商船三井、2026年3月期決算発表――業績予想を大幅下方修正、配当は増額に
商船三井(証券コード【9104】)は、2025年11月4日に2026年3月期第2四半期連結決算を発表し、今期の業績予想を複数の分野で下方修正しました。海運市況の変動やコンテナ船事業を中心とした厳しい外部環境の影響により、企業としての大きな転換点となる内容となっています。一方、株主還元の一環として年間配当予想は増額修正され、さまざまな視点から注目を集める決算となりました。
2026年3月期上期決算の概要
- 売上高:8,697億7,200万円(前年同期比3.4%減)
- 営業利益:718億2,300万円(19.6%減)
- 経常利益:1,146億700万円(54.3%減)
- 親会社株主に帰属する当期純利益:1,162億900万円(53.3%減)
2026年3月期第2四半期(2025年4月~9月)の売上、利益の全指標で前年同期比で減少しました。特に経常利益や純利益は半減となり、市況の悪化やコスト増が業績に強く影響したことがわかります。
セグメント別の業績動向
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ドライバルク事業:売上高は2,184億円(10.3%減)、経常利益はわずか1億円(98.6%減)。
大型バルカー(ケープサイズ)は、西アフリカの雨期の影響でボーキサイトの出荷が一時停滞しましたが、鉄鉱石の出荷は堅調でした。中型・小型バルカーも中国の石炭輸入増加等によって市況は底堅く推移しましたが、全体としては利益が大きく減少しました。
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エネルギー事業:売上高2,521億円(1.9%増)、経常損失は155億円(損失幅24.6%減)。
エネルギー事業は損益面で改善基調が見えたものの、事業全体の成長には要注意の状況です。
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製品輸送事業:売上高2,997億円(5.1%減)、経常損失は635億円(損失幅64.7%減)。
自動車輸送は堅調に推移したものの、全体として前年同期比でのマイナス成長となりました。
通期見通しの下方修正――背景とその影響
商船三井は、2026年3月期通期の業績予想を大幅に下方修正しました。
- 売上高:1兆7,500億円(前期比1.4%減、従来予想から増額)
- 営業利益:1,040億円(31.1%減)
- 経常利益:1,520億円(63.8%減、従来予想から11%下方修正)
- 親会社株主に帰属する当期純利益:1,800億円(57.7%減)
従来予想より経常利益は約11%下方修正されました。原因は、コンテナ船事業における新造船の供給圧力や中国の国慶節後の需給悪化により、運賃相場が低迷していることが挙げられます。また、2025年10月~2026年3月にかけての下期連結経常利益は373億円と推算されており、前年同期比77.8%減になる見通しです。
コンテナ船事業の環境変化と収益圧迫の実態
世界的な物流の正常化が続くなか、海運業界は新造船の大量投入によって供給過剰気味となっています。特にコンテナ船市況は「コロナ特需」による高騰から正常化が進み、過去の高収益を維持できない状況です。加えて、中国経済の減速傾向や世界需要の不透明感、燃料価格の高止まりなども逆風となりました。
収支については、主力であったコンテナ船事業が想定以上に下振れしており、従来の利益予想の維持が難しくなっています。商船三井自身も市況悪化だけでなく、コスト削減や収益多角化への積極的な取り組みの必要性が増してきています。
株主への還元――配当予想は25円増額に
一方で商船三井は、配当金の増額を発表しています。年初の予想では年間配当175円でしたが、25円増額し200円(前期は360円)の見込みとしました。期末配当は従来見通しより25円増配し115円(中間配当は85円)となる予定です。
- 配当増額の狙いは、企業価値向上への意志のほか、株主への安定した還元姿勢の強調にあります。
- ただし、減配幅が大きく「コロナ特需」後の配当ピーク比では大きな水準調整ともいえます。
投資家・市場の反応――株価は急落
決算発表を受け、同日の株式市場では商船三井株の後場急落が観測されました。業績予想の下方修正が嫌気されたためと見られています。特に純利益の大幅減やコンテナ船市況の先行き不安、配当減との相乗効果で心理的な警戒感が強まっています。
直近数ヶ月間、世界の海運・物流関連はコスト高・需給変動など不透明感が高く、業績予測の精度や各社の持続的な利益確保能力への市場評価が厳しさを増しています。商船三井も例に漏れず「利益実力」が問われ、市場との信頼関係構築に一段の努力が求められる状況です。
今後への課題と会社の戦略
今回の決算と業績予想修正を受けて、商船三井は次のような戦略課題に直面しています。
- コンテナ船依存からの脱却と事業ポートフォリオの多様化
- エネルギー・自動車輸送事業など、安定収益分野の事業基盤強化の必要性
- コスト構造の見直しや効率化、持続的な企業価値向上への体制構築
- 気候変動対策・環境関連投資、新造船の運用効率化など未来志向型の企業経営
- 株主・投資家への一貫した還元姿勢の維持と、中長期的な成長期待の訴求
実際、商船三井では既存のグループ経営計画「BLUE ACTION 2035」を推進しています。次世代エネルギー事業への注力、AIやデジタル活用による効率化、グリーンシッピング(脱炭素)の実現を視野に入れ、安定収益体制への転換を目指していく方針です。
まとめ――商船三井の現状とこれから
2026年3月期・第2四半期決算により、商船三井の収益構造の課題と成長戦略への転換期にある現実が浮き彫りになりました。直近の業績は厳しいものとなりましたが、企業としては変革と持続的成長に向けて新たな施策を積極化しています。一方で、株主還元への姿勢は崩さず、長期視点での企業価値向上に取り組む姿勢が見受けられます。
世界的な物流・供給網の変革期、商船三井という「日本最大級の総合海運会社」が今後どのような転換をもたらし、新たな航路を切り拓いていくのか。その舵取りから、引き続き目が離せません。


