メタプラネット、ビットコイン購入を2カ月停止へ——戦略転換の舞台裏
暗号資産(仮想通貨)の積極的な保有戦略で注目を集めていたメタプラネットが、大きな転換点を迎えています。同社は2025年9月30日以降、ビットコインの追加購入を行っていないことが明らかになりました。これまで積極的にビットコインを蓄積してきた企業の方針変更は、市場関係者の間で注目を集めています。
ビットコイン購入停止の現状
メタプラネットの公表データによると、最後のビットコイン購入は2025年9月30日であり、その時点での保有量は30,823BTCでした。11月28日時点でも保有数は変わっていないため、実に2カ月間にわたって新規購入が行われていないことが確定しています。この沈黙の期間は、同社の過去の行動パターンと大きく異なっています。
かつてのメタプラネットは、短期間で保有量を急拡大させていました。特に9月は1カ月間で約1万BTCを積み上げるなど、積極的な蓄積ペースを保っていました。しかし10月以降、この勢いが一転し、購入活動が停止状態に陥っているのです。同社が過去に土日に購入発表を行った前例がないことから、10月および11月を通じて新規購入が行われなかったことは、意図的な戦略変更によるものと考えられます。
経営戦略の明確な転換——自社株買いへのシフト
ビットコインの直接購入が停止している一方で、メタプラネットは大規模な資本政策を打ち出しています。10月28日には、最大750億円規模の自己株式取得枠の設定を発表しました。この決定の背景にあるのは、株価の低迷という現実です。
同社が公開するデータから注目されるのが「mNAV」という指標です。これは企業価値を保有ビットコインの時価総額で割った数値で、1倍を割り込む推移が確認されています。つまり、株式時価総額がビットコイン保有資産価値を下回る「過小評価」の状態が続いていたのです。この状況を打開するため、メタプラネットは新たに策定した資本配分方針に基づき、自社株買いを通じて1株当たりのビットコイン保有量の最大化を図る施策を打ち出しました。
戦略の転換は明確です。ビットコインを直接購入して保有量を増やすのではなく、株価を高める——つまり、既存の保有資産の価値を引き上げることに経営資源をシフトさせたのです。
大規模な資金調達と借入戦略
興味深いことに、ビットコイン購入の停止と時を同じくして、メタプラネットは大規模な資金調達を実行しています。11月4日には、保有ビットコインを担保に1億ドル(約156億円)の借入を実行しました。調達資金の使途にはビットコイン追加購入も含まれているとされていますが、巨額の資金を確保してもなお、購入履歴上の沈黙は続いています。
さらに、永久優先株式の発行を通じて約150億円を調達し、これらの資金を主にビットコイン財務戦略に充てる計画も開示されています。つまり、資金は潤沢にありながらも、実際の購入を控えている——この矛盾した動きが、投資家の間で議論を呼んでいます。
市場環境とビットコイン相場の変動
この2カ月間、ビットコイン相場の環境も大きく変動しています。10月8日時点で1ビットコインの価格は約1,896万円という高値を記録しましたが、その後調整局面に入り、11月末時点では約1,430万円にまで下落しました。市場のボラティリティが高まる中での戦略転換とも考えられます。
メタプラネットは「ビットコイントレジャリー戦略」を採用している企業です。そのため、ビットコイン価格が企業価値に直結しやすい特徴があります。株価の低迷局面においては、ビットコイン相場の変動が企業業績に大きな影響を与えるため、慎重な経営判断が求められるのです。
規制環境への対応と黒字転換
11月13日には第3四半期決算が発表され、ビットコイン評価益206億円の計上により黒字転換を達成しました。しかし同日には、日本取引所グループ(JPX)が「暗号資産トレジャリー企業」への上場規制強化を検討中であるとの報道もなされました。
これに対してメタプラネットは、当局による調査等の事実を否定しつつ、規制に関する議論は「必然的かつ健全な動き」であるとの公式見解を示しています。規制環境の不確実性も、現在の慎重な経営姿勢を支えている要因の一つかもしれません。
今後の展開への注視
メタプラネットの戦略転換は、単なるビットコイン価格の上下動では説明できない、より深い経営判断に基づいているようです。自社株買いへのシフト、大規模な資金調達、そして購入の停止——これらの動きが示唆するのは、企業価値の向上と株主価値の最大化を目指す新しい局面です。
今後、ビットコイン相場の回復やメタプラネット株の値動き、そして購入再開のタイミングが注視されています。市場のボラティリティが高い中での経営判断は、同社の長期的な事業展開に大きな影響を与えることになるでしょう。


