三菱電機、1.3兆円の事業見直しと成長戦略
三菱電機は2025年、「10兆円クラブ」入りを目指す大規模な構造改革と成長戦略を発表しました。およそ1.3兆円にのぼる事業の見直しや1兆円規模のM&A(合併・買収)など、大胆かつ実質的な変革が進行中です。この記事では、同社が掲げる変革の全体像、石間啓社長によるパワー半導体分野の再編戦略、そして過去の品質不正問題を乗り越えて持続的成長に挑む風土改革まで、2025年の三菱電機の動きを詳しくお伝えします。
「10兆円クラブ」入りへの布石:1.3兆円の事業見直し
三菱電機は「IR Day 2025」にて、グローバルで圧倒的存在感を持つ「10兆円クラブ」への仲間入りを目標に掲げ、その布石となる施策を明らかにしました。
まず2025年度中に約8,000億円規模の事業の保有可否を見極める方針が示され、成長に寄与しない分野は終息や統廃合を進め、市場での競争力を強化します。こうした選択と集中の姿勢は、「イノベーティブカンパニーへの変革」を実現するための⼟台となります。
- 収益改善や効率化のため、不採算事業からの撤退を含む事業構造改革を推進
- 2025年度までに8,000億円規模の事業の将来性を評価
- 事業見直しや投資再配分により持続的な成長分野への経営資源の集中を図る
さらに、新規投資にも積極姿勢を打ち出しており、今後3年間で1兆円のM&A投資枠を設定。HVAC(空調)、インダストリー分野をはじめとしたグローバル市場で勝てる事業領域を強化していく計画です。
経営体質強化とデジタル変革
事業見直しと並び、経営体質の強靭化も三菱電機の大きな方針です。2025年度までに関係会社数の3割削減を目標に統廃合・集中購買を進めつつ、サプライチェーン改革や資本の最適化、間接費の抑制を施策の柱とします。
- グローバルサプライチェーンの強化
- 部材や製品の共通化、企業規模を活かした集中購買でコスト削減
- DX(デジタルトランスフォーメーション)・AI導入による業務改善
- 営業利益率・ROEともに過去最高水準を見込むとの発表
今後も「Serendie」などデジタル技術を土台にしたビジネスモデル変革を推進していくとされ、「データ活用宣言」によるデジタルシフトの姿勢も公表されています。
パワー半導体で世界競争—漆間啓社長のインタビューより
三菱電機は、自社の強みの一つであるパワー半導体分野での世界的なリーダーシップを再確立するべく、大規模な再編と投資を進めています。漆間啓社長はインタビューで、次世代パワー半導体の開発力、グローバル生産体制の強化、そして製品ラインナップの拡充が不可欠であると述べています。
- 電動車(EV)、再生可能エネルギー分野の拡大に合わせ、需要の急拡大が続く
- パワー半導体は市場競争が激しく、中国、欧州メーカーとの競争も激化
- 次世代シリコンカーバイド(SiC)半導体や新技術への投資強化
- 国内外での生産拠点強化と、サプライチェーンの強靭化
この分野の再編によって三菱電機は、電動車や省エネインフラの需要を取り込み、グローバル市場に向けて成長ドライバーを確立しようとしています。なお再編の具体策としては、既存事業の統合、戦略提携、M&Aを通じた事業規模の拡大が想定されています。
パワー半導体とは?
パワー半導体は、大きな電力を効率よく制御する電子部品で、電気自動車や太陽光発電、産業用モーターなどさまざまな最新技術の心臓部です。この分野の技術革新は、脱炭素社会の実現や電動化社会への転換にとって不可欠なものとなっています。
不正問題克服から「自走化」へ—専門部署設置による風土改革
三菱電機は、品質不正問題が発覚してから4年が経過しました。2021年に明らかになったこの問題は、グループ全体の信頼性を揺るがし、厳しい社会的批判とコンプライアンスの欠如を露呈させました。同社は再発防止と企業体質の改善、そして倫理意識の醸成に取り組み続けてきました。
風土改革の進捗と展望
- 2025年度に「自走化」すなわち自律的な内部統制が根付く企業文化を目指す
- 専門部署を新設し、品質とコンプライアンス、企業倫理の徹底を担う
- グループ横断的な体制づくりによる情報共有と早期課題発見・是正
- 従業員意識の変革と内部通報制度など、新たな仕組みの強化
三菱電機としては、「再発防止策の徹底」と「組織風土改革」を両輪とし、経営トップのコミットメントのもと専門部署によるモニタリング体制の強化を図っています。「自走化」は、外部の監視や指導だけに頼らず、現場自らが自律的・能動的に課題を把握し是正していく体制を意味します。これは、日本の大手メーカーとして類似不正が繰り返された歴史への強い反省と、持続可能な成長に向けた責任ある姿勢の表れです。
2025年度業績見通しと今後のビジョン
三菱電機の2025年度の業績(2026年3月期)は堅調に推移しており、売上高5兆4,000億円、営業利益4,300億円、営業利益率は過去最高の8.0%に到達する見通しです。企業価値の最大化と「持続的な成長」のため、経営戦略、技術戦略、ガバナンス改革が同時に進められています。
今後の展望
- 新成長分野(パワー半導体・HVAC・デジタルソリューション等)への事業シフト
- 地球規模のサステナビリティ推進と経済成長の両立
- コーポレートガバナンスの継続的強化とグローバル競争への対応
三菱電機の2025年は「再生と成長」「挑戦と信頼回復の年」として歴史に刻まれるでしょう。「10兆円クラブ」を見据えた果敢な経営選択、パワー半導体を中心とした新たな成長ドライバー、不正問題の徹底的な克服により、グローバル企業として更なる未来を切り開こうとしています。三菱電機の挑戦は、これからも多くの関係者から注目され続けます。


