日本特殊陶業、デンソーのスパークプラグ・排気センサー事業を1800億円で大型買収

日本特殊陶業がデンソーの「顔」ともいえる基幹事業を買収

日本特殊陶業株式会社(以下、日本特殊陶業)は2025年9月1日、株式会社デンソー(以下、デンソー)スパークプラグ事業および排気センサー事業を買収する契約を締結しました。この買収金額は約1800億円と大型であり、自動車業界だけでなく、多くの産業界に大きな影響を与えています。

今回の買収の経緯と背景

  • デンソーはエンジン部品事業の売却を決断
    デンソーは近年、世界的なカーボンニュートラルへの流れや電動化推進に対応するため、自社の事業ポートフォリオの見直しを進めてきました。エンジン関連製品については、従来から強みであったものの、今後の市場縮小を見据え、スパークプラグや排気センサーといった内燃機関向け部品の譲渡を決定しました。
  • 日本特殊陶業の狙い
    日本特殊陶業は、内燃機関関連部品の世界トップクラスのメーカーとして、現状維持ではなくさらなる成長を目指してきました。今回の買収により、生産能力の強化、製品ラインナップの拡充、グローバルシェアの拡大、さらには既存製品と新製品のシナジー創出が期待されています。

買収の詳細と今後のスケジュール

  • 契約締結日:2025年9月1日(事業譲渡の実行日は未定)
  • 買収金額:1800億円
  • 買収対象の業績:デンソーから譲渡されるスパークプラグ・排気センサー事業の2024年度(2025年3月期)の売上高は約1918億円、2025年3月末時点の資産は約698億円、負債は約313億円と発表されています。
  • 今後の流れ:両社は本契約に基づき、関係官庁への届け出手続きや関係者との最終調整を行い、正式な事業譲渡日を決定する予定です。

自動車産業全体への影響と各社の思惑

今回の買収劇が注目される理由の1つは、「エンジン部品」という自動車産業の根幹分野で、名古屋発の世界的メーカー同士が大きく舵を切ったことにあります。

  • カーボンニュートラルへの社会的要請

    世界的に電動車へのシフトが加速する中で、内燃機関(ICE)関連部品の需要は今後縮小が予想されています。しかし、新興国を中心にしばらくはガソリン車やハイブリッド車の需要も維持されるとの見方も根強く、各メーカーはグローバルでバランスのとれた供給責任を果たす必要があります。

  • デンソー:新たな成長分野への選択と集中

    デンソーは今後、新たな主力と位置づける「電動化」「自動運転」「コネクテッド」「先進安全」といった領域に経営資源を集中させ、競争力のさらなる強化を図る構えです。

  • 日本特殊陶業:主力事業の拡大と技術基盤の強化

    日本特殊陶業は、これまでもスパークプラグやセンサー分野でトップシェアを有していましたが、デンソーからの技術や顧客基盤をそのまま承継することで、より幅広い顧客ニーズへの対応が可能となり、技術開発力やグローバル競争力の強化が大いに見込まれます。

従業員・取引先への影響

今回の事業譲渡で働く従業員や関連取引先についても、両社が原則として「雇用・取引の維持」を基本方針に掲げています。従業員の雇用については、日本特殊陶業グループへの異動や受け入れが想定され、また既存取引先ともサプライチェーンの維持・強化を目指す方針です。

今後の展望と課題

  • 内燃機関部品の現実的な存在意義
    カーボンニュートラル実現に向けた動きが急速ですが、世界ではまだしばらくガソリンエンジンやディーゼルエンジン車が重要な役割を果たします。日本特殊陶業は、環境対応技術も活用し、脱炭素移行期間を着実に乗り切ることが期待されます。
  • 電動化時代における生き残り戦略
    今回の事業統合は、将来的な電動車市場の拡大を見据えつつ、現状の内燃機関系ビジネスを最大限活用する「両利き経営」の象徴ともいえます。
  • 技術・人材の承継とイノベーション
    多様化する自動車技術への対応力強化とともに、両社が持つ高度な技術・人材の融合によるイノベーション創出にも期待が高まっています。

まとめ

日本特殊陶業によるデンソーのスパークプラグ・排気センサー事業の1800億円買収は、単なる企業間のM&Aに留まらず、世界的な自動車産業の大転換期における「適応と成長可能性」を映し出したビッグニュースといえるでしょう。今後、両社がそれぞれの強みを活かしてどのような技術革新や市場展開をみせていくのか、引き続き注目を集めそうです。

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