高齢者医療費3割負担の拡大へ議論が加速―社会保障審議会・医療保険部会での最新動向
高齢者の医療費負担をめぐる議論が、2025年10月、医療保険制度の根幹を揺るがす大きな転機を迎えています。厚生労働省が主催する社会保障審議会・医療保険部会では、「年齢にかかわらず負担能力に応じて医療費を負担する」という原則のもと、高齢者の窓口自己負担割合(いわゆる「3割負担」)の拡大が本格的に議論されています。特に70歳以上の高齢者を対象に、年末をめどに一定の結論を出す方向で審議が進められており、今後の制度設計が高齢者の暮らしに直結するだけに、社会の関心も高まっています。
現在の高齢者医療費自己負担割合
- 70歳~74歳:窓口自己負担は原則2割。「現役並み所得」のある人は3割。
- 75歳以上:窓口自己負担は原則1割。「一定の所得がある人」は2割。
- 70歳未満:原則3割(現役世代)。
このように、現行制度では年齢段階ごとに負担割合が区分されていますが、厚労省は「公平な応能負担」を掲げ、年齢による区切りを見直し、所得水準のみで負担割合を決める仕組みへの転換を検討しています。これは、自民党・日本維新の会の連立合意書にも明記された方針であり、実際の政策論議に先立ち、現場の議論が進んでいる状況です。
「多数回該当」って何?高額療養費制度の自己負担限度額を詳しく解説
高齢者にとって気になるのが、高額療養費制度です。これは、月ごとの医療費の自己負担が一定額を超えた場合、超えた分を申請することで還付(高額療養費)を受けられる制度です。特に70歳以上の高齢者への適用方法が複雑なため、ここで詳しく解説します。
70歳以上75歳未満の高額療養費制度
70歳以上75歳未満の方は、70歳未満の人に比べて自己負担割合が軽減されています(原則2割)。ただし、「現役並み所得」の場合は3割負担となります。高額療養費の自己負担限度額は、所得や通院・入院の形態によって異なります。
| 所得区分 | 外来(個人) | 外来・入院(世帯) |
|---|---|---|
| 現役並み所得 | 現役世代と同水準(25万円~など) | 現役世代と同水準 |
| 一般所得 | 18,000円 | 57,600円 |
| 低所得(Ⅱ) | 8,000円 | 24,600円 |
| 低所得(Ⅰ) | 15,000円 | ― |
「多数回該当」とは?同じ人が過去1年間に3ヶ月以上高額療養費の支給を受けた場合、4ヶ月目から自己負担限度額がさらに引き下げられます。たとえば、一般所得者の場合、外来の限度額は18,000円から44,400円に、低所得者(Ⅱ)の場合は8,000円から24,600円に軽減されます。
また、70歳以上75歳未満の方は、1年間(前年8月1日~7月31日)の外来療養にかかる自己負担が144,000円を超えた場合、超えた分が高額療養費として申請により支給されます。この制度は、高額な医療費がかかる高齢者世帯の経済的負担を大きく和らげる役割を果たしています。
後期高齢者医療制度の見直し―年齢によらない公平な負担へ
もうひとつの大きな論点が、75歳以上を対象とする「後期高齢者医療制度」のあり方です。現在は年齢によって医療保険制度が分かれていますが、社会保障審議会・医療保険部会では「年齢によらず、負担能力のみを勘案する仕組みへの見直し」が議論されています。つまり、年齢で区切るのではなく、所得や資産など経済的な負担能力に応じて医療費を負担する方向性が検討されているのです。
この見直しが進めば、たとえば75歳以上の後期高齢者でも「現役並み所得」の方はより高い自己負担を求められる一方、低所得の現役世代は負担が軽くなる可能性があります。そのため、高齢者全体の負担増につながるのではないかという不安の声も根強く、今後の議論の行方が注目されます。
なぜ今、高齢者医療費の負担拡大が議論されているのか?
背景には、日本の急速な少子高齢化による医療費増大と財政負担の増加があります。現役世代の減少と高齢者の増加が続く中で、医療保険制度をどう持続可能なものにするかが喫緊の課題となっています。特に高齢者の医療費は全医療費の約3割を占めており、財政的なバランスを取るために、より「公平な負担」を求める声が高まっています。
一方で、高齢者の中には所得が低く、医療費負担の増加が生活を圧迫するケースも少なくありません。そのため、高額療養費制度の拡充や低所得者向けの軽減措置など、セーフティネットの強化も同時に議論されています。
今後のスケジュールと私たちが知っておくべきこと
現在の議論は、将来の医療保険制度の姿を大きく左右するものです。年末までに一定の方向性が示される見通しで、今後はパブリックコメントや国会審議などを経て、具体的な法改正へと進む可能性があります。
高齢者とその家族は、今後の制度変更に備え、現在の自己負担割合や高額療養費制度の内容をしっかりと把握しておくことが大切です。また、実際に負担が増える可能性がある場合は、貯蓄や資産の運用、公的支援制度の活用など、家計の見直しも検討しておくと安心です。
まとめ―公平な医療費負担へ向けた大きな転換点
高齢者医療費の自己負担割合拡大、高額療養費制度、後期高齢者医療制度の見直し―これらはすべて「年齢による区切りをなくし、負担能力に応じた公平な医療費負担」を目指すものです。そのためには、所得水準の認定方法やセーフティネットの設計など、緻密な制度設計が不可欠であり、国民的な合意形成が今後の大きな課題となります。
今後も、厚生労働省や社会保障審議会の動向を注視しつつ、私たち一人ひとりが制度の内容を正しく理解し、声を上げていくことが重要です。高齢社会の医療をどう支えていくか―その答えを、私たち皆で考えるときが来ています。




