アイスペース、大規模資金調達を発表 株価は一時的に下落も午後には持ち直し

2025年10月8日、月面資源開発を手掛ける宇宙ベンチャー企業の株式会社ispace(証券コード:9348)が、公募増資と第三者割当による新株式発行、さらにオーバーアロットメントによる株式売出しを発表しました。同社は高砂熱学工業と栗田工業から総額50億円規模の資金調達を行うことも明らかにし、市場に大きなインパクトを与えています。

発表当日の株価動向

発表を受けたispace株は、8日の取引で一時的に下落しました。前日終値540円から始まった株価は、増資による希薄化懸念から投資家の警戒感が広がり、日中の安値は540円まで下落しました。しかし、午後の取引では徐々に買い戻しの動きが強まり、最終的には540円で取引を終えました。出来高は1,658,600株と、前日の2,537,000株からは減少したものの、一定の商いを伴いながらの推移となりました。

翌9日の取引では、市場の反応がより明確になってきています。始値541円で取引を開始した後、午前中には高値546円まで上昇する場面も見られ、強気の心理が追い風となって株価は堅調に推移しました。午前の取引段階では前日比プラス圏での推移となり、投資家の間では増資による希薄化懸念よりも、資金調達による事業拡大への期待が優勢となっている様子が窺えます。

資金調達の詳細と背景

今回の資金調達は、公募増資第三者割当増資、そしてオーバーアロットメントによる売出しという複数の手法を組み合わせた大規模なものとなっています。特に注目されるのは、高砂熱学工業と栗田工業という日本を代表する大手企業からの総額50億円の調達です。

高砂熱学工業は空調設備を中心とした建築設備工事の大手企業であり、栗田工業は水処理の国内最大手企業として知られています。両社からの出資は、単なる財務支援にとどまらず、月面での水資源採掘や水処理技術という、ispaceが将来的に展開を目指す事業領域との強いシナジーが期待されています。

ispaceの事業展開と現状

ispaceは、月面への輸送サービスや月面からのデータ提供事業を手掛ける宇宙ベンチャー企業として、2024年3月期には売上高23.6億円を記録しました。2025年3月期の売上高は47.4億円と前期比で大幅に増加し、事業規模は着実に拡大しています。2026年3月期の予想売上高は62.0億円と、さらなる成長が見込まれています。

しかし、同社は研究開発や事業投資に多額の資金を必要とする段階にあり、2025年3月期の経常損益はマイナス113億円、最終損益はマイナス119億円と大幅な赤字となっています。特にミッション2の月面着陸失敗の影響もあり、損失が拡大している状況です。

2026年3月期第1四半期の決算では、売上高が前年同期比83.4%増の11億6,500万円と好調な伸びを示しましたが、依然として損失は継続しています。一方で、長期借入金の増加により現金及び預金が大幅に増加しており、今回の増資と合わせて、今後のミッション遂行のための十分な資金を確保する体制が整いつつあります。

市場の反応と投資家心理

一般的に、公募増資の発表は既存株主の持分が希薄化するため、株価にとってネガティブな材料として受け止められることが多いのが実情です。実際、8日の発表直後には希薄化懸念から株価が軟調な動きとなりました。

しかし、翌9日の取引では状況が一転し、午後の取引で株価が上昇する展開となりました。これは、いくつかの要因が考えられます。まず、調達資金の使途が明確であり、月面での水資源開発という将来性のある事業への投資であることが評価されたと見られます。また、高砂熱学工業と栗田工業という大手企業が出資することで、事業の信頼性と実現可能性が高まったという見方も広がっています。

さらに、宇宙開発分野への関心が世界的に高まっている中で、日本企業が月面資源開発という最先端領域で主導的な役割を果たすことへの期待感も、株価を下支えする要因となっていると考えられます。

株価の推移と技術的な分析

ispaceの株価は、2025年に入ってから大きな変動を経験しています。年初来高値は5月16日の1,460円を記録しましたが、その後は調整局面が続き、8月21日には年初来安値の518円まで下落しました。現在の株価水準は540円前後であり、年初来高値から約63%の下落、年初来安値からは約4%の上昇という位置にあります。

10月に入ってからの株価動向を見ると、10月1日の526円から徐々に回復基調にあり、10月6日には573円まで上昇しました。その後、今回の増資発表を経て一時的に調整したものの、540円台を維持しており、底堅さを示しています。

信用取引の状況を見ると、買い残が8,888千株と大きく積み上がっており、信用倍率は8,888倍という極端な水準となっています。これは売り残がほとんどない状況を示しており、投資家の多くが同社の将来性に強気の姿勢を取っていることが窺えます。

今後の展望と注目点

ispaceは2025年11月14日に次回の決算発表を予定しており、今回の資金調達が事業計画にどのように組み込まれているか、詳細が明らかになることが期待されています。特に、高砂熱学工業と栗田工業との協業による具体的なプロジェクトの内容や、月面での水資源採掘に向けたタイムラインなどが注目されます。

同社の時価総額は約575億円であり、今回の50億円規模の資金調達は時価総額の約9%に相当する大規模なものです。この資金を活用して、ミッション遂行の成功率を高め、事業の収益化に向けた道筋をより明確にできるかが、今後の株価動向を左右する重要な要素となるでしょう。

月面資源開発という未踏の領域において、日本企業が技術力と資金力を結集してチャレンジする姿勢は、長期的な視点から見て大きな可能性を秘めています。ただし、宇宙開発事業は高いリスクを伴うことも事実であり、投資家には慎重な判断が求められます。今後の事業進捗と財務状況を注視しながら、同社の挑戦を見守っていく必要があるでしょう。

まとめ

ispaceによる大規模資金調達の発表は、当初は希薄化懸念から株価の下押し圧力となりましたが、高砂熱学工業と栗田工業という信頼性の高いパートナーからの出資と、月面での水資源開発という明確なビジョンが示されたことで、市場の見方は徐々に前向きなものへと変化しつつあります。宇宙開発という壮大なテーマに挑戦する同社の今後の動きから、目が離せない状況が続きそうです。

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