「ラブブ」人気失速、2兆円規模の衝撃――中国ポップマートとアートトイ市場を揺るがす新潮流
急成長から一転、ラブブの神話に終止符?
ウサギ耳と牙が特徴的な中国発キャラクター「ラブブ(LABUBU)」。2024年まで、ブラックピンクのリサさんやデービッド・ベッカム氏ら著名人の支持、“かわいさ”を武器に日本やアジア圏を席巻しました。
POP MART(泡泡瑪特国際集団)が製造・販売するこのアートトイは、国内外のファンやコレクターが熱狂し、2024年には株価が4倍になり、アジア中で空前のフィギュアブームを起こしました。
<2024年末にはYahoo検索大賞ネクストブレイク商品部門を受賞するなど、その勢いは社会現象にまで発展>。
しかし、2025年9月、それまでの「ラブブ神話」は突如として終焉を迎えます。ラブブ人気の失速により、POP MARTの株は一時9%急落し、時価総額で約2兆円(130億ドル)が吹き飛ぶという大事件となりました。
何が「ラブブバブル」を崩壊させたのか?
- 二次市場での失速:転売市場でラブブの価格は過去のようなプレミアムを維持できなくなり、バブルが弾けたように価格は下落。直近2週間で中国の転売ヤーは大きな損失を被っています。
- 投資家心理の冷え込み:JPモルガンなどが「材料不足」「割高感」を指摘、投資評価を「オーバーウエート」から「ニュートラル」へと引き下げ、市場でも警戒感が強まりました。
- 新たなライバル出現:中国雑貨大手・名創優品(メイソウ)は新キャラクター「ワクク」を投入し、追撃の構えを見せています。キャラクター戦争も一因とされています。
アートトイ市場全体も曲がり角。ラブブはPOP MARTだけでなく、世界のアートトイ・コレクション市場の象徴でした。だが、投機的な高騰→バブル崩壊の流れは、今後のアートトイ市場に永続的な影響を与えるものと見られています。
ラブブ伝説の舞台裏――熱狂から終焉まで
・2024年、ブラックピンクのリサやデービッド・ベッカムといったインフルエンサーたちがSNSでラブブグッズを続々投稿し、爆発的な人気を支えました。
・POP MARTは日本にも進出し、池袋や原宿などで話題。訪日中国人や日本ファンの間で争奪戦が繰り広げられ、「日本限定ラブブ」にプレミア価格がつくことも。
・2025年春の段階でも、POP MARTの株価はアジア市場で力強い成長を見せていました。しかし、その後は一転し、物理的な供給(材料不足)、キャラクターの新味やバリエーションが出せないことが徐々に投資家やファンの警戒感を招きました。
POP MARTの業績・市場への影響
- 株価急落:「ハンセン指数」組入れ直後にもかかわらず、8月26日の最高値から9月15日には一時9%の大幅下落、約2兆円規模で時価総額が吹き飛ぶ衝撃。
- 損失の規模:直近2週間で、転売ヤー含む個人投資家の含み損は膨大。POP MARTの売上および時価総額インパクトは、中国・アジア市場全体にも波及しています。
- 企業の対応:POP MARTはクリスマス商戦を見込んでラブブの新バージョン(限定カラー、コラボレーションなど)やインタラクティブ玩具の投入を予定。しかし投資家からは「材料としては弱い」と評されています。
名創優品「ワクク」など、次の旋風は起きるのか?
怒涛のラブブ・バブル終焉後も、「アートトイ×キャラクタービジネス」の注目度は依然高いままです。
中国雑貨の強豪・名創優品は、新キャラ「ワクク」を投入し、“ポスト・ラブブ”を狙った新たな事業戦略を明らかにしています。同社はグッズ展開、SNSマーケティング、コラボなどを一体的に進め、失われたラブブ需要の受け皿を目指していると見られます。
一方、アジア全域や日本国内でも、アートトイビジネスは「一過性のブームになりがち」という本質的課題を露呈。長期的な成長やブランド価値の持続が難しい中、次なるヒットキャラクター、ビジネスモデルの確立がカギとなりそうです。
アートトイ・ブーム再興のためには?
- 創造的な新キャラクターとコラボ戦略――定番化・多様化が求められています。
- 品質・体験価値の強化――「集める楽しさ」「体験できる遊び」の拡充が求められています。
- コレクター文化の健全化――転売主導のバブルを防ぎ、ユーザー本意のコミュニティ形成が重要です。
ラブブ事件から読み解く消費者心理の今
アートトイ市場では常に「次」のヒット作と、「収集熱」のバランスが問われています。
バブルによる一時的な価格高騰とその崩壊を経て、コレクター市場・推し文化への持続的な価値創出への取り組みが各社に求められています。
消費者も「本当に好きなキャラクター」「自分らしいコレクション」といった価値観重視の方向にシフト。ラブブ事件はアートトイ・キャラクタービジネス全体の転換期を示す象徴的出来事となりました。
今後のキャラクタービジネスはどう動く?
ここからは、アートトイに限らず、キャラクター産業全体が劇的な変化を求められる局面へと突入します。新たな市場ニーズや消費行動に柔軟に応え、より幅広い年齢層・地域へと価値を届けていけるかが、企業・ブランド・クリエイターの生き残りの鍵となるでしょう。
まとめ
- ラブブ人気失速が、2兆円の時価総額消失という規模でアートトイ市場を直撃
- 主要プレイヤーPOP MARTは、今後新たな商品戦略・企業価値の再構築が課題
- 雑貨大手・名創優品など異業種からのキャラクター戦争も本格化
- アートトイビジネス全体として、バブル的な投機市場から、真のファンコミュニティ重視への転換期
ラブブの興亡は、単なる一過性のキャラクターブームだけでなく、グローバル消費ビジネス全体にさまざまな教訓を残しました。今、問われるのは「愛され続ける新しい価値」の創出です。