JR四国初のハイブリッド気動車「3600系」お披露目 国鉄形キハ一掃へ、“ほぼ電車”の新時代が四国に到来
JR四国が長年使い続けてきた国鉄形気動車の世代交代が、本格的に動き出しました。JR四国としては初めてとなるハイブリッド式ローカル車両「3600系」の量産先行車4両が完成し、2025年12月に報道関係者向けのお披露目が行われました。
四国の鉄道はこれまで、ディーゼルエンジンだけで走る“昔ながらの気動車”が主力で、「電車が走ったことがない県」と話題になるほど、架線のある電化区間がごく一部に限られていました。 そんな四国に、電気の力も活用する“ほぼ電車”ともいえる新型ハイブリッド車が登場したことは、大きな転換点と言えます。
「3600系」とはどんな車両? JR四国初のハイブリッド車
3600系は、老朽化したローカル気動車(ディーゼルカー)を置き換えるためにJR四国が開発した、ハイブリッド式の新形式です。 2025年12月に量産先行車2両編成×2本、合計4両が完成し、徳島運転所に配置されました。
この車両の最大の特徴は、「ディーゼルエンジンで発電した電気」と、「ブレーキ時などに蓄えた電気」の両方を使ってモーターを回し、走行するハイブリッド方式を採用していることです。 これにより、従来の気動車に比べて、燃費の向上やCO2排出量の削減が期待されています。
形式名の「3600系」は、JR四国として初めてのハイブリッド気動車という新しい挑戦を示す「3」と、従来の気動車とは異なる新世代のローカル車両としての位置付けを込めた番号で、“世代交代”の象徴としても受け止められています。(形式名自体の由来は公表資料で明示されていませんが、JR四国のこれまでの形式体系から、新たなコンセプトを持つローカル車両であることがうかがえます)
「電車が走ったことがない県」に“ほぼ電車”が登場
四国の多くの区間は非電化で、架線から電気を受けて走る「電車」ではなく、ディーゼル燃料だけで走る「気動車」が主役でした。 特に徳島県は長らく電車が入らない地域として知られ、「電車が走ったことがない県」として鉄道ファンの間で話題になることもありました。
しかし3600系は、架線から電気を取らない点ではこれまで通りの気動車ですが、実際の走り方は電車に非常に近いのが特徴です。ディーゼルエンジンはあくまで「発電機」としての役割に徹し、走行そのものはモーターが担います。 この仕組みにより、従来の液体式ディーゼルカーとはまったく違う、電車のようなスムーズな加減速が実現されています。
そのため、一部の報道では3600系を「ほぼ電車」と表現し、電車が走ったことのない地域に、電車並みの乗り心地をもたらす存在として紹介しています。
国鉄形キハを一掃へ “気動車王国”四国の世代交代
JR四国のローカル線では、長年にわたり国鉄時代から走るキハ40系・キハ47形などの「国鉄形気動車」が活躍してきました。 しかし車齢の高い車両も多く、老朽化対策と環境負荷の低減が大きな課題となっていました。
3600系は、この国鉄形気動車を本格的に置き換えるための車両として位置付けられています。 JR四国は、量産先行車を含めて合計35編成(70両)の導入を計画しており、2027年度から順次量産車を投入していく方針です。 この計画が進めば、ローカル線の「顔」として長年親しまれた国鉄形キハは、いよいよ四国から姿を消していく見込みです。
鉄道ファンにとっては、国鉄形がいなくなる寂しさもある一方で、環境性能と快適性が大きく進化した新世代車両の登場は、時代の流れとして受け止められています。
四国の海と空をイメージしたライトブルーの外観
3600系の外観でまず目を引くのは、ライトブルーを基調とした車体カラーです。 ステンレス製の車体に清涼感のあるブルーが映え、四国の海や空をイメージしたデザインになっています。
これまでのローカル気動車とは一線を画す、明るく爽やかな印象で、沿線風景にもよく映えるデザインです。前面形状は、既存の1500形などを思わせる面影を残しつつも、新しい世代の車両らしい精悍さを備えています。
“土足をためらう”ほど進化した車内 木目調の床とバリアフリー設備
車内に一歩入ると、従来のディーゼルカーとの違いをより強く感じることができます。床は温もりのある木目調で、自然光を意識した明るい室内が演出されています。 報道では、「思わず土足をためらうほど」と表現されるほど、従来の国鉄形車両から大きく進化した雰囲気です。
また、車いす対応スペースや車いす対応トイレも設けられ、バリアフリー設備が充実しています。 床面高さは従来のキハ47形よりも約100mm低くなり、乗り降りしやすくなっている点も特徴です。 高齢者や小さな子ども連れの利用者にとっても、やさしい設計と言えるでしょう。
座席配置は、通勤・通学から観光利用まで幅広いニーズに対応できるよう工夫されており、2両でそれぞれ異なる車内レイアウトが採用されています。 ローカル線での普段使いはもちろん、ゆったりと四国を旅する列車としても活躍が期待されています。
静かでスムーズな走り ギアチェンジの揺れも解消
走行性能の面でも、3600系は従来の気動車から大きな変化を遂げています。最高速度は時速100kmで、ローカル線用車両として十分な能力を備えています。 そして何より、静粛性と乗り心地の向上が重視されています。
- 駅停車中はアイドリングストップを行い、エンジン音や振動を低減
- 従来の気動車特有だったギアチェンジによる大きな揺れがなくなり、滑らかな加速・減速を実現
- モーター駆動による電車に近い走り心地
エンジンそのものも高出力化されており、各車1基搭載のSA6D140HE-3形エンジンは1基あたり450馬力を発揮します。 単純比較はできないものの、従来の液体式ディーゼルカーに比べて数値上は倍以上の出力となっており、これを発電用として活用することで、安定した走行性能を確保しています。
こうした技術により、JR四国が掲げる「安全性・信頼性のさらなる向上」「快適性の向上」「環境負荷の低減」「メンテナンス性の向上」という4つのポイントが実現されています。
環境にやさしく、保守もしやすい“次世代ローカル車両”
ハイブリッド方式の採用は、環境面だけでなく、日々の運行や保守の面でもメリットがあります。蓄電池に貯めた電力を走行用モーターだけでなく、駅停車中のサービス機器の電源などにも活用することで、燃費向上とCO2排出量の削減が図られます。
また、電車と同じようなシステムや機器を用いることで、複雑な機械部品や回転部品を減らし、メンテナンスの手間やコストを抑えられると期待されています。 こうした点は、少ない人員で広いエリアを支える地方の鉄道会社にとって、非常に重要なポイントです。
JR四国の四之宮和幸社長は、「ハイブリッド式で見た目では分からないが、実際に列車が走行する時は従来の気動車に比べて乗り心地が良い。地域の人には日常の足としてだけでなく、四国の中をゆっくりローカル車両で旅してほしい」とコメントしています。
どこを走る? 2026年6月から高徳線・徳島線などで運行開始予定
3600系量産先行車は、2026年1月から性能確認のための走行試験が行われ、その後乗務員の教育・訓練を経て、2026年6月の営業運転開始を目指しています。
運行開始後は、主に高松と徳島を結ぶ「高徳線」や徳島線など、香川県・徳島県内の路線への投入が予定されています。 配置は徳島運転所で、長年国鉄形気動車が行き来してきた区間に、新しい世代のローカル車両が登場することになります。
量産車は2027年度から順次導入される計画で、四国各地のローカル線に少しずつ3600系の姿が広がっていくと見られます。 日常の通勤・通学の足としてはもちろん、観光客にとっても、四国の新たな“乗ってみたい列車”になりそうです。
国鉄形からハイブリッドへ “気動車王国”のこれから
かつて「気動車王国」と呼ばれた四国において、国鉄形キハは長年、生活を支える重要な存在でした。 ディーゼル特有のエンジン音、ギアチェンジの揺れ、レトロな内装――そうした要素も含めて、多くのファンに親しまれてきました。
一方で、環境負荷の問題やバリアフリー対応、快適性の向上といった社会的な要請が高まる中で、新しい世代のローカル車両への転換は避けて通れないテーマでした。3600系の登場と大量導入計画は、その答えのひとつと言えます。
「電車が走ったことがない県」と言われた地域に、“ほぼ電車”と言われるハイブリッド車が登場することは、鉄道の役割やイメージを新しくするきっかけにもなりそうです。静かで快適になった車内で、四国の海や山、そしてライトブルーの車体が溶け込む空を眺める――そんなローカル線の旅が、これからのスタンダードになっていくかもしれません。
国鉄形キハが築いてきた歴史を引き継ぎつつ、環境にやさしく、人にもやさしい新世代車両へ。その節目を象徴するのが、JR四国初のハイブリッド気動車「3600系」です。今後、量産車の投入が進めば、四国の鉄道風景は少しずつ、しかし確実に新しい姿へと変わっていくことになるでしょう。



