三井物産とマイクロ波化学が推進する低炭素リチウム鉱石製錬技術
2025年9月、三井物産株式会社とマイクロ波化学株式会社は、マイクロ波を用いた低炭素リチウム鉱石製錬技術の共同開発において、大きな節目となる実証試験用パイロット機の完成と試験開始を発表しました。EV(電気自動車)に欠かせないリチウムは、安全保障やカーボンニュートラルの観点からその安定供給と環境負荷低減が急務となっています。両社は最新技術でその課題克服に挑み始めました。
リチウム製錬と環境への課題
リチウムは、電池材料として世界中で急速に重要性が高まっています。リチウム鉱石を製錬し金属や化合物へ変換する過程では、主に化石燃料を利用した高温プロセス(煆焼かしょうなど)が使われてきましたが、これが大量のCO2排出をもたらしてきました。地球温暖化対策が叫ばれるなか、リチウム製錬の環境負荷削減は、産業界にとって大きな課題となっています。
- リチウムは電気自動車(EV)のバッテリーに不可欠
- 従来のリチウム鉱石処理は化石燃料使用による多量のCO2排出の課題がある
- 経済安全保障やグリーン社会に向けて安定かつクリーンな供給方法の確立が喫緊の課題
マイクロ波化学と三井物産による共同開発
低炭素技術の切り札として、マイクロ波を使ったリチウム製錬法の実用化に向けて両社は2023年に共同開発契約を締結しました。これまでの技術では、鉱石の加熱(煆焼)工程がCO2排出の中心となっていましたが、このプロセスの電化とマイクロ波照射による直接加熱を組み合わせることで、熱効率の向上とCO2排出削減の両立を目指しています。
- マイクロ波加熱は物質を内部から均一に短時間で加熱でき、化石燃料に依存する必要がない点が特徴
- 加熱効率が上がることで省エネルギー化も実現可能
新開発パイロット機の特徴と実証試験
2025年、大阪市住之江区のマイクロ波化学・大阪事業所にて、連続的な鉱石煆焼処理を可能にする新型のマイクロ波昇温装置を用いたパイロットプラントが完成。年間約700トン規模での試験運転を始めています。
- リチウム鉱石の連続処理能力を備えた装置を開発
- 実証運転によりCO2排出を大幅に減らす省エネ・低炭素製錬技術の有効性を検証
- 商業化は2030年ごろを目指している
カーボンニュートラル社会へのインパクト
カーボンニュートラル(脱炭素)目標に向け、三井物産は2050年ネットゼロエミッション、2030年時点で2020年度比での温室効果ガスインパクト半減を社の方針としています。新技術実用化により安定したリチウム供給体制の確立とともに、トータルな排出削減、ひいては環境負荷低減に貢献しようとしています。
また、マイクロ波化学では自社ビジョン「C NEUTRAL TM 2050 design」のもと、長く変わらなかった化学産業の脱炭素化に挑み、「マイクロ波プロセスを新たな標準」とすることを目指しています。
社会的背景と今後の展望
電動化が進む現在、リチウムは日本のみならず先進国で経済安全保障上の「重要鉱物」として法的にも定義され、各国で安定サプライチェーン(供給網)の強化が急がれています。低環境負荷・高効率な製錬技術を確立し、商業展開を成功させることが今後のEV普及と持続可能な社会実現の鍵となります。
- 浮き彫りになる地政学的リスクや輸送コスト上昇への備えとして、国内外の新規鉱山・製錬所への技術導入を推進
- 最先端技術によるCO2排出低減が産業界全体の競争力強化・国際的な環境規制対応にもつながる
- 三井物産やマイクロ波化学以外にも多様な産業プレーヤーが低炭素化を重要視する時代
マイクロ波化学と三井物産、両社それぞれの役割
- 三井物産株式会社
- 総合商社として資源から流通・サプライチェーンの強化に取り組む
- 脱炭素社会実現のため企業戦略に温室効果ガス削減目標を明記
- マイクロ波化学株式会社
- 独自のマイクロ波化学プロセスにより化学産業の環境負荷低減に寄与
- 多分野にまたがるマイクロ波応用で革新的な製造プロセスを開発中
まとめ:持続可能な未来へ挑む両社
持続可能な社会、そして先進的なものづくりの実現を目指し、三井物産とマイクロ波化学は異業種連携の形で「グリーンなリチウム製錬技術」の社会実装に挑んでいます。今後は技術の更なる実証と商業化、国内外への普及に向けた取り組みが加速するとみられます。リチウム供給網のグリーン化は、経済・環境・産業すべてに貢献する新たな一歩となるでしょう。