モーニングショー発 「配管工で年収3倍」アメリカ発ブルーカラービリオネア現象とは

テレビ朝日系「モーニングショー」などで取り上げられ、今大きな話題になっているのが、アメリカで進む「ブルーカラービリオネア」現象です。経理から配管工へ転身して給与が3倍になったという具体的な事例は、日本の視聴者にも大きなインパクトを与えました。

ここでは、この現象の背景にあるアメリカの働き方の変化と、AI時代の仕事観の転換、そして日本への影響について、モーニングショーでの議論内容とも重ねながら、やさしく整理してお伝えします。

アメリカで起きている「ブルーカラービリオネア」現象とは

ブルーカラービリオネアとは、本来は高年収のイメージが強いホワイトカラーではなく、配管工や電気技師、空調整備士などの「肉体を使う技能職(ブルーカラー)」が、高収入を得て豊かな生活を送るようになっている現象を指します。

アメリカでは、配管工・空調整備士・電気技工士などの年収が1,600万円を超える水準に達している例も報告されており、「医者より稼ぐ時代」という表現すら使われています。 もちろん全員がそうではありませんが、「手に職」の価値が一気に見直されているのが今のアメリカです。

この背景には、AIや自動化の進展により、事務職や一般的なオフィスワークなど、ルーティン的なホワイトカラーの仕事の一部が代替されつつある一方で、現場での施工・修理・保守といった仕事内容は、依然として人間の手と経験が不可欠であるという事情があります。

「経理から配管工へ」給与3倍という転身のリアル

モーニングショーで紹介されたニュースでは、アメリカで経理職から配管工へ転身し、給与が3倍になったというケースが取り上げられました。

経理や一般事務といった仕事は、多くの企業でAIや専用ソフトの導入が進み、「一人あたりが担当する業務量は増えるのに、賃金はそれほど上がらない」という構図が生まれています。一方で、配管工は以下のような理由から、需要が高まり賃金も上昇しています。

  • インフラ維持に不可欠であり、仕事が景気に左右されにくい
  • AIやロボットでの完全代替が難しく、熟練がものを言う
  • 人手不足が深刻で、依頼が途切れにくい
  • 独立・起業すれば、事業主として収入の上限が広がる

アメリカでは、配管や電気、空調などの技能工として経験を積み、その後自ら施工会社を立ち上げて、売上数百万ドル規模の企業へと成長させるケースも紹介されています。 こうした人々が象徴的な「ブルーカラービリオネア」として語られているのです。

AI時代に問われる「価値」の転換 ― 浜田敬子さんの視点

日曜コラム「虫の目 鳥の目」でジャーナリストの浜田敬子さんは、AI時代における仕事の価値について、「どこで、何に価値を見いだすか」の転換が起きていると指摘しています。この議論は、モーニングショーのテーマとも深くつながっています。

これまで日本社会では、「良い大学 → 大企業のホワイトカラー職」というルートが、安定と高収入の王道とされてきました。しかし、アメリカで起きている変化は、「学歴よりもスキル」「オフィスワークよりも現場の技能」が評価される場面が増えていることを示しています。

浜田さんは、AI時代においては、単に「知識を持っている人」ではなく、以下のような人材に価値が移っていくと論じています。

  • 現場で問題を発見し、手を動かして解決できる人
  • 顧客と対話しながら、状況に合わせて柔軟に対応できる人
  • チームで協働し、人をまとめて仕事を進められる人
  • AIやデジタルツールを使いこなしつつ、「最後の判断」を担える人

このような視点は、「肉体労働 vs 頭脳労働」という単純な二分法ではなく、現場に根ざした総合的なスキルの価値を問い直すものです。

なぜアメリカで「肉体労働」回帰が加速しているのか

アメリカで技能工の価値が高まっている要因として、専門家や記事では次のような点が挙げられています。

  • AI・自動化の進展:事務・オフィス系ホワイトカラーの仕事の一部がソフトウェアで代替され、賃金上昇が鈍化している。
  • ベビーブーマー世代の大量引退:熟練技能工の高齢化・引退で、現場の人材が一気に不足している。
  • 職業訓練校への注目:テキサス州の職業訓練学校では、過去1年で入学者が20%増えるなど、技能取得への関心が高まっている。
  • 政策支援:政府が製造業回帰や技能養成を支援し、職業訓練プログラムへの奨学金支給などを拡充している。
  • 現場ニーズの増大:老朽化したインフラや設備の更新・メンテナンス需要が高まり、技能工への依頼が途切れにくい。

こうした要因が重なり、アメリカでは「4年制大学の学費を払っても、卒業後に就職先が見つからない」若者がいる一方で、「2年制の職業訓練校で技能を身につけた人材は、卒業前から企業からの引き合いが殺到する」という逆転現象が起こっています。

日本でも起こる?「数年以内に」の指摘

モーニングショーで紹介された論点のひとつが、「このアメリカの流れは、数年以内に日本にも本格的に波及するのではないか」という見方です。

すでに日本でも、建設業や設備工事、電気・配管・空調などの分野では、深刻な人手不足が続いており、給与水準の見直しや、待遇改善の動きが見られます。 また、インフラ老朽化への対応や、脱炭素社会に向けた設備投資など、中長期的に現場の技能に依存する仕事は増えるとみられています。

一方で、日本では依然として「大学進学率の高さ」や「事務系総合職の人気」が根強く、「ブルーカラー=きつい・きたない・危険」というイメージが残っている面もあります。この意識のギャップが解消されない限り、アメリカのような劇的な「回帰」はすぐには起こらない、という見方もあります。

しかし、AIの進展ペースや労働人口の減少スピードを考えると、「学歴よりもスキル」「オフィスより現場」という価値観の変化は、時間の問題とも言えます。モーニングショーでの議論が大きな反響を呼んだのは、多くの視聴者がすでにその兆しを肌で感じているからかもしれません。

日本の若者や転職希望者にとって何を意味するか

では、日本でこれから働き方を選ぶ若者や、転職を考えている人にとって、このニュースはどんな意味を持つのでしょうか。ニュースや各種解説記事から見えてくるポイントを、やさしく整理してみます。

  • 「手に職」の価値を見直すタイミング
    これまで「大学卒業後のホワイトカラー」が安定というイメージが強かった日本でも、AIや人口減少の影響で、その前提が揺らぎつつあります。配管工、電気技師、設備保全など、現場系の技能は、長期的に需要が見込める分野として改めて注目されています。
  • 学歴だけでなく、スキル・経験でキャリアを描く
    ブルーカラービリオネア現象は、「学歴だけでは職が守れない時代」に入っているという警鐘でもあります。 職業訓練校や専門学校で技能を身につけたり、現場で経験を重ねたりするルートも、立派なキャリアの選択肢です。
  • AIに代替されにくい仕事を意識する
    すべての仕事がAIに取って代わられるわけではありませんが、「ルーティン化しやすい仕事」ほど影響を受けやすいと指摘されています。 人と直接向き合う仕事、現場で臨機応変に対応する仕事、身体を使う仕事などは、相対的に代替されにくい領域とされています。
  • キャリアの「やり直し」は十分に可能
    経理から配管工へ転身して収入を大きく増やしたアメリカの事例は、「一度選んだ職種に縛られなくてよい」というメッセージにもなっています。 日本でも、30代・40代から技能を身につけて現場職に転じる人は少しずつ増えています。

モーニングショー的に言えば、「働き方の常識」を一度疑ってみる

今回のモーニングショーでの特集が多くの反響を呼んだのは、単に「アメリカでは配管工が儲かっている」という話題性だけではなく、「そもそも私たちが信じてきた働き方の常識は、本当に正しいのか?」という疑問を投げかけたからだと言えます。

AI時代の仕事をめぐる議論では、「人間にしかできない仕事は何か」「私たちはどこに価値を見いだすのか」という問いが避けて通れません。浜田敬子さんのコラムが提起するように、虫の目(現場のディテール)と鳥の目(社会全体の構造)の両方から、仕事の価値を見直すことが重要になっています。

「ブルーカラービリオネア」という少し刺激的な言葉の裏側には、働き方の選択肢が広がっているという、ポジティブな側面もあります。大事なのは、「どの仕事が偉いか」ではなく、「自分がどんな価値を提供できるか」「どのように学び続けられるか」を、自分の頭で考えて選ぶことです。

モーニングショーの一連の報道は、そんな「仕事との向き合い方」を、改めて問い直すきっかけを私たちに与えてくれています。

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