ネットフリックス2025年7~9月期決算:過去最高の売上高も税務問題で株価急落

米動画配信大手のネットフリックスが2025年10月21日に発表した2025年第3四半期(7~9月期)の決算は、売上高が前年同期比17%増の115億1000万ドル(約1兆7000億円)と過去最高を記録し、力強い成長を維持しました。日本の人気作品「今際の国のアリス」やアニメ「KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ」などのヒット作が業績を牽引し、ストリーミング事業の拡大が続いています。

しかし、ブラジル税務当局との予期せぬ税務紛争に関連して約6億1900万ドルの一時費用が発生し、営業利益率が市場予想を下回る結果となりました。この影響で、決算発表後の時間外取引で株価は約6%急落し、翌日の22日には前日比10.06%安の1116.37ドルで終了しました。

売上高は過去最高も利益面で市場予想を下回る

第3四半期の売上高115億ドルは市場予想と一致し、前年同期比17%増と堅調な成長を示しました。これは会員数の増加、価格調整、そして広告収益の拡大が主な牽引要因となっています。米国と英国では視聴シェアが過去最高を更新し、プラットフォームとしての存在感をさらに高めています。

一方で、純利益は25億5000万ドル(前年同期比8%増)、希薄化後の1株当たり利益は5.87ドルとなりましたが、アナリスト予想の30億ドル、6.97ドルをともに下回りました。営業利益は32億ドル(同12%増)で、営業利益率は28.2%と、市場予想の31.5%を大きく下回る結果となりました。

ブラジル税務問題が利益を圧迫

利益が市場予想を下回った主因は、ブラジル当局との税務紛争に関連する約6億1900万ドルの一時費用が発生したことです。この費用は過去数年分(2022年から2025年)の課税対象に関わるもので、予想外の計上となりました。

ネットフリックスはこの一時費用について、「今後の業績に重大な影響を与えることはない」との見解を示しています。実際、この一時的なコストを除けば、営業利益率はガイダンスを上回る水準にあり、実質的な業績は堅調といえます。しかし、この影響により、同社は2025年12月期通期の営業利益率見通しを従来の30%から29%へ引き下げました。

広告事業が急成長、収益の新たな柱に

今回の決算で注目すべきポイントの一つが、広告事業の急成長です。広告事業は過去最高売上を記録し、2025年通期では収入が前年比2倍超となる見通しです。従来の会員制サブスクリプションモデルに加えて、広告収入が新たな収益源として確立されつつあります。

この広告事業の成長は、ネットフリックスのビジネスモデルの多様化を示すものであり、今後の収益拡大に大きく貢献することが期待されています。同社は広告モデルの急成長を通じて、より幅広い視聴者層へのリーチを拡大しています。

地域別業績:北米・欧州が収益の柱、アジア太平洋も急成長

地域別では、北米と欧州が収益の柱を維持する一方で、アジア太平洋地域が21%成長と新興市場の勢いも継続しています。特に日本のコンテンツが国際的に注目を集めており、「今際の国のアリス」などの作品が世界中で視聴されています。

アニメ「KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ」は同社史上最高の視聴率を記録し、業績を支えました。このようなグローバルヒットが相次ぎ、オリジナルIPのブランド化と国際展開が着実に進展しています。

AI戦略とIP投資で新たな成長ドライバーを構築

ネットフリックスは、AIを制作・広告・体験の中核に据える戦略を明確化し、効率性と創造性を両立させる新たな競争優位を築きつつあります。AI技術を活用することで、コンテンツ制作の効率化や視聴者体験の向上、パーソナライズされた広告配信などを実現しています。

また、同社はIP(知的財産)投資にも積極的で、配信だけでなく映画館での上映やグッズ展開など、多角的な収益化を進めています。これにより、単なる配信プラットフォームから総合エンターテインメント企業への進化を本格化させています。

フリーキャッシュフローは大幅改善、通期見通しを上方修正

財務面での明るい材料として、フリーキャッシュフローは26億6000万ドルと前年を大きく上回りました。この好調な資金繰りを受けて、同社は通期見通しを90億ドルへ上方修正しました。

これは、ネットフリックスのビジネスモデルが成熟期に入り、安定的なキャッシュ創出能力を持つようになったことを示しています。投資家にとっては、一時的な税務費用による利益圧迫よりも、このような本業の強さが重要な判断材料となります。

投資家の反応と今後の展望

決算発表を受けて、投資家は失望感を示し、株価は時間外取引で約6%下落しました。前日までの年初来では39%上昇していただけに、市場予想を下回る利益と営業利益率見通しの下方修正は、投資家にとって大きなネガティブサプライズとなりました。

しかし、ブラジル税務費用という一時的な要因を除けば、基礎的な成長トレンドは極めて健全です。売上高の17%成長、広告事業の急成長、フリーキャッシュフローの大幅改善など、本業の強さは明確に示されています。

中長期的な成長シナリオ

今後のネットフリックスは、「広告」「AI」「IP拡張」「ライブ配信」を軸に、ストリーミングを超えた総合エンターテインメント企業への進化を本格化させます。短期的には為替やコスト要因の不確実性は残るものの、中長期ではデータ・技術・ブランド力を融合した多層的成長モデルにより、持続的な利益拡大が期待されます。

特に広告事業は、従来のサブスクリプションモデルに加えて、新たな収益の柱として急成長しており、2025年通期では前年比2倍超の収入が見込まれています。この多様化された収益構造が、今後の安定成長を支える基盤となるでしょう。

まとめ:一時費用に揺らがない本業の強さ

2025年第3四半期のネットフリックスは、ブラジル税務費用による一時的な減益を除けば、売上・キャッシュフローともに好調な内容でした。売上高は前年同期比17%増の115億ドル、営業利益は32億ドル、フリーキャッシュフローは26億6000万ドルと前年を大きく上回り、通期見通しも90億ドルへ上方修正されました。

市場の短期的な失望は理解できるものの、今回の決算は「一時費用に揺らがない本業の強さ」と、「ポスト配信時代の進化シナリオ」を同時に示した内容といえます。広告事業の急成長、AI戦略の推進、グローバルIPの展開など、ネットフリックスは新たな成長ステージに入っており、長期投資家にとっては引き続き魅力的な投資対象といえるでしょう。

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