三菱電機、3期連続最高益でも大規模人員削減へ――「過去のツケ」を断ち切る新たな決断
三菱電機が、2025年度も3期連続となる過去最高益を見込みつつ、約1万人規模に及ぶ大規模な人員削減計画を発表しました。この決断は電機業界内外に大きな波紋を広げています。「なぜ絶好調の今、人員削減なのか?」という疑問に対して、同社経営トップは、「数十年蓄積された構造的な組織課題に抜本改革を加える必要がある」と説明し、未来志向の企業体制刷新の一環であることを明言しています。
最高益なのに「黒字リストラ」――その背景
2025年9月8日、三菱電機は「ネクストステージ支援制度特別措置」を発表しました。これは、2026年3月15日時点で満53歳以上かつ勤続3年以上の正社員と、定年後再雇用者を対象とした希望退職の募集です。募集期間は2025年12月15日から2026年1月9日まで、退職日は2026年3月15日と定められています。募集人数に上限は設けておらず、退職者には退職金への特別加算や再就職支援を提供します。
- 対象者:満53歳以上(2026年3月15日時点)、勤続3年以上の正社員、定年後再雇用者
- 受付期間:2025年12月15日~2026年1月9日
- 退職日:2026年3月15日
- 募集人数:定めず(全社4万2000人のうち最大1万人規模が該当)
- 支援内容:退職金の特別加算、再就職支援
三菱電機が黒字下で希望退職を募る背景として、「ビジネスモデル変革」に伴う人員構成の若返り、ならびに30代~40代のキャリアスピード停滞など、長期的組織改革の必要性が挙げられています。同社は一貫してリーマンショック以降も大規模な早期退職を避け、「定年延長」や「再雇用」の拡充とともに、高齢社員比率が上昇。近年では管理職ポストが硬直し、若手抜擢のボトルネックとなっていました。
「かつての甘さ」の清算と、経営陣の決断
三菱電機の阿部恵成・最高人事責任者(CHRO)は、日本経済新聞のインタビューで「かつての甘さが招いた構造的課題に手を打つのは今しかない」と明言しています。黒字を維持する間にこそ余力を生かした希望退職制度を実施し、対象者には手厚い加算退職金を提示できるメリットを挙げています。
こうした背景には、今後の収益モデルの刷新意図があります。従来の「機器販売型ビジネス」からの脱却を進め、成長分野への投資余力を持つためにも、組織の新陳代謝は不可欠だと判断されました。売上高8000億円に上る既存事業の見直し撤退など、抜本的な事業ポートフォリオ改革も並行して進行中です。
組織の新陳代謝――「次世代へのバトンタッチ」
今回の制度実施によって狙われるのは単なる人件費圧縮ではなく、「次世代経営人材の積極抜擢」と「柔軟な事業変革」の実現。かつて30代半ばで昇進できた課長級ポストも、現在では40歳前後が一般的となり、世代交代の停滞が深刻化。この流れを断ち切るべく、若手社員への道を広げる必要性が強調されています。
- 管理職層の高齢化によるポジションの硬直化
- 若手登用スピードの低下、キャリア機会の減少
- 今後の成長分野へ若い世代を送り込む人材リソース確保
特に、大手電機メーカーで伝統的な「年功序列」の名残りや、長期雇用慣行がこうした構造的課題を温存してきた現実があります。そのため、黒字という余力のあるうちに抜本的な組織構造の是正を断行し、将来の予測できない社会変動や業界競争にも迅速に対応できる体制を作ろう、という狙いが読み取れます。
厚遇なリストラ、“安心して働ける”人事・福利厚生改革も着々と
一方で、三菱電機は継続的に「安心して働ける職場づくり」を掲げ、以下のような福利厚生・人事改革も打ち出しています。
- ネクストステージ支援制度:希望退職者には通常退職金に加え「特別加算」実施、さらに再就職支援サービスも付与
- 柔軟な働き方推進:多様なキャリアパスや社内公募型の人事異動制度の強化等で、社員の自己実現を後押し
- 健康経営の推進:健康診断やメンタルヘルスケア等の健康サポート、働きやすさ・安全確保
- 共働き支援・子育て支援:育児・介護休暇や時短勤務制度など、ワークライフバランス重視の制度拡充
これら一連の改革は、三菱電機が掲げるブランドスローガン「Changes for the Better(より良い変革)」を体現しようとするものです。改革の過程でも、「社員が安心して働ける企業」であり続けるべく、リストラ制度自体も手厚く、かつ再チャレンジ支援を盛り込んでいる点に特徴があります。
先例なき時代、電機業界で広がる「黒字リストラ」
業績堅調時に希望退職や早期退職を募る動きは、三菱電機だけでなく大手電機業界全体で拡大傾向です。パナソニックホールディングスも同様の決算下で約1万人規模の人員削減を発表するなど、「将来への危機感」に立脚した構造改革の波が進んでいます。
かつては経営難の象徴とみなされた「リストラ」が、今や「経営健全化・未来投資」のための前向き施策として社会の受容度も変化しつつあります。この構造転換を先導する企業として、三菱電機の今後の展開に注目が集まります。
まとめ:三菱電機が描く「これからの働き方」
三菱電機は、短期的な人員削減にとどまらず、長期的な成長、若手人材の登用、多様なキャリアパスの保障、安心して挑戦できる組織の実現へと歩みを進めています。業績が最高益である今だからこそ可能な、全社的かつ抜本的な組織変革。そこには、継続的な自己変革による、三菱電機「らしさ」の進化が込められています。
これからの日本企業にとって、「未来への布石」となる三菱電機の改革モデルは、多くの経営者・働く人たちにとっても、一つの大きな参考事例となることでしょう。

 
            


 
             
            