を図る一方、これまで横浜製作所が担ってきた「研究から製造までの一貫体制」が分散することで、迅速な技術革新や現場対応力が維持できるかが問われます。 -
従業員と地域社会への対応
配置転換や産業構造の変化に伴い、働く人と地域経済へのケア・新たな雇用創出の在り方も引き続き重要な論点です。 -
国内製造拠点再編の波及
ニコン以外にも、同様の再編を検討・実施する大手メーカーが数多く、今後の日本の製造業の行方に注目が集まります。
まとめ
ニコン横浜製作所の閉鎖は、単なる設備移転・業務集約にとどまらず、日本の精密機器産業の転換点を象徴する出来事です。グローバル市場で勝ち残るための経営判断と、長年の地域貢献をどう両立させてゆくか。今後の動向、現場と地域の声に、引き続き目が離せません。