Lasix ONYU:心不全治療の新時代を告げるFDA承認とSQ Innovation AGの挑戦
2025年10月7日、米食品医薬品局(FDA)はSQ Innovation AGが開発した新しいドラッグデバイス複合体「Lasix® ONYU(ラシックス・オニュ)」を、慢性心不全患者における浮腫(むくみ)治療薬として正式に承認しました。この承認は、心不全治療の現場だけでなく、患者さん自身の生活や医療経済にも大きな影響を与える革新的なものであり、今後の心不全治療のスタンダードを大きく変える可能性を秘めています。
従来の治療法とLasix ONYUの革新性
これまで心不全による浮腫の治療は主に病院での静脈注射が必要で、自宅で安全かつ効果的に管理することは難しいとされてきました。Lasix ONYUは、高濃度フロセミド製剤(30 mg/mL, 80 mg/2.67 mL)と、先進的な小型インフューザー(皮下投与インフュージョンデバイス)」を組み合わせることで、自宅で安全に投与できる初のデバイスです。
- 再利用可能な本体ユニット(最大48回使用、電子・安全制御機能搭載)
- 使い捨てディスポーザブルユニット(薬剤搭載・自動穿刺・安全針リトラクション機構)
- 1回あたり5時間かけて80mgを皮下注入し、急激な利尿による副作用を抑制
- 高度な設計によりコスト負担軽減と環境面の負担低減も実現
自宅治療がもたらす新たな可能性
アメリカだけで670万人以上(2030年には870万人予想)の慢性心不全患者の多くが、利尿薬の点滴治療を受けています。この中には年間120万件超の入院が含まれており、その多くが高齢者です。Lasix ONYUが普及することで、患者は自宅で安全に利尿治療を行えるため、入院回数の削減や生活の質(QOL)向上、医療費・介護負担の軽減といった多面的なメリットが期待されています。
- 患者自身または家族が簡便に操作可能
- 静脈へのアクセス不要で感染症や血管合併症リスクが低減
- 通院・入院コスト、医療スタッフ負担も軽減
- 医療機器の再利用構造で環境負荷も小さい
開発背景と技術の特徴―Captisol®の役割
Lasix ONYUに使われているフロセミド製剤は、米リガンド・ファーマシューティカルズ(Ligand Pharmaceuticals, LGND)の特許技術〈Captisol®〉によって、高い溶解性・安定性・生体利用率を実現しています。Captisolはシクロデキストリンを改良した独自の構造を持ち、従来のフロセミド製剤では難しかった高濃度かつ安定した皮下注射製剤の実現を下支えしました。
また、デバイス本体のデザインおよび製造には独ゲレシャイマー社(Gerresheimer)が深く関与し、精密な薬剤投与と患者安全性に特化した設計となっています。この連携により、シンプルかつ頑丈な構造と量産性を両立させています。
FDAの承認と今後の市場展開
FDAは2025年10月にLasix ONYUを正式に承認し、SQ Innovationは2025年末のアメリカでの製品発売を目指しています。これは心不全治療分野だけでなく、サブキュタネアス(皮下注)投与を支援する在宅医療全体へのインパクトが大きく、大手医薬品企業やバイオテクノロジー業界にも波及効果が予想されています。
本製品は、Ligand社のロイヤリティ収入源としても重要な位置を占めており、同社はSQ Innovationとの独占的なライセンス契約および供給契約に基づき、マイルストーン支払い、ロイヤリティ、原材料販売収益を受け取るビジネスモデルです。
なお、「Lasix®」ブランドは、米Validus Pharmaceuticals L.L.C.の商標となっており、SQ Innovationはこれを正規ライセンス下で展開しています。
SQ Innovation AGの組織強化と資金調達
この革新的な医療機器の米国展開に先立ち、SQ Innovation AGは2025年10月にシリーズB資金調達を完了し、新たに2名の取締役が就任するなど、組織面での強化を図っています。この資金調達ラウンドは、主に製品発売準備、追加の流通および物流インフラ強化、教育活動、マーケティング戦略への投資に充てられ、米国市場におけるLasix ONYUの円滑な立ち上げを目指すものです。
- シリーズB調達で資金力・体制強化
- 業界知見豊かな新任取締役によるグローバル展開の加速
- 臨床サポート体制や患者・医療従事者向け情報提供にも注力
医療現場・患者・社会が得られる恩恵
Lasix ONYUは、単に新しい医療機器や薬剤という枠を超え、「医療の質」「アクセス」「持続可能性」という観点で大きな転換点を作り出す存在です。特に慢性心不全の高齢患者、入院リスクの高い方、介護負担の大きな家庭には、従来にない自立的なケアの選択肢を提供します。
- 患者:在宅治療による生活の質向上、身体的・精神的負担軽減
- 医療従事者:慢性期管理の効率化、院内リソースの有効活用
- 医療制度・社会:医療費・介護費減、病床逼迫改善、環境配慮
今後の展望
2025年末からアメリカで市場投入されるLasix ONYUですが、今後は欧州やアジア市場への拡大や、他の慢性疾患領域への技術応用も見込まれています。皮下注投与というコンセプトの広がりとともに、安全で自立した治療生活が実現できる社会に向けて、SQ Innovationや関連企業のさらなるチャレンジが期待されています。
まとめ
- Lasix ONYUは、画期的な在宅治療デバイスとしてFDA承認を取得
- 自宅での皮下注治療を可能にし、患者・医療現場・社会に新たな価値を提供
- SQ Innovation AGは資金と人材の強化で米国での本格展開を推進中
- Ligand社へのロイヤリティ収入と医薬品技術〈Captisol®〉の新たな実用例にも注目
今後もLasix ONYUと同様のテクノロジーが、より多くの疾患や患者さんに貢献できることが期待されます。
参考元
- FDA Approves Lasix ONYU, a Novel Furosemide Delivery Device
- SQ Innovation AG Announces the Appointment of Two New Board Members and Successful Closing of Series B Financing to Support the U.S. Launch of Lasix® ONYU
- How FDA Approval of Lasix ONYU Expands Ligand Pharmaceuticals’ (LGND) Royalty Pipeline and Revenue Potential




