ヨルダン経済の危機的状況と国際社会の支援

中東の安定国として知られるヨルダンが、かつてない経済危機に直面しています。2025年10月現在、同国は財政的に極めて厳しい状況にあり、国際社会からの支援が急務となっています。特に米国との関係が注目される中、ヨルダン議会のスピーカーは経済近代化と改革路線を推進していく姿勢を示しています。

深刻化する財政状況

ヨルダン政府は2025年にユーロ債が満期を迎えることから、約20億米ドルに上る莫大な資金需要が見込まれており、財政的に極めて厳しい状況にあります。1990年代以来、IMFと協調して進めてきた経済構造改革プログラムを通じて一時は平均7%を超える高い成長を実現しましたが、2008年の世界的金融危機以降、経済成長は鈍化しています。

現在のヨルダン経済は、都市・地方間の所得格差、高い水準で推移する貧困率・失業率、慢性的な財政ギャップなど構造的な問題を抱えています。特に若者と女性の失業率は高い水準にあり、より強力な成長を達成し、雇用を創出するために構造改革を加速させる必要があります。

観光業への深刻な打撃

2023年10月以降のガザを巡る地域の不安定な状況により、GDPの約1割を占める観光業は深刻な打撃を受けています。ペトラ遺跡、死海、ワディ・ラム、ジェラシュなどの主要な観光地では、休業や閉鎖を余儀なくされるホテルも多く、客室占有率は非常に低い水準にとどまっています。

米国との複雑な関係

ヨルダンにとって米国は最大の輸出相手国であり、2023年のヨルダンからの輸出総額89億ヨルダン・ディナール(約1兆8,334億円)のうち約23%を対米輸出が占めています。輸出品目の上位はテキスタイル(約11億ヨルダン・ディナール)、貴金属および宝石類(約5億8,000万ヨルダン・ディナール)、化学製品(約1億6,000万ヨルダン・ディナール)となっています。

しかし、トランプ大統領が4月2日に発表した「相互関税」措置により、ヨルダンには20%の関税が課されることとなりました。2024年の米国とヨルダン間の貿易では、米国からヨルダンへの輸出額は20億ドル、米国へのヨルダン製品の輸入額は34億ドルで、米国が13億ドルの貿易赤字となっています。

関税措置への対応

この措置を受け、ヨルダンのヤアルブ・クダー産業・貿易・供給相は、本措置の影響に対処するため米国と直接対話を継続し、産業部門への支援強化などの取り組みを行うと述べました。同相は、米国の決定は特定の国に向けられたものではないとして同国への理解を示すとともに、2国間関係の強固さを再確認し、報復措置は取らないと述べています。

米国からの支援と政治的圧力

経済的に厳しい状況にあるヨルダン政府は2022年、7年間で総額100億ドルの支援を米国から受けることで合意しました。しかし、トランプ大統領はガザ住民を受け入れないとその支援を停止すると脅しをかけました。既に米国際開発庁(USAID)のプロジェクトも中止され、多くのヨルダン人が職を失ったとも指摘されています。

国家規模や人口バランスなどを踏まえると、ヨルダンにパレスチナ人を受け入れる余裕はない状況です。2月にトランプ大統領との会談に臨んだアブドラ国王は、ガザ住民の強制移住計画について面前では「ノー」と言えず、深刻な病気を抱える2000人のガザの子供たちの受け入れを表明したのみで、その弱腰の姿勢は国民から反感を買いました。

難民問題の重荷

ヨルダンは、シリア危機以降に流入した約140万人のシリア難民を抱えてきました。シリアに難民が自発的に帰還できる環境の醸成を目指すとともに、違法薬物や武器のヨルダンへの密輸を防ぐための環境を整えるべく、アラブ連盟の枠組みの下でアサド政権下のシリアと折衝を重ねてきましたが、アサド政権は崩壊しました。

2024年12月の暫定政権の成立に伴って、今後ヨルダン国内のシリア難民等のシリアへの帰還が進むか、アサド政権を裏から支えてきた違法薬物のヨルダンへの密輸を絶つことができるかが注目されています。シリアが暫定政権の下、国内統一と安定に向けて前進し、ヨルダンにとって商機が拡大することにもつながるか、ヨルダンは慎重に見守っています。

政府の改革への取り組み

こうした厳しい状況の中、ヨルダン政府は競争力と労働市場の柔軟性を高めるとともに、社会のセーフティネットを強化し、ビジネス環境の改善を通じてより多くの投資を誘致することを目指しています。議会のスピーカーは経済近代化と改革路線を推進していく姿勢を示しており、構造的な問題の解決に向けた取り組みが続けられています。

EUとの関係強化

米国との関係が複雑化する中、ヨルダンは欧州連合(EU)との経済関係も重視しています。公式データによると、ヨルダンとEU間の貿易額は2025年1~4月期に11億2900万ヨルダン・ドル(16億ドル)に達し、前年同期の10億2500万ヨルダン・ドルから増加しました。ヨルダンの経済責任者は、EUをヨルダン経済を支える重要なパートナーと位置づけています。

今後の見通し

IMFは、紛争の影響を受けていたヨルダンについて、紛争長期化の影響は残るものの、2025年は緩やかな回復を予測しています。しかし、2020年から2022年の新型コロナウイルスの感染拡大や2022年からのウクライナ情勢、そして2023年10月からのガザ情勢悪化等の影響を受け、経済・財政状況は更に悪化している状況です。

ヨルダン経済は依然として外国からの資金援助、地域の治安情勢、外国からの短期的な資本流入の動向等に左右されやすい脆弱性が内在しています。国際社会、特に米国からの継続的な支援と、地域情勢の安定化がヨルダン経済の回復には不可欠です。

中東地域の安定に重要な役割を果たしてきたヨルダンが、この経済危機を乗り越えられるかどうかは、同国だけでなく地域全体の安定にも影響を与える重要な課題となっています。

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