IBM×HashiCorp、Terraformをめぐる最新動向とAI戦略をわかりやすく解説

IBMが買収を完了したHashiCorpをめぐり、インフラ自動化ツール「Terraform」の仕様変更と、AI分野での大型買収が相次いで話題になっています。この記事では、
Terraformの「外部言語サポート終了」と、
IBMによるCognitus買収の意味を、やさしい言葉で整理してお伝えします。

IBMとHashiCorpの関係整理:Terraformはなぜ重要なのか

まず前提として、IBMは2025年2月に、Terraformの開発元であるHashiCorp社の買収を完了しています。この買収によって、IBMは以下のような狙いを持っているとされています。

  • ハイブリッドクラウド(オンプレミス+複数クラウド)環境でのインフラ自動化を一気に強化する
  • TerraformやVaultなど、クラウド依存しないマルチクラウド対応ツール群を自社ポートフォリオに取り込む
  • AI時代に増大する複雑なITシステムの管理を、自動化とセキュリティで支援する

Terraformは、インフラをコードとして管理するIaC(Infrastructure as Code)ツールのデファクトスタンダードといわれる存在です。仮想マシン、ネットワーク、Kubernetesクラスターなどを、宣言型言語であるHCL(HashiCorp Configuration Language)で記述し、クラウドやオンプレミスに自動的に構築・更新できるのが特徴です。

IBM側も公式に、Terraformを「人間が読みやすいコードでインフラをプロビジョニングできるツール」として紹介しており、Red Hat OpenShiftやAnsibleなどと組み合わせたインフラ自動化の中核として位置付けています。

ニュース1・2:Terraformの「外部言語サポート終了」とは何か

今回大きな話題となっているのが、
「IBM HashiCorp Ends External Language Support for Terraform」
「Sunsets External Language Support」というニュースです。これは、Terraformにおける外部プログラミング言語のサポートを終了し、HCL中心の利用に一本化していくという動きです。

Terraformの外部言語サポートとは

Terraformは本来、HCLでインフラの望ましい最終状態を宣言的に書くツールですが、一部の開発者やチームは、次のような方法で外部言語を組み合わせて使ってきました。

  • GoやPythonなどの言語で書いたツールからTerraformを呼び出す
  • 外部プラグインやツールチェーンで、HCL以外のロジックを差し込む
  • Terraform実行フローの一部を外部スクリプトで制御する

こうした「Terraform+外部言語」の組み合わせは柔軟でしたが、同時に以下のような課題も生んでいました。

  • バージョン互換性の管理が複雑になる
  • セキュリティホールやメンテナンス負荷が増える
  • サポート対象が広がりすぎて、品質保証が難しくなる

外部言語サポート終了のねらい

IBMとHashiCorpが外部言語サポートを終了することで目指しているのは、Terraformをより安全で一貫性のあるHCLベースのプラットフォームとして進化させることです。

背景には、Terraformのライセンス変更やエンタープライズ向け機能の強化など、「プロダクトとしての責任・サポート範囲を明確にする」流れがあります。外部言語やサードパーティ連携を無制限に広げるよりも、コアとなるHCLと公式機能にリソースを集中させる判断と言えます。

IBM Cloud Schematicsにも現れるHCL重視の方針

IBM Cloud上でTerraformを使ったインフラ自動化を提供するサービスがIBM Cloud Schematicsです。このサービスのドキュメントでも、
「HCLで提供される保守フィックスおよびセキュリティーフィックスを使用してTerraformリリースを継続してください」と明記されており、HCLベースでの運用継続が強く推奨されています。

さらに、SchematicsではTerraformバージョンごとにサポートと非推奨(廃止)までのライフサイクルが定められており、GA(一般提供)から24か月後には、そのバージョンでのワークスペース実行が制限される、といった具体的なルールも示されています。

こうしたIBM側の方針は、

  • HCLを中心としたTerraformの安定運用
  • セキュリティアップデートが提供される最新系へのアップグレード促進

を意識したもので、今回の「外部言語サポート終了」とも方向性が一致しています。

ユーザーへの影響:何が変わり、何を準備すべきか

では、実際にTerraformを使っている利用者や企業には、どのような影響があるのでしょうか。ポイントを整理してみます。

1. HCLベースのテンプレートが今後の主流に

まず、HCLで書かれた既存のTerraformテンプレートは、1.x系のリリース間で互換性が維持されるすでにHCLで運用している多くのユーザーは、今後も比較的スムーズにアップグレード・移行が可能です。

一方で、

  • 外部スクリプトに依存した運用
  • 独自プラグインに重く依存した構成

をとっている場合には、HCLへのロジック移行や、公式機能への置き換えが必要になる可能性があります。

2. セキュリティとコンプライアンスの観点でのメリット

TerraformをHCL中心で利用し、IBM Cloud Schematicsのようなマネージドサービスと組み合わせることで、

  • サポート対象が明確になり、問題発生時に原因切り分けしやすくなる
  • 保守フィックスやセキュリティ修正が提供されるバージョンに追従しやすくなる

といったメリットがあります。

特に、証明書の有効期限短縮やゼロトラストなど、セキュリティ要件が厳しくなるなかで、IaCとセキュリティ運用をセットで自動化することは、多くの企業の課題となっています。Terraform+Vault+Ansibleといった組み合わせで、IBMはこの領域を強化しようとしています。

3. 開発チーム内のスキルセットの見直し

外部言語サポートの終了により、Terraformの利用にあたっては、ますますHCLの知識が重要になります。これまでPythonやGoで制御ロジックを書いていたチームは、

  • HCLによるモジュール設計や変数管理
  • Terraformの標準機能(ループ、条件分岐、モジュール分割など)の理解

へとシフトしていく必要があります。IBMやHashiCorpは、ドキュメントやイベント(例:HashiConf)などを通じて、こうしたベストプラクティスの共有も進めています。

ニュース3:Cognitus買収はIBMのAI戦略で何を意味するのか

もう一つの注目ニュースが、
「Could the Cognitus Acquisition Be IBM’s Most Significant AI Move in Years?」という話題です。Cognitusは、企業向けのデータ分析やAI関連ソリューションを提供してきた企業で、IBMの買収によって、同社のAIスタックやコンサルティング能力の強化に寄与すると見られています。

ここで大切なのは、この買収が単なるAI企業の取り込みではなく、TerraformやHashiCorpとのシナジーを意識した動きとして捉えられている点です。

インフラ自動化とAIの組み合わせ

IBMはすでに、HashiCorpの技術とRed Hat製品を組み合わせたハイブリッドクラウド基盤の強化を打ち出しています。具体的には、

  • Terraformでインフラ構成をコード化し、マルチクラウド環境を自動構築する
  • Vaultでシークレットや証明書、鍵を一元管理し、セキュアな運用を実現する
  • Red Hat OpenShiftやAnsibleと連携し、アプリケーションや運用フローまで自動化する

さらに、HashiCorp自身もHCP Terraform MCP serverのように、自然言語でTerraformレジストリやワークスペースと対話できる、AI活用機能を発表しています。これは、AIクライアントやIDE(統合開発環境)から、文脈に応じたインフラ管理やインサイト取得を可能にするもので、まさに「AI×インフラ自動化」の具体的な取り組みです。

この文脈でCognitusのようなAI関連企業の買収を見ると、
データ分析・AIモデル構築と、インフラ自動化・運用自動化を一体で提供するという、IBMの大きな方向性の一部として位置づけられます。

IBMのAI・自動化ロードマップの中での位置付け

IBMはすでに、

  • AI時代のハイブリッド統合基盤の発表
  • IBM TechXchangeなどのイベントでの、Terraform・Vault・Red Hatの連携事例紹介

などを通じて、AIと自動化を両輪とした戦略を打ち出しています。

Cognitus買収は、その中でも特にデータとAI活用の高度化にフォーカスした動きであり、HashiCorp買収によるインフラ・セキュリティ・運用自動化の強化と組み合わさることで、

  • データ基盤の構築からAIモデル運用までを、コードとポリシーで統合管理する
  • AIによるインフラ運用支援(例:自然言語でのTerraform操作や最適化提案)を推進する

といったビジョンを支える基盤になっていくと考えられます。

企業やエンジニアはどう向き合うべきか

ここまで見てきたように、IBMとHashiCorpを取り巻く動きは、
「HCL中心のTerraform」「AIによるインフラ運用支援」「ハイブリッドクラウドとセキュリティの一体化」という3つの方向性で進んでいます。

企業やエンジニアが取るべき具体的なアクションとしては、次のようなものが考えられます。

  • Terraform利用状況の棚卸し:外部言語や独自プラグインへの依存度を確認し、HCLへの移行計画を立てる
  • バージョン管理とライフサイクル管理の徹底:IBM Cloud Schematicsのポリシーなどを参考に、Terraformバージョンアップの運用ルールを整える
  • セキュリティ運用の自動化:Vaultや証明書管理を組み合わせ、AI時代の短い証明書有効期限にも対応できる体制を整える
  • AI活用への準備:HCP Terraform MCP serverなど、自然言語によるインフラ運用支援機能の登場を見据え、IaCとAIの組み合わせに慣れておく

Terraformの外部言語サポート終了は、一見すると「制約が増える」ニュースに見えるかもしれません。しかし、その裏側には、
HCLと公式機能に軸足を置いた、より安全で予測可能なインフラ自動化へのシフトという意図があります。

同時に、Cognitus買収をはじめとするAI領域での投資は、
インフラ運用そのものを、AIで支援・自動化していく未来への布石と言えます。IBMとHashiCorpを中心としたエコシステムは、今後もクラウドとAIの交差点で、大きな存在感を放ち続けることになりそうです。

参考元