京都新町病院が「廃院方針」 地域医療の要に何が起きているのか
京都市中京区の中心部に位置し、長年にわたって地域医療を支えてきた京都新町病院が、来年3月末で廃院する方針であることが明らかになりました。
病院の規模は病床数90床。周辺には高齢者も多く暮らしており、「この病院がなくなれば、地域医療が立ちゆかなくなるのではないか」との不安が広がっています。
一方で、病院側は深刻な赤字を理由に廃院を決定したとされ、現場の職員や幹部らは「地域医療への影響があまりに大きい」として、廃院の差し止めを求める動きを強めています。
京都新町病院とはどのような病院か
京都新町病院は、京都市中京区六角通新町にある総合病院で、現在は医療法人知音会が運営しています。
もともとは1923年に逓信省の職域病院として開設され、その後「京都逓信病院」として長らく郵政関係者や地域住民の医療を担ってきました。
郵政民営化に伴い運営母体が変わる中、2022年10月1日に医療法人知音会に譲渡され、名称を「京都新町病院」へ改称しました。
時代の変化とともに役割を調整しながらも、内科系・外科系の診療やリハビリ、検査などを通じて、地域のかかりつけ機能を果たしてきました。
地下鉄烏丸線・東西線や阪急京都線の各駅から徒歩圏内という立地もあり、通院しやすい都市型の病院として、多くの患者が利用してきた歴史があります。
2026年3月末での「廃院」方針と公式発表
京都新町病院は、公式サイト上で廃院のお知らせを掲載し、病院を閉じる方針を明らかにしています。
公表された内容によると、廃院日は2026年3月31日とされており、それまで通常診療を継続したうえで順次体制を縮小していく方向とみられます。
案内文では、多額の赤字など経営上の問題から、病院としての存続が困難になったことが理由と説明されています。
患者や家族に向けては、「ご迷惑とご心配をおかけします」と謝意とお詫びが記される一方、今後の診療体制や紹介先医療機関についても順次案内するとしています。
また、国の制度変更にともない健康保険証の取り扱いが変わる点についても、「2026年3月31日までの間は保険診療を行う」と明記しており、廃院日までは地域医療の空白が生じないよう配慮していることがうかがえます。
職員・幹部らが廃院差し止めを求めて行動
こうした経営側の「廃院方針」に対し、病院で働く職員や、副院長を含む幹部医師らは強い危機感を抱いています。
ニュースでは、職員らが「このままでは地域医療に貢献できなくなる」「地域医療を守れない」と訴え、廃院の差し止めを求める意見書を提出したことが報じられています。
さらに、副院長ら幹部が、廃院手続きの執行を止めるよう仮処分の申し立てを行ったことも明らかになりました(朝日新聞報道による)。
この動きの背景には、単に職場がなくなるという問題にとどまらず、「京都市中心部で90床規模の病院が消えることは、周辺住民の医療アクセスに重大な影響を与える」との認識があります。
特に、急変時の受け入れ先や、慢性疾患のフォロー、高齢患者の継続的なケアなど、日々の診療の積み重ねで成り立っている医療をどう維持するのかが、大きな課題として浮かび上がっています。
「地域医療が守れない」現場の危機感
職員や幹部が声を上げているポイントは、次のような点だと整理できます。
- 病床90床の喪失による入院受け入れ能力の低下
- かかりつけ患者の行き場の確保の困難さ
- 救急や急な病状悪化への対応遅延のリスク
- 高齢者や障害のある方など、通院手段が限られた人への影響
- 地域に根差したスタッフが分散し、蓄積されたノウハウや信頼関係が失われる懸念
京都市中京区はオフィス街や繁華街の印象が強い一方で、昔からの住宅地も多く、高齢化も進んでいます。
その中で、徒歩圏内で受診できる中規模病院は、近隣住民にとって「最後の砦」ともいえる存在です。
「どこかに病院はあるから大丈夫」という単純な話ではなく、「いざというときにすぐに行ける病院があるかどうか」が生活の安心感に直結しているといえます。
なぜ廃院に追い込まれたのか 背景にある赤字と環境変化
京都新町病院の廃院方針の理由として、公に示されているのは「多額の赤字」です。
具体的な金額までは公表されていませんが、近年の医療機関を取り巻く環境を考えると、いくつかの要因が重なった可能性があります。
- コロナ禍による受診控えや、入院・手術件数の減少
- 人件費や物価上昇による経営コストの増加
- 医師・看護師の確保の難しさに伴う体制縮小
- 診療報酬制度の変更による収益構造の変化
京都新町病院は2022年10月に医療法人へと運営主体が変わりましたが、引き継いだ段階で既に厳しい経営状況にあった可能性も指摘されています。
そこにコロナ禍後の社会変化が重なり、抜本的な立て直しが難しいと判断されたことが、今回の廃院決定につながったとみられます。
患者・住民への影響と今後の課題
最も大きな影響を受けるのは、京都新町病院に通院している外来患者と入院患者、そしてその家族です。
病院側は廃院日まで診療を継続しつつ、他の医療機関への紹介や、継続治療の計画づくりを進めていく必要があります。
特に課題となるのは、以下のような点です。
- 慢性疾患患者の継続診療先の確保
- 透析やリハビリなど継続的な医療サービスの引き継ぎ
- 高齢患者や通院が困難な患者の移行支援
- 紹介状作成や検査データの引き継ぎなど、情報提供の迅速化
一方で、地域全体としてのベッド需給や医療提供体制をどう再編していくかは、病院だけでなく、行政や医師会を含めた大きなテーマになります。
中京区内外の他の病院や診療所とのネットワークづくり、在宅医療の強化、救急搬送ルートの見直しなど、幅広い観点からの対策が求められます。
行政や地域はどう関わっていけるのか
今回の廃院問題は、単に一つの医療法人の経営判断という枠を超え、「地域に必要な医療をどう守るか」という課題を突きつけています。
全国的にも、地方や都市部を問わず、中小病院の廃院・統合が相次ぐ中で、行政や住民がどこまで関与し、どう支えていくかが問われています。
京都新町病院の場合も、
- 自治体による実態把握と、周辺医療機関との調整
- 住民への情報提供と相談窓口の設置
- 医師・看護師など医療職の雇用と専門性の活用先の確保
といった取り組みが、今後の重要なポイントとなります。
廃院を完全に避けられないとしても、「患者が路頭に迷わないこと」「地域の医療資源が極力失われないこと」を軸に、できる限りの対応が求められます。
長年の歴史を持つ病院が消える意味
1923年にルーツを持つ京都新町病院は、ちょうど100年近くにわたり、郵政関係者や地域住民の健康を支えてきました。
病院名や運営母体が変わりながらも、その土地に根付き続けた医療機関が姿を消すことは、地域の「記憶」が一つ失われることでもあります。
通い慣れた病院、顔なじみの先生や看護師、受付のスタッフとの何気ないやりとり――そうした日常が積み重なって「安心」が形づくられてきました。
廃院方針をめぐる議論は、単に建物や組織の存続だけでなく、「人と人とのつながりをどう守り、引き継いでいくのか」という問いでもあります。
今後に向けて、私たちにできること
京都新町病院の廃院問題は、医療提供側や行政だけの話ではありません。
患者や地域住民一人ひとりが、次のような視点を持つことも大切です。
- 自分や家族が通う医療機関の状況に関心を持つ
- かかりつけ医を持ち、必要に応じて複数の医療機関とのつながりを作っておく
- 地域で起きている医療・福祉のニュースに目を向ける
京都新町病院で診療を受けている方は、廃院日までに主治医とよく相談し、今後の治療計画や紹介先について早めに確認しておくことが重要です。
また、不安や疑問があれば、病院の相談窓口や自治体の担当窓口などを活用し、遠慮せずに質問することも勧められます。
今回のニュースは、医療機関の経営の厳しさと同時に、その医療に支えられてきた地域住民の存在の大きさを改めて浮かび上がらせました。
京都新町病院をめぐる動きは、今後も地域医療のあり方を考えるうえで、重要なケースとして注目され続けることになりそうです。



