三菱ふそうに下請法違反で公正取引委員会が勧告へ―金型無償保管問題が浮上
三菱ふそうトラック・バス株式会社(以下、三菱ふそう)は、2025年10月27日時点で、日本の完成車メーカーとしては初めて、公正取引委員会(公取委)から下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法)違反に基づく勧告を受ける見通しであることが伝えられました。中心となった問題は、下請企業に金型の無償保管を強いた点にあります。今回の公取委の動きは、自動車業界と下請法のあり方を巡る大きな注目を集めています。
公正取引委員会の勧告とは?
公正取引委員会は、市場の公正な競争を確保する独立行政機関です。下請法は親企業による優越的地位の乱用や不当な取引条件の押し付けを禁止しており、違反が認定されると勧告などの行政措置が取られます。今回の三菱ふそうへの勧告は、コスト負担の押し付けという観点で非常に象徴的な事例となります。
- 三菱ふそうは完成車メーカーとして初めて金型無償保管で勧告対象に
- 公取委は自動車アフターマーケット各社にも監視強化
「金型無償保管」問題の内容
三菱ふそうが下請事業者に金型や治具といった製造設備を貸与し、それを使った部品の発注を長期間行っていなかったにもかかわらず、企業の所有物である金型を下請け会社側に無償で保管させていたことが判明しました。このような行為は、「不当な経済上の利益の提供要請」に当たり、明確に下請法第4条第2項第3号に違反します。
- 下請企業は三菱ふそうのために金型を保管、そのためのコストを負担していた
- 三菱ふそうは発注を再開せず、金型の利用価値が下請け企業側にない状態でコストが発生
- 完成車メーカーがこのパターンで勧告を受けるのは前例がない
過去の同種事例と今回の特徴
これまでにも、家電や産業機械、部品業界などで「金型の無償保管」に関する勧告事例はありましたが、完成車メーカーが公正取引委員会から同様の勧告を受けるのは今回が初めてです。自動車産業は裾野が広く、部品のサプライヤーが多いことから、完成車メーカーと下請企業の力関係が固定化しやすいという構造的背景も影響しています。
- 従来は部品メーカーや関連業種での勧告例が多かった
- 完成車メーカーが対象となることで、業界全体に与えるインパクトが大きい
- 取引構造の見直しやコンプライアンス姿勢が改めて問われている
公正取引委員会による近年の下請法違反勧告(参考)
公取委による下請法違反に関する近年の主な事例を見ると、以下のような内容が確認されています。
- 自動車部品メーカーが金型や治具を無償保管させ、部品発注を行わなかった(2024~2025年複数例)
- 金属製品メーカーが品質検査を行わずに返品を強制(2023~2024年)
- 暖房・空調機器メーカーが金型を無償で保管させる(2024年)
このような事例が相次いで取り沙汰される中で、特に裾野の広い自動車産業へと監督の目が向けられる流れとなりました。
なぜ金型無償保管が下請法違反になるのか
下請法は、親事業者が下請け事業者に対し、不当に経済上の利益(コストや在庫、管理負担など)を押し付ける行為を禁じています。金型の所有権が発注元にある場合、その保管・管理費用も基本的には発注元が負担すべきものです。しかし、三菱ふそうの場合、長期間にわたり金型の使用がないにもかかわらず、継続的に無償で保管させていたことが問題視されました。
- 金型の維持・管理にはスペース・人件費・維持費などコストが発生
- 下請企業は利益を得られないままコストだけ負担していた
- 「優越的地位の濫用」と評価され、下請法に触れる
三菱ふそうのこれまでの対応とコメント
本件発覚後、三菱ふそうは一部報道を受けて「当社に関する一部報道について」とのコメントを発表しています。具体的な対応策や再発防止策の詳細は現時点で発表されていませんが、同社は事実関係を真摯に受け止める姿勢を示しました。
日野自動車や業界全体の波紋
三菱ふそうを含む大型自動車メーカーへの当局による勧告は、業界全体への警鐘ともなっています。日野自動車など他の完成車メーカーについても、価格交渉や下請け企業への負担のあり方が厳しく見直される機運が強まっています。特に昨今の原材料費や物流費の高騰を背景に、価格転嫁や取引条件の見直しを巡る話題が多発していました。
- 業界は長年「親会社が強い」構造が続いてきた
- サプライチェーン全体の公正化・健全化に向けて新たな動きが活発化
- 下請け中小企業保護の観点からもより一層の監督強化が予想される
下請法違反がもたらす企業イメージと今後の課題
下請法違反勧告は、企業イメージや信頼性にも大きな影響を与えます。これによりサプライチェーン全体で「適正なコスト負担」や「協議のあり方」がより強く問われることになります。三菱ふそうをはじめとした完成車メーカー各社は、法令遵守を徹底し、サプライヤーとの健全な関係構築に向けて再発防止策を検討・実施しなければなりません。
- 下請法違反は社会的信用の失墜につながるリスクが高い
- 下請け企業の持続可能な発展のためにも、抜本的な取引慣行の見直しが不可欠
- 今後はコンプライアンス経営の強化と透明性の向上が業界全体に求められる
消費者や社会にとっての意義
消費者や社会にとっても、この問題は見過ごせない意義があります。健全な企業活動とサプライチェーン全体の公正さは、長期的に見れば産業基盤の安定や質の高い製品の安定供給、そして経済社会全体の持続可能な発展につながります。
- 下請け企業が不当な負担を強いられれば、産業全体の健全な成長が損なわれる
- 消費者にも「安定供給」や「適正価格」にかかわる問題
まとめ―今後の業界動向に注目
三菱ふそうに対する今回の下請法違反勧告は、自動車産業のみならず多様な業界で、サプライチェーンの取引慣行や企業倫理、そして法律遵守のあり方が問われる転機となります。下請け企業と親事業者の間にあった力関係の見直しが進む可能性も高く、今後の業界全体の動向が注目されます。
消費者、取引先、そして社会全体の信頼に応える企業努力と透明性のある公正な取引が、これからの日本経済を支える大きなテーマとなることでしょう。



