環境省「自然共生サイト」認定制度とは

環境省が進める「自然共生サイト」は、企業や民間団体、NPO、地方自治体などの取り組みによって生物多様性の保全が図られている区域を認定する制度です。この制度は2023年度(令和5年度)から開始され、企業の森林、里地里山、都市の緑地、ビオトープ、社寺林など、多様な場所が対象となっています。

2025年4月には、この制度を法制化した「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律(地域生物多様性増進法)」が施行されました。これにより、自然共生サイトの認定制度は新たな段階を迎え、単に保全「場所」を認定するだけでなく、より幅広く「活動」を認定する制度へと進化を遂げています。

2025年度第1回の認定状況

2025年9月16日、環境省は地域生物多様性増進法に基づく初めての認定として、201か所を「自然共生サイト」として認定したと発表しました。今回の認定では、企業やNPOなどの取り組みによる196か所の「増進活動実施計画」と、自治体が主体となる5か所の「連携増進活動実施計画」が承認されました。

この認定により、2024年度までに認定された328か所と合わせて、自然共生サイトの累計認定数は448か所に達しました。これらのサイトでは、生物多様性の維持・回復・創出を目的とする各活動が正式に位置付けられ、ネイチャーポジティブの実現に向けた重要な役割を果たすことが期待されています。

認定証授与式の開催

2025年9月30日、東京都内の砂防会館において「令和7年度 自然共生サイト認定式」が執り行われました。式典では、環境省、農林水産省、国土交通省の代表挨拶が行われ、環境大臣の浅尾慶一郎氏が「認定された皆様の取組に心から敬意を表します」と述べ、今後もネイチャーポジティブの実現に向けて地域に根ざした生物多様性の保全を進めていく方針を示しました。

各地で広がる自然共生サイトの取り組み

静岡フィナンシャルグループの「しずぎんの森」

静岡県では、静岡フィナンシャルグループが管理する「しずぎんの森」が、環境省の「自然共生サイト」に認定されました。金融機関による森林保全活動が評価された形となり、企業の社会的責任を果たす取り組みとして注目を集めています。地域の生物多様性保全に貢献するとともに、環境教育の場としても活用されることが期待されています。

日産自動車の工場ビオトープ

日産自動車では、富山工場の「日産ビオパーク西本郷」と小野田工場の「小野田工場ビオトープ」の2か所が、環境省の「自然共生サイト」に認定されました。製造業の工場敷地内において、生産活動と生物多様性保全を両立させる取り組みが評価されたものです。これらのビオトープでは、地域固有の動植物が生息できる環境が整備され、従業員や地域住民への環境教育の場としても機能しています。

佐賀県唐津市での体験型活動

佐賀県唐津市では、認定された「自然共生サイト」において採蜜体験が実施されました。このような体験型の活動は、地域住民や来訪者に対して生物多様性の重要性を実感してもらう貴重な機会となっています。自然との共生を通じた地域づくりの一環として、環境保全と地域活性化を同時に実現する取り組みとして注目されています。

自然共生サイト認定の基準と対象

自然共生サイトとして認定されるためには、いくつかの基準を満たす必要があります。対象となる場所は、生物多様性の価値を有し、事業者、民間団体・個人、地方公共団体による様々な取り組みによって、本来の目的に関わらず生物多様性の保全が図られている区域です。

多様な対象サイト

認定対象となる場所は非常に幅広く設定されています。具体的には以下のような場所が含まれます。

  • 企業関連施設:企業の森、企業敷地内の緑地、研究機関の森林など
  • 自然保護活動の場:ナショナルトラスト、バードサンクチュアリ、ビオトープ、自然観察の森など
  • 地域の自然環境:里地里山、森林施業地、水源の森、社寺林、屋敷林など
  • 都市部の緑地:都市内の緑地、緑道、都市内の公園、建物の屋上など
  • その他:ゴルフ場、スキー場、河川敷、遊水池など

制度変更による新たな展開

2025年4月に施行された地域生物多様性増進法により、自然共生サイトの認定制度は大きく変わりました。従来は保全「場所」を認定する制度でしたが、対象を広げてより幅広く「活動」を認定する制度へと再構築されています。

新制度では、企業やNPOなどが作成・実施する「増進活動実施計画」や、市町村が取りまとめ役として地域の多様な主体と連携して行う「連携増進活動実施計画」が、環境大臣、農林水産大臣、国土交通大臣により認定されます。認定された計画の実施区域が、法律に基づく「自然共生サイト」となる仕組みです。

ネイチャーポジティブの実現に向けて

自然共生サイトの認定制度は、「ネイチャーポジティブ」の実現に向けた重要な取り組みの一つとして位置づけられています。ネイチャーポジティブとは、生物多様性の損失を止めて回復軌道に乗せることを意味し、国際的な目標として掲げられています。

環境省は、自然共生サイト広報大使や関係省庁、独立行政法人環境再生保全機構と連携しながら、地域に根ざした生物多様性の保全をさらに進めていく方針です。民間企業やNPO、地方自治体などの多様な主体による取り組みを促進することで、日本全体の生物多様性保全を推進していきます。

生物多様性見える化システムの活用

環境省は、自然共生サイトの認定申請に向けた情報収集や、認定後の多様な主体との連携を促進するため、生物多様性見える化システムの機能を拡充しています。このシステムにより、認定サイトの情報が随時公表され、関係者間での情報共有や連携がより円滑に行えるようになっています。

今後の展望

自然共生サイトの認定制度は、企業の環境保全活動を可視化し、社会的に評価する仕組みとして機能しています。今回の201か所の認定により、累計448か所となった自然共生サイトは、日本各地で生物多様性保全の拠点として重要な役割を果たしています。

企業にとっては、ESG経営の一環として自然共生サイトの認定を受けることで、環境への取り組みをアピールできる機会となります。また、地域社会にとっては、身近な自然環境の保全と活用が促進され、環境教育や地域活性化にもつながる効果が期待されています。

環境省は今後も認定を継続的に実施し、2030年までに陸域・海域の30%を保全する「30by30目標」の達成に向けて、自然共生サイトのネットワークを拡大していく計画です。民間の力を活用した生物多様性保全の取り組みは、持続可能な社会の実現に向けた重要なステップとなっています。

参考元