中国のレアアース輸出規制、日本への影響は? 揺れる日中関係と今後の行方

中国が発表した対日輸出規制をめぐって、日本国内では不安の声が広がっています。特に、ハイテク製品や電気自動車(EV)などに欠かせないレアアース(希土類)が対象になるのではないかという懸念が強まっています。

一方で、中国側は「民生用には影響はない」と説明しており、日本政府は「決して容認できない」として強く反発。専門家の中には「日本は過度に焦る必要はない」と冷静な見方を示す声もあります。

この記事では、今回の中国による輸出規制のポイント、日本への影響、政府や専門家の反応を、できるだけわかりやすく整理してお伝えします。

中国が発表した「軍民両用」品目の対日輸出規制とは

中国政府(商務部)は、日本向けの軍民両用(デュアルユース)品目の輸出管理を強化すると発表しました。軍民両用とは、軍事目的にも民生(一般の産業・消費)目的にも使える物資や技術のことです。

中国商務部の公告は、「日本の軍事ユーザー、軍事用途、および日本の軍事力向上に寄与するその他の最終ユーザーに対し、すべての軍民両用製品の輸出を禁止する」という趣旨の内容になっています。ただし、

  • どの品目が対象になるのか
  • 「軍事ユーザー」「軍事用途」をどう定義するのか

といった具体的な範囲は明示されていません。そのため、実際にどこまで影響が及ぶのかは、今後の運用次第という部分が大きいとみられています。

レアアースは対象となるのか

今回の輸出規制で特に注目されているのがレアアースです。レアアースは、モーターや磁石、半導体、風力発電、EV、スマートフォンなど、現代のハイテク製品に欠かせない素材です。

中国は、世界のレアアース生産の約7割を占めると言われており、精錬・加工の分野でも圧倒的な存在感を持っています。そのため、中国がレアアースの輸出を制限すると、世界のサプライチェーンに大きな影響が出る可能性があります。

今回の対日輸出規制について、中国政府系メディアなどはレアアースの輸出管理を強化する方針を示唆しており、

  • レアアースそのもの
  • レアアース磁石などの関連製品

が、軍民両用品目として扱われる可能性があると報じられています。

特に、

  • EV用モーターに使われるネオジム磁石の補助材料であるジスプロシウムテルビウム

などは、日本がほぼ100%を中国に依存しているとされ、これらがもし規制の対象となれば、自動車産業などへの影響は小さくありません。

中国側の説明「民生用への影響はない」とはどういう意味?

中国側は、今回の措置について、あくまで軍事関連を念頭に置いた安全保障上の輸出管理だと説明し、「民生用には影響はない」との立場を示しています。

背景には、

  • 日本が米国や欧州と歩調を合わせて、半導体や先端技術で対中輸出規制を強化していること
  • 安全保障・台湾問題などを巡る日中間の緊張

などがあり、これに対する対抗措置あるいは圧力手段として、軍民両用品目のカードを切ったという見方が有力です。

しかし、レアアースのような素材は、

  • 軍事用途(ミサイル、レーダー、戦闘機など)
  • 民生用途(EV、風力発電、家電など)

の両方に使われるため、「軍事向けだけを完全に切り分けることが難しい」という現実もあります。そのため、中国がどのような線引きで「民生には影響なし」と判断しているのかについては、依然として不透明な部分が残っています。

日本政府の反応「決して容認できない」

日本政府は、中国による今回の対日輸出規制強化について、強い懸念を示しています。

特に、レアアースなどの民生用にも広く利用される物資が実質的に規制対象となる可能性が指摘されており、日本政府は「決して容認できない」として中国側に説明を求める姿勢を鮮明にしています。

日本には、2010年の尖閣諸島をめぐる対立の際、中国がレアアース輸出を事実上制限した経験があります。そのとき、日本の製造業は大きな打撃を受け、レアアース価格の急騰や供給不安に直面しました。

この苦い経験を踏まえ、日本政府や企業は、

  • 中国以外の産地からの調達
  • リサイクル技術の開発
  • 代替材料の研究

などを進めてきました。その結果、日本のレアアース輸入に占める中国依存度は、2010年当時の約90%から、現在は約60%程度にまで低下したとされています。

それでも、特定品目では依存度が依然として高く、今回の規制が本格化すれば、

  • 自動車産業
  • 電子部品・精密機械
  • エネルギー関連機器

などへの影響が懸念されるため、日本政府は早期の情報収集と対応策の検討を急いでいます。

専門家の見方「日本は過度に焦る必要はない」

一方で、すぐに深刻な事態になるとは限らない、という比較的冷静な見方も出ています。

中国経済や国際関係に詳しい専門家の中には、

  • 中国が輸出規制を厳しくしすぎれば、中国企業自身の売上減少や国際的な信頼低下につながる
  • 2010年のような急激な全面停止ではなく、許可審査の厳格化や一部品目の見直しにとどまる可能性が高い
  • 日本はすでに一定程度、供給源の多様化や在庫確保を進めており、短期的なショックはあるとしても、直ちに致命的な事態になるとは考えにくい

と指摘する声があります。

また、レアアースは「中国でしか採れない」わけではなく、世界各地に鉱床があります。ただし、

  • 中国は鉱石の品位が高い
  • 環境規制が比較的緩く、精錬コストを押さえやすい

といった理由から、現在でも世界生産の大半を中国が担っているという状況です。そのため、他国がすぐに中国の供給分を全て代替するのは難しいものの、中長期的には供給源の分散が進む方向にあるとみられています。

日本経済への影響はどの程度か

シンクタンクなどの試算によると、仮にレアアースが本格的に対日輸出規制の対象となった場合

  • 約3カ月で6,600億円程度の経済損失
  • 1年間継続した場合は2.6兆円規模、日本の名目・実質GDPを約0.4%押し下げる可能性

があると試算されています。この数字はあくまで試算ですが、

  • レアアースが幅広い産業の基盤素材となっていること
  • 一部品目で中国依存度が極めて高いこと

を踏まえると、無視できないリスクであることがわかります。

ただし、今回の発表時点では、

  • 対象品目の詳細
  • 実際の運用の厳しさ
  • 日本企業側の在庫状況や代替調達の進み具合

など、多くの不確定要素が残っているため、「すぐに大きな経済ショックとなる」と断定する段階ではない、という見方も多く示されています。

過去の「レアアースショック」からの教訓

2010年の尖閣問題以降、日本は「脱中国依存」を重要な政策課題として取り組んできました。

その主な内容は、

  • 調達先の多様化:オーストラリア、東南アジア、アフリカなど他地域からの輸入拡大
  • リサイクル技術の開発:使用済み製品からレアアースを回収する技術の実用化
  • 使用量削減・代替材料:磁石設計の工夫や、レアアース使用量を減らした製品の開発

などです。その結果、全体としての中国依存度は下がったものの、

  • 高性能モーター用の一部レアアース
  • 特定の高機能磁石素材

などでは、依然として中国依存が続いています。

今回の輸出規制問題は、

  • 日本にとってサプライチェーンの脆弱性がなお残っていることの再確認
  • 中国にとっては、資源を外交カードとして使うことのメリットとリスクの両方

を改めて浮き彫りにしたと言えます。

今後の注目ポイント

今後、私たちが注目すべきポイントは次のような点です。

  • 対象品目の具体化:中国側がどこまで詳細なリストや運用指針を公表するか
  • レアアースの扱い:どの種類のレアアースや関連製品が、軍民両用品目として厳格な管理対象となるのか
  • 日本政府・企業の対応:在庫確保、調達先変更、国内生産・リサイクルの加速など、具体的な対策のスピード
  • 国際的な連携:日本、米国、欧州、豪州などが、資源調達や安全保障でどのように協力を深めていくか

現時点で重要なのは、

  • 過度な不安や憶測に振り回されず、事実関係を丁寧に確認すること
  • 一方で、「影響は出ない」と楽観しすぎず、備えを粛々と進めること

の両方です。

私たちの生活への影響は?

では、一般の生活者にとって、今回の動きはどのような意味を持つのでしょうか。

短期的には、

  • すぐに家電やスマートフォンが買えなくなる、といった事態が起きる可能性は現時点では高くない
  • ただし、自動車や一部の電子機器などで、将来的な価格上昇や供給調整が起きるリスクはゼロではない

と言えます。

中長期的には、

  • 日本企業の調達コストの上昇
  • 新技術開発や生産拠点見直しなどによる製品価格やモデル構成の変化

が、少しずつ私たちの生活にも影響してくる可能性があります。

とはいえ、各国とも同じようなリスクを認識しており、世界的にレアアース供給の多様化やリサイクルの強化が進んでいることを考えると、10年前に比べればショック耐性は高まっている側面もあります。

まとめ:緊張の続く日中関係と、問われる「経済安全保障」

中国によるレアアースを含む軍民両用品目の対日輸出規制強化は、

  • 日中間の政治・安全保障上の緊張
  • 資源や技術をめぐる「経済安全保障」の重要性

を改めて浮かび上がらせました。

中国は「民生用には影響がない」と説明していますが、日本政府は強く反発し、専門家の間でも「リスクはあるが、日本は冷静に対応すべき」といった慎重な見方が広がっています。

今後、対象品目の具体像や運用の実態が明らかになるにつれ、日本政府や企業の対応も一段と本格化していくとみられます。私たちとしては、信頼できる情報に基づいて状況を見守りながら、変化の背景にある「世界の勢力図の変化」や「経済と安全保障の結びつき」について、ゆっくりと考えてみる機会にしてもよいかもしれません。

参考元