日本国債利回りが17年ぶりの高水準に到達、日銀利上げ観測が市場を揺るがす
日本の金融市場で大きな変化が起きています。2025年11月下旬、日本国債の利回りが17年ぶりの高い水準に達しました。特に長期金利(10年物国債)が1.84%に達し、短期金利(2年物国債)も1%を超える水準となりました。この急速な上昇は、日本銀行(日銀)が12月の金融政策決定会合で金利を引き上げる可能性が高まっているという市場の見方が背景にあります。
長期金利が17年ぶりの高さに
11月28日時点で、日本の10年物国債の利回りは1.81%となっています。この水準は、過去1ヶ月間で0.15ポイント上昇し、1年前と比べても0.75ポイント上昇しています。さらに、11月下旬には一時的に1.84%まで上昇し、これは2008年以来、実に17年ぶりの高水準となりました。
利回りが上昇するということは、国債の価格が下がることを意味します。つまり、投資家たちが日本国債の価値を下げて評価し始めたということです。この背景には、日銀が今後金利を上げるという予測があります。金利が上がると予想される場合、既に発行されている低い利回りの国債は魅力を失うため、価格が下がり、相対的に利回りが上がるという仕組みです。
2年物国債も17年ぶりの1%超え
より短期の国債でも同様の動きが見られています。2年物国債の利回りは、12月1日に1%に上昇しました。これは2008年6月以来、実に17年ぶりの高水準です。わずか1ベーシスポイント(0.01%)の上昇ですが、この水準に到達することは市場参加者にとって大きなニュースとなりました。
短期金利の上昇も、日銀による早期の利上げ観測が主な要因です。市場では、日銀が今年12月の会合で追加的な金利引き上げを決定する確率が約60%程度と見込まれています。
日銀総裁の発言が市場を揺さぶる
この急速な変化の引き金となったのは、植田和男日銀総裁の発言です。12月1日に予定されている植田総裁の講演や会見が、12月の金融政策決定会合での利上げを示唆する内容になるのではないかという警戒感から、債券市場は敏感に反応しています。
また、11月の小枝淳子日銀審議委員の講演や、増一行審議委員の日本経済新聞電子版でのインタビュー記事での発言も、早期利上げ観測を高める要因となりました。これらの発言は、円安の急速な進行がインフレに与える影響に対する日銀の懸念を示唆しており、金利引き上げの可能性を強く示唆しています。
経済背景:円安とインフレの懸念
日銀が利上げを検討する主な背景は、急速な円安とそれに伴うインフレの懸念にあります。円が下落すると、輸入品の価格が上昇し、国内のインフレが加速する傾向があります。現在、日本の消費者物価指数は3.00%(2025年10月)に達しており、家計が物価上昇に圧迫されている状況です。
元日銀理事の門間一夫みずほリサーチ&テクノロジーズ・エグゼクティブエコノミストは、足元の急速な円安進行を踏まえ、日銀が12月会合で追加利上げを決める可能性が高いとの見解を示しています。
国債市場の需給悪化も懸念要因
金利上昇の背景には、利上げ観測だけではなく、国債市場の需給悪化も関係しています。11月28日の2年利付国債入札が弱めの結果となりました。これは、2025年度の補正予算が成立したことで国債発行額が増加し、特に2年債の発行が増額となることが背景にあります。
来年1月からは、2年債の1回あたりの発行額が現在の2兆7000億円程度から1000億円多い2兆8000億円程度になる予定です。発行量が増えると、市場の需給バランスが悪化し、国債の売圧力が強まります。これも金利上昇を押し上げる要因の一つとなっています。
政府の経済対策による一時的な緩和
一方、市場にはいくつかの緩和要因も存在します。先週、内閣が経済成長を促進し、インフレで圧迫されている家計を支援するために21.3兆円の経済刺激策を承認しました。この発表を受けて、10年物国債の利回りは一時的に1.78%前後まで低下しました。
しかし、この刺激策の発表後も、市場の基調は利回り上昇圧力が強まっているままです。これは、市場参加者が政府の景気対策よりも、日銀の金融政策引き締めの可能性をより重視していることを示唆しています。
今後の見通し
市場アナリストの予測によれば、日本10年国債利回りは今四半期末には1.76%で取引されると見込まれています。さらに今後12ヶ月では1.58%で取引されると予想されており、短期的にはさらに上昇する可能性がある一方で、中期的には調整する見込みとなっています。
日銀の12月の金融政策決定会合は、今後の市場動向を大きく左右する重要なイベントとなります。植田総裁が利上げを正式に決定すれば、さらなる金利上昇が予想される一方で、決定を先送りした場合は金利が低下する可能性があります。市場参加者は、今後の日銀の動きを注視しながら、ポジションを調整しています。
歴史的には、日本の10年物国債の利回りは1984年6月に7.59%という史上最高を記録しています。現在の1.8%程度は、これと比べると依然として低い水準です。しかし、日本が長年の低金利環境から脱却しつつある可能性を示唆する重要な動きとして注目されています。



