2025年のM&A市場が大きく変わる:成長戦略と事業承継が新たな局面へ
日本のM&A市場が大きな転換点を迎えています。2025年上半期において、日本企業による買収件数が過去最大を記録し、市場全体が活況を呈しているのです。単なる件数の増加にとどまらず、M&Aの目的や検討理由が多様化し、企業の経営戦略そのものが進化していることが明らかになってきました。
M&A市場の急速な成長と件数更新
M&A調査会社「レコフデータ」のまとめによると、日本企業が関与した国内外の合併・買収件数は2024年に前年比17.1%増の4,700件を記録し、過去最多を更新しました。さらに、2025年1~9月の投資ファンドによる日本企業のM&Aは5兆円を超え、過去最大となっています。
この急速な成長の背景には、低金利環境が継続していることと、投資余力を持つ企業が増加していることが挙げられます。金利が低い環境では、企業が資金調達を比較的容易に行えるため、外部から成長機会を積極的に取り込もうとする動きが加速したのです。
検討理由の多様化:後継者問題から成長戦略へ
従来、日本のM&Aといえば「事業承継」が最大の課題でした。高齢化する中小企業の経営者が後継者を見つけられず、やむを得ず企業を売却するというケースが大多数を占めていたのです。しかし、2025年に入ると状況が大きく変わりました。
現在では、M&Aの検討理由が実に多様化しており、単なる後継者不足の解決にとどまりません。むしろ、積極的な成長戦略や事業再編を目的としたM&Aが急速に増加しています。デジタル化やDX推進に伴い、企業はIT・サービス企業を積極的に取り込む動きを強めており、製造業においても国外への事業展開やグループの最適化を目指したM&Aが活発化しているのです。
特に注目すべきは、事業承継M&Aの件数が前年比31.4%増の920件に達し、同じく過去最高となった点です。これは従来の「やむを得ない売却」から、「戦略的な売却」へと企業の意識が変わってきたことを示唆しています。
上場企業と非上場企業のM&A対応格差が拡大
興味深いデータが浮かび上がっています。上場企業と非上場企業のM&A専門人材の配置に30%以上の差があることが明らかになったのです。
上場企業では、M&A戦略を経営の中核として位置付け、専門チームを配置する傾向が強まっています。これに対し、非上場企業ではM&A対応の体制整備が遅れているケースが多く、人材配置に大きな差が生じています。この格差は、今後のM&A市場において、企業規模や形態による成功格差につながる可能性があります。
海外投資ファンドの参入が加速
2025年のM&A市場を特徴付けるもう一つの大きな要因が、海外勢の関与拡大です。特に、大型投資ファンドによる日本企業買収が増加しており、その金額規模も桁違いになっています。
LVMH系ファンドが家具メーカーを、ブラックストーンがテクノプロ・ホールディングスを買収するなど、世界的な大手ファンドが日本企業に注目するようになりました。また、EQTなどのPEファンドによるフジテック買収(TOB、4,078億円)といった大型ディール(メガディール)が市場全体を牽引しており、1取引あたりの買収金額が大きくなる傾向が見られます。
こうした海外ファンドの参入により、地方企業にもM&Aの波が及び、事業承継や成長支援に向けたマッチングが活発化しています。同時に、短期的な利益のみを狙う買い手の存在も指摘されるようになり、業界団体や公的機関による監視・規制が強化されつつあります。
売却側にとって有利な環境が形成
買い手の増加に伴い、売却側の企業にとって有利な環境が形成されています。複数の買い手が同時に関心を示すと、競争入札の形となり、売却価格が押し上げられる傾向が見られるようになったのです。
特に独自技術や市場シェアを持つ企業においては、この傾向が顕著です。買い手企業が増えることで競争が生まれ、企業価値が高まりやすい状況となっています。そのため、売却を検討する企業にとっては、的確な準備と売却タイミングの見極めが一層重要になっています。
ロールアップ型M&Aと新しいビジネスモデルの出現
2025年には、新たなM&Aの手法も出現しています。その一つが「ロールアップ型M&A」です。これは、新興企業が短期間で数十社を買収し、売上高1,000億円超のグループへと一気に成長させるというもので、これまでにない新しいビジネスモデルとして注目されています。
加えて、短期的な市場プレッシャーから離れるため、上場企業がPEファンドやMBO(経営陣による買収)を通じて非公開化を選択するケースも増加しています。これは、ガバナンス改革や長期的な構造転換を実行する動きを反映しており、M&Aが「構造変革と生存の必須ツール」へと進化していることを示しています。
今後の展望:二極化する市場
今後、日本のM&A市場は「事業承継型」と「大型買収」の二極化がさらに進むと予想されています。中小企業の経営者高齢化問題が深刻化する中、事業承継型M&Aは当面高い水準が続くでしょう。同時に、大企業や投資ファンドによる対抗TOBや敵対的買収も活発化し、スタートアップ同士や出資先との連携による新たなM&Aモデルも拡大していくと見込まれます。
2025年のM&A市場は、単なる数字の記録更新にとどまらず、日本企業の経営戦略そのものが大きく変わってきた時期として記憶されるでしょう。後継者不足を理由とした受動的なM&Aから、成長戦略を基軸とした積極的なM&Aへ。この転換こそが、日本経済の新たな活力を生み出す源泉となるのです。
