香港、グリーンファイナンス・ハブとしての挑戦と展望~新たな世界基準と気候危機への対応

香港は、近年「グリーンファイナンス・ハブ」として世界的な注目を集めています。環境配慮型の金融商品やサービスを国際的に展開し、持続可能な経済をリードする都市へと急速に成長しています。しかし、気候変動による極端気象のリスクも高まる中、香港はどのようにしてグリーンファイナンス拠点としての地位を築き、維持し、さらなる高みを目指しているのでしょうか。本記事では、2025年秋に発表された新たな動きと今後の課題について、最新情報をふまえてわかりやすくお伝えします。

グリーンファイナンスとは?

グリーンファイナンスとは、再生可能エネルギーや省エネ技術、持続可能な都市開発など、環境への負荷削減や気候変動対策に直接資するプロジェクトや企業に資金を供給する金融活動のことです。これには、グリーンボンドサステナブルローン、カーボンクレジットの取引などが含まれます。金融の力で社会全体のサステナビリティ(持続可能性)を高めるものとして、国際的に急成長しています。

香港のグリーンファイナンス推進の現状

  • 2024年にはグリーンおよびサステナブル債券・ローン発行額が840億米ドルを突破し、アジアで7年連続トップの座を維持
  • 香港政府主導のグリーンボンド発行も2,400億香港ドル規模に
  • クロスボーダー(国境を越えた)取引や、中国本土・アジア諸国とのパートナーシップ拡大
  • HKEX(香港証券取引所)による国際カーボンマーケット「Core Climate」の運営(100以上の企業・機関参加)
  • 世界水準に合わせた「香港サステナブルファイナンス・タクソノミー」の策定

このように、香港は政府・金融業界・企業・アカデミア等が一体となり、多面的にサステナブルファイナンスを推進しています。また、香港グリーンファイナンス協会(HKGFA)の年次フォーラムや各種国際会議も盛況で、アジアの中でも研究・人材育成・情報発信の中核的役割を担っています。

国際標準の導入と「グリーン建築認証」新制度

2025年10月、香港は国際的なグリーン建築認証(building certificates)の新制度を導入しました。これは建物の設計・運用・ライフサイクル全体での省エネ性、二酸化炭素排出削減、水資源管理、廃棄物削減など複数の環境指標で評価・格付けするものです。

  • 世界標準のグリーン建築評価システムを採り入れ、透明性・信頼性を強化
  • 建築不動産分野におけるグリーンファイナンスへの資金流入を後押し
  • 外資系ビル賃貸・不動産投資ファンドからの資本呼び込みにも効果
  • 今後、港湾地区やニュータウン開発、商業ビルリニューアルも対象拡大へ

この動きは、EUやシンガポール、中国本土のタクソノミー(経済活動の持続可能性を分類・定義する枠組み)と歩調を合わせつつ、香港独自の都市インフラや企業文化にも配慮した設計となっています。

データと透明性の向上 ― グローバルな投資家の信頼へ

投資家や金融機関が安心してグリーンファイナンス商品を売買・投資できるには、「グリーンウォッシング(見せかけだけの環境配慮)」リスクを抑え、情報開示や透明性を徹底する必要があります。そのため、香港サステナブルファイナンス・タクソノミーでは下記の特徴をもっています。

  • 投資先プロジェクトの環境効果や二酸化炭素削減量、資金使途を定期的にレポート
  • グリーンボンド等発行体が第三者機関による国際認証や外部レビューを取得
  • 主要経済12分野にまたがる詳細な分類を策定し、今後さらに拡充予定
  • 国際的な持続可能性基準委員会(ISSB)の基準採用を推進

こういった取り組みにより、環境金融市場全体の信頼性・国際競争力が高まり、グローバル資本の呼び込みに大きく寄与しています。

ビジョンを示す「香港エコブループリント」

香港政府は「香港2035環境ビジョンブループリント」(仮称)を発表し、以下の大きな振興策を打ち出しています。

  • 2035年までに温室効果ガス排出量半減、2050年までにカーボンニュートラル達成目標
  • 再生可能エネルギー導入拡大、省エネ建築の普及、スマート交通・EV(電気自動車)推進
  • 地場中小企業向けのグリーンファイナンス支援施策を強化
  • 気候変動対応力・防災インフラへの公的・民間投資促進

これに伴い、新たなエコ都市開発やグリーンイノベーション人材育成も進み、産学官一体のサステナビリティ・エコシステムの構築が急がれています。

極端気象リスクと香港グリーン目標への影響

一方で、地球温暖化や気候変動の影響によって、台風・豪雨・高潮などの極端気象が激化し、都市インフラや金融システムにも大きなリスクが浮上しています。

  • 今年も記録的な豪雨や高潮被害で公共財や不動産価値への影響が増大
  • 気候リスクに備える保険商品や災害対応型グリーンボンドの重要性が増加
  • こうした極端気象リスクを盛り込んだ、より高度な金融規制や開示基準が今後の焦点
  • 国際金融機関もグリーン投資の成否は「気候レジリエンス(強靭性)」にかかると強調

グリーンな都市経営へ向かう一方で、こうした大規模災害リスクとどのように向き合うかは、今後の香港グリーンファイナンスの持続可能性を左右する重要な課題となっています。

アジアのグリーンファイナンス拠点としての香港の意義

  • 中国本土や東南アジア諸国との連携により、域外国際資本の呼び込みを加速
  • 国際標準に即した情報公開や商品設計で、グローバルな投資家の安心感を醸成
  • 最新のデジタル金融・フィンテック技術とも連携し、グリーンボンドやカーボンクレジット取引を効率化
  • 産官学民が一体となったエコイノベーション人材の育成や社会啓発活動も積極展開

特に、2025年「香港グリーンファイナンス・ウィーク」の開幕や、国際グリーンファイナンス協会フォーラムの開催など、香港の情報発信基地としての役割もますます重要となっています。

課題と今後の展望

もちろん、課題も多く残ります。

  • グリーン金融商品に対する市民や企業の理解促進と需要喚起
  • 極端気象による経済損失や資本逃避リスクへの対応
  • 新興国特有の規制ギャップや情報非対称性の克服
  • 柔軟な国際連携と地域特性に応じたイノベーションの追求

こうした現状をふまえ、香港は「アジアのグリーンファイナンス首都」として、世界の持続可能な発展と金融の未来をリードする都市であり続けられるのか──今後の動向に注目が集まっています。

参考元