JCB、Googleの次世代決済規格「Agent Payments Protocol (AP2)」構築に正式参画――2025年10月9日時点のニュース解説
2025年10月9日、JCB株式会社はGoogleが進めるオープン決済規格「Agent Payments Protocol(AP2)」の構築に協力することを正式に発表しました。これにより、AIエージェントによる決済の新たな基盤が世界的に整備され始めたといえるでしょう。本記事では、このJCBの新たな取り組みを中心に、同日掲載された3つの注目ニュースをわかりやすく解説します。
JCB、Google「AP2」構築に本格参画――AI時代の決済の未来
JCBは2025年10月9日、Google主導のオープンチャネル決済規格「Agent Payments Protocol(AP2)」の構築に参画することを明らかにしました。AP2は、AI(人工知能)エージェントがユーザーに代わって自動で決済を行うための基盤技術であり、従来のように人が自分で「購入」ボタンを押す必要がなくなる今後の決済の“常識”を大きく変えるものと注目されています。
JCBの久本寺信也氏(執行役員・戦略イノベーション本部長)は「JCBはGoogleのAP2イニシアティブを、決済業界にとって革新的かつ重要な取り組みと高く評価し、積極的に協力することで、当社の銀行や決済機関のパートナー、カード会員、加盟店をはじめとした全てのステークホルダーへの便益につなげていきたい」とコメントしています。現時点で、Mastercard、PayPal、Adobe、Coinbase、Adyenなど世界60社以上がこの規格の標準化に協力しており、今後もグローバルな普及が見込まれます。
AP2は、AIエージェントの「人間不在」や「複数エージェント間」での自動取引にも対応し、従来の決済システムよりも柔軟かつ強固なセキュリティ基盤を提供します。たとえば、ユーザーが買い物カートに署名(デジタルサイン)することで、AIエージェントによる誤った購入(いわゆる“AIの暴走”)を防ぐ仕組みが盛り込まれており、決済の意図が本人のものであることを保証します。
AP2の技術的特徴とメリット
- オープン性:特定の企業やプラットフォームに依存せず、さまざまな決済手段や業界のプレーヤーが参加できる。
- セキュリティ:デジタル署名による電子契約や明瞭なエビデンストレイル(証拠の追跡)で、不正やAIの誤作動を低減。
- 決済手段の多様性:クレジットカード、デビットカード、リアルタイム振込、ウォレット、さらには暗号資産やステーブルコインなどにも対応。さらに将来的にはエージェント専用の暗号決済拡張も計画されています。
- スケーラビリティ:単純な買い物から、複数の店舗やAIエージェント同士の複雑な取引まで柔軟に対応。
また、AP2は既存の決済インフラと互換性があり、追加導入の負担が抑えられる点もメリットです。たとえば、従来の3DS認証やワンタイムパスワード(OTP)などのユーザーチャレンジも引き続き利用でき、従来のリスク管理や不正検知システムをそのまま活用することが可能です。
JCB参画の意義と日本のカード決済市場への影響
JCBがAP2構築に加わることで、今後日本のカード決済市場は大きな変化を迎える可能性があります。AIエージェントによる自動決済が一般化すれば、ユーザーは煩雑な手続きから解放され、買い物やサービス利用の利便性が飛躍的に高まります。また、企業側もAIによる自動的なキャンペーンや会員管理、支払いの一元化など、新たなビジネスチャンスが広がるでしょう。
さらに、AP2が普及すれば、日本国内の他の金融機関や決済サービス、ECプラットフォームも同規格の採用を加速させる可能性があります。JCBはすでに独自のスマート決済サービスを展開していますが、AP2への対応により域外のパートナーやグローバルビジネスとの連携もさらに強化されることが期待されます。
一方、AIエージェントによる決済には、プライバシーやセキュリティ、法的な責任の所在など、まだまだ乗り越えるべき課題も多く残っています。しかし、AP2のようなオープンで強固な基盤が整備されることで、業界全体でこれらの課題に取り組みやすくなると考えられます。
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【開催迫る!】タカラトミー&サッポロビールに聞く、メーカーECの成長に向けた戦略と打ち手
もう一つの注目は、大手トイメーカーのタカラトミーと老舗ビールメーカーのサッポロビールが共同で主催する、メーカー型EC(電子商取引)の成長戦略をテーマにしたイベントが間近に迫っているというニュースです。
メーカー直販EC(通称D2C)は、従来の流通・小売ルートを経由せず、直接消費者向けに商品を販売する取り組みで、近年多くの企業が力を入れています。このセッションでは、タカラトミーが玩具業界で培ったデジタルマーケティングやコミュニケーション戦略、サッポロビールが飲食業界で進める新しいブランディングや購買体験の最適化手法など、異業種ならではの知見が共有される予定です。
メーカーECは、いかにしてブランド価値を高めつつ、顧客体験の向上やリピーター獲得、データ活用による次の一手に結びつけるかが重要になります。このイベントでは、実際の導入事例や課題、今後の成長に向けた具体的なアクションについて、両社の担当者によるディスカッションが行われるため、今後のEC戦略を考える上で大変参考になりそうです。
PayPal(PYPL)のAI統合の深化と新たなパートナーシップが投資ストーリーをどう変えているか
最後に、世界的な決済大手PayPalのAI統合の進展と新たなパートナーシップが、投資家の注目を集めているというニュースも見逃せません。
PayPalは近年、AIを活用した不正検知や取引最適化、カスタマーサポートの自動化など多方面でデジタルトランスフォーメーションを推進してきました。さらに、今回のAI統合の深化により、PayPal Checkoutの利便性や安全性が一段と高まると見られています。また、新たなテック企業やサービスプロバイダーとの連携によって、PayPalの提供する決済体験は今後も拡張される見通しです。
こうした動きは、PayPalの収益基盤を強化し、中長期の成長期待を高める要因となっています。特に、AIによる決済自動化やパーソナライゼーションの進化は、今後EC市場全体でスタンダードとなりつつあり、PayPalの動向は業界のけん引役として今後も注目され続けるでしょう。
まとめ――JCB参画で加速するAIエージェント決済時代
JCBがGoogle主導のAP2構築に参画したことで、日本のカード業界は今後ますますAIエージェントによる自動決済の時代に突入していくと考えられます。これにより、消費者はより便利で安全な決済体験を享受できる一方、企業側もAIやデータを活用した新しいビジネスモデルの創出が期待できます。
同時に、タカラトミーやサッポロビールといったメーカー各社のEC成長戦略、PayPalのAI活用の深化など、決済とECを巡る動きは日々アップデートを続けています。今後もこれらの動向を注視し、自社の次なる一手に活かしていく姿勢がより一層求められるでしょう。
AIやデジタル技術の進化は、決済やECのあり方を根本から変えつつあります。そんな中、JCBがグローバルな標準化の流れに積極的に加わったことは、日本の決済市場の未来を占ううえで非常に大きな一歩といえるでしょう。



