河合塾、「ドルトンX学園高等学校」を岩手に開校へ 日本初の“地域拠点滞在×通信制”ハイブリッド高校とは
大手予備校として知られる河合塾グループが、これまでの高校教育のイメージを大きく変える新しい通信制高校「ドルトンX学園高等学校」を、2027年4月に岩手県一関市に開校することを発表しました。
この学校は、「通信制なのに、国内外の地域拠点に滞在して学ぶ」という、従来の常識を覆すハイブリッド型の学びを特徴としています。 通信制でありながら、一定期間を地域拠点での共同生活・フィールドワークにあてることで、「通学制」と「通信制」の良さを組み合わせた、日本初のモデルをめざしています。
ドルトンX学園高等学校とは? 基本情報まとめ
- 設置者:学校法人河合塾学園(河合塾グループ)
- 開校予定:2027年4月
- 所在地(本校):岩手県一関市花泉町油島上築道34番地1(旧・一関市立油島小学校を改装)
- 学校種別:私立・単位制/広域通信制・普通科(47都道府県から入学可能)
- 定員:全体450名(1学年150名×3学年)
- 学校名の由来:「X」は“変数”を意味し、「学びのフィールドが1つにとどまらない」「どこへでも飛び出し、無限に成長していく学び」を象徴
- 姉妹校:ドルトン東京学園中等部・高等部(東京都調布市)
- 生徒募集開始:2026年10月予定
旧油島小学校の校舎を活用することで、地域の空き校舎を新たな学びの拠点として再生する点も、大きな注目を集めています。
日本初「地域拠点滞在×通信制」ハイブリッドモデルとは
ドルトンX学園高等学校が掲げる最大の特徴が、「地域拠点滞在×通信制」というハイブリッドな学び方です。
形式上は通信制高校ですが、ただ自宅からオンラインで授業を受けるだけではありません。国内外に用意された複数の地域拠点に一定期間滞在し、そこをベースにフィールドワークや探究活動を行う仕組みになっています。
具体的には、次のような学び方が想定されています。
- 午前:オンラインでの教科学習(自宅または拠点から参加)
- 午後:滞在先地域に出て、フィールドワークや地域課題の探究活動
- 滞在スタイル:国内外の拠点に数カ月単位で滞在するプログラムを実施
通信制ならではの時間と場所の自由さに、滞在型の共同生活・実地探究を組み合わせることで、知識だけでなく「経験」を通じて学ぶことを目指しています。
モデルは米国ミネルバ大学 世界を移動しながら学ぶスタイル
ドルトンX学園の教育モデルは、世界的に注目を集める米国ミネルバ大学を参考にしています。
ミネルバ大学では、4年間で世界7都市に移り住みながら学ぶユニークなカリキュラムで知られていますが、ドルトンX学園でも同様に、オンライン学習と地域拠点での探究学習を組み合わせる構想です。
高校という段階で、国内外のさまざまな地域に身を置き、「暮らしながら学ぶ」経験を重ねることで、単なる語学や知識だけでなく、異文化理解や実践的な課題解決力を育てていく狙いがあります。
カリキュラムの流れ:1年次〜3年次の学び方
公開されている情報から、3年間の大まかな構成は次のように整理できます。
1年次:探究の基礎づくりと生活力の育成
1年次には、探究学習に必要な基礎力を固める期間と位置づけられています。
- 探究基礎力:問いを立てる力、情報収集・整理の仕方、振り返りの方法など
- 思考力・表現力:自分の考えを整理し、相手に伝えるプレゼンテーションやディスカッション
- 生活力:共同生活や自立した暮らしに向けた基礎スキル
この1年次と3年次には、NTT東日本が運営する東京都調布市のNTT中央研修センターに、それぞれ半年間滞在する計画が示されています。 ここで、生活面の基礎や探究の準備を整えつつ、コミュニケーション力や協働する力を高めていきます。
2年次:国内外11拠点を舞台にした探究学習
最も特徴的なのが2年次
- 滞在期間:3カ月単位で最大4カ所の拠点に滞在
- 拠点数:日本国内・海外あわせて11拠点を想定
- 学びのスタイル:午前はオンラインで教科学習、午後はフィールドワークや探究活動
各地域では、産業・文化・自然環境・地域課題などをテーマに、現地の人々との対話や協働プロジェクトを行うことが予定されています。 教室の中だけでは出会えない「リアルな社会」を前に、自分なりの問いを深めていく時間となります。
3年次:探究成果のまとめと進路準備
3年次は、これまでの探究活動をまとめるフェーズです。
- 探究成果の発表:2年次までの探究を整理し、プレゼンテーションなどで発信
- 国際カリキュラムのテスト対策:海外大学進学なども視野に入れた学習支援
- 進路準備:国内外の大学・専門学校・就職など、多様な進路に応じたサポート
この時期にも、1年次と同様にNTT中央研修センターへの滞在が予定されており、NTT e-City Laboなどの先端テクノロジーの実証フィールドで学ぶ機会も用意されています。
NTT東日本との連携 先端テクノロジーも学びのフィールドに
ドルトンX学園高等学校は、NTT東日本と連携し、日本初の「地域拠点×通信制」のハイブリッド教育モデルを共に進めていくことも発表されています。
- NTT中央研修センター(調布市)への半年間滞在(1年次・3年次)
- NTT e-City Labo(先端技術の実証フィールド)での学習
- 学校全体の探究活動を包括的に支援する連携体制
通信インフラやスマートシティ、AI、IoTといった先端テクノロジーを身近に感じながら、「テクノロジーと社会」をテーマにした探究活動も期待されています。
どんな生徒に向いている? キーワードは「好奇心モンスター」
河合塾グループは、ドルトンX学園が求める生徒像として、「好奇心モンスター」という言葉を掲げています。
ここでいう「好奇心モンスター」とは、
- 「なぜ?」と問いを立てるのが好きな人
- 自分で調べたり、試したりするのが楽しい人
- 知らない場所や人との出会いを楽しめる人
- 仲間と協力しながら新しいことに挑戦したい人
といった、生まれつきの学力よりも好奇心や探究心を大切にする姿勢を指しています。
河合塾学園の河合英樹理事長は、「探求心というものを大事にして、信念を持って取り組むリーダーに育ってほしい」とコメントしており、自ら考え、動き、周囲を巻き込んでいく人材の育成を目指していることがうかがえます。
河合塾が通信制・全寮制に踏み出す背景
「予備校」のイメージが強い河合塾グループが、なぜこうした通信制・滞在型の高校に取り組むのか。その背景には、社会の変化と高校段階からの探究・挑戦の必要性があります。
河合塾グループはこれまでも、大学受験指導を通して多くの高校生・大学生を見てきましたが、その経験から、
- 正解を覚えるだけでは対応できない社会になっていること
- 高校時代に「探究」と「挑戦」の経験をどれだけ積めるかが、その後の生き方に大きく影響すること
などを強く感じてきたとしています。
こうした問題意識から、「探究」と「挑戦」の経験密度を最大限に高めるために、社会と世界につながる新たな学校としてドルトンX学園高等学校の設立に至ったと説明しています。
岩手・一関という立地の意味 地域との共創へ
本校の所在地として選ばれたのは、岩手県南部に位置する一関市です。
自然豊かな環境と、地域コミュニティのつながりが色濃く残る地方都市に拠点を置くことで、
- 地域資源(農業、ものづくり、観光、文化など)を題材にした探究
- 人口減少・地域活性化といった課題に触れる学び
- 空き校舎を活用した「学校×地域」の共創
など、都市部とはまた違ったリアルなテーマを扱うことができます。
一関市内の旧油島小学校の校舎を再活用する取り組みは、単に新しい学校をつくるだけでなく、地域と共にある教育拠点としての役割も期待されています。
これからの高校選びに与えるインパクト
ドルトンX学園高等学校の発表は、「通信制高校」というジャンルそのもののイメージを変えうる動きとして注目されています。
- 通信制=自宅学習中心という従来のイメージからの脱却
- 「滞在型」「フィールドワーク型」を組み合わせた新しい選択肢
- 地方の空き校舎を活用しつつ、全国・海外から生徒が集まるモデル
進学か就職か、国内か海外かといった進路選択だけでなく、「どこで、どのように学ぶか」という高校選びそのものの軸が、今後さらに多様になっていくことを示す例ともいえるでしょう。
「教室の外」にも広がる学びにワクワクする人、好きなことをとことん掘り下げてみたい人にとって、河合塾グループの新たな挑戦であるドルトンX学園高等学校は、大きな関心を集める存在となりそうです。



