中国で「ホンダ シビック タイプR TCR」ライバル車が即完売、その背景とは?

中国自動車市場で、いまホンダ シビック タイプRの存在感が、思わぬかたちでクローズアップされています。きっかけとなったのは、「シビック タイプR TCR」のライバルとなる中国ブランドのレーシング仕様モデルが、約19万8,000ドル(日本円でおよそ3,000万円級)という高額にもかかわらず、販売開始と同時に即完売したというニュースです。この出来事は、中国のスポーツカー市場の盛り上がりとともに、ホンダおよびシビック タイプRという名前が、グローバルにどれほど強い“指標”になっているかを示しています。

同時期、中国ではLynk & Co 03+ TCRレーサーも発売と同時に完売し、さらにロボティクス分野ではLingSheng Technology(鈴勝科技)1億元(約20億円級)の資金調達に成功するなど、自動車とテクノロジーを軸にしたニュースが相次いでいます。本記事では、その中でも「ホンダ」というキーワードを軸に、中国市場でいま何が起きているのかを、やさしい言葉で整理してお伝えします。

ホンダ シビック タイプR TCRとは?簡単なおさらい

まず、ニュースの比較対象として度々名前が挙がる「ホンダ シビック タイプR TCR」について、簡単におさらいしておきましょう。

シビック タイプRは、ホンダの量産スポーツモデルとして世界的に人気のあるホットハッチで、現行型は「FL5」型と呼ばれています。これをベースに、世界各地で開催されている「TCR」規定のツーリングカーレースに参加できるよう、サーキット専用に仕立てたのがシビック タイプR TCRです。

TCRマシンは、通常の市販車と比べて足回りやエアロパーツ、ロールケージ、ブレーキなどが大幅に強化され、完全なレースカーとして販売されます。ヨーロッパなどでは、2025年型のCivic FL5 TCR約14万5,000ユーロ前後で案内されており、およそ2,000万円台クラスのレーシングカーとして扱われています。

つまり、今回中国で話題になっている「19万8,000ドル級のシビック タイプR TCRライバル」が即完売したというニュースは、「ホンダのシビック タイプR TCRクラスと同等価格帯の、本格レーシング仕様車が中国ブランドから登場し、しかも一瞬で売り切れた」というインパクトを持って受け止められているわけです。

ニュース1:中国の「シビック タイプR TCRライバル」が約19万8,000ドルで即完売

ニュース内容1では、中国ブランドが投入したシビック タイプR TCRのライバル車が、価格約19万8,000ドルという非常に高額でありながら、発売と同時に瞬時に完売したと伝えられています。この金額は、日本円に換算するとおおよそ2,800万〜3,000万円台というレンジにあたり、一般的な乗用車の感覚からすると「超高級レーシングカー」と言ってよい価格帯です。

ここで重要なのは、この中国製レーシングモデルが、スペックや用途の点でホンダ シビック タイプR TCRと同じ「TCRレース」カテゴリーに属する“競合マシン”として位置づけられている点です。TCRは、世界中のメーカーが参戦している人気のツーリングカーレース規定で、ホンダの他には、ヒュンダイやアウディ、Lynk & Coなど多くのブランドがマシンを供給しています。

このライバル車が即完売した背景としては、以下のような要因が考えられます。

  • 中国国内でのモータースポーツ人気の高まり:サーキット走行やレース参戦への関心が増し、TCRマシンへの需要が強まっている。
  • 中国メーカーの技術力向上:ホンダなど海外メーカーのTCRマシンと真っ向勝負できるスペックを備えた“国産レーサー”として注目を集めている。
  • 限定台数によるプレミア感:少数生産のため、発売開始と同時に予約が殺到し、すぐに完売した可能性が高い。

とくにポイントになるのは、比較対象として自然にホンダ シビック タイプR TCRの価格帯が使われていることです。すでに述べたように、シビック タイプR TCRは海外でおよそ14万〜15万ユーロ前後、日本円で2,000万円台のレンジに位置しており、中国ブランドが19万8,000ドルという価格を掲げたのは、「ホンダと同等か、それ以上の価値」を示したいという意識もうかがえます。

ニュース2:LingSheng Technology、具現化AIロボットで1億元の資金調達に成功

次に紹介するニュースは、直接ホンダ車とは関係ないように見えますが、「テクノロジー」と「モビリティ」の今後を考える上で見逃せない話題です。それが、中国のLingSheng Technology(鈴勝科技)による1億元(約100ミリオン人民元)の資金調達です。

LingSheng Technologyは、いわゆる「Embodied AI(エンボディドAI)」ロボットを開発している企業です。Embodied AIとは、単に画面上で会話するAIではなく、物理的な身体(ロボット本体)を持ち、現実世界の環境の中で動き、作業を行うAIを指します。たとえば、人型ロボットや作業ロボットなどがこれにあたります。

1億元という規模の資金調達は、中国のスタートアップにとってもかなり大型の部類に入り、それだけロボティクスとAIの融合分野への期待が高いことがわかります。

このニュースが「ホンダ」とどう関わるのか、ピンとこない方も多いかもしれません。しかし、自動車メーカー各社はすでに、自動運転技術や運転支援システム、工場での生産ロボット、パーソナルモビリティなど、多方面でAIとロボット技術を導入しています。ホンダ自身も、かつての「ASIMO」に代表されるように、人型ロボットや先進運転支援技術の研究を長年行ってきた企業です。

そのため、中国でロボティクス系スタートアップが大型資金調達を行い、「エンボディドAI」の研究開発を加速させている現状は、将来的に自動車メーカーとの協業や競争という形でホンダにも間接的な影響を与えていくと考えられます。たとえば、将来的に

  • 自動車工場での高度な自律ロボットの活用
  • 家庭用ロボットとクルマの連携(クルマの自動移動や充電など)
  • 完全自動運転車に近い「移動するロボット」としてのクルマ

といった場面で、こうしたEmbodied AI技術が活かされていく可能性が高く、ホンダを含むグローバル自動車メーカー各社にとって、中国発テクノロジー企業の動きは決して無関係ではないと言えるでしょう。

ニュース3:Lynk & Co 03+ TCRレーサー、中国で発売即完売

ニュース内容3では、中国の自動車ブランドLynk & Coが投入した「03+ TCRレーサー」が、発売開始と同時に売り切れとなったことが伝えられています。Lynk & Co 03はセダン型のモデルで、その高性能版「03+」をベースに、TCRレース向けに仕立てられたレーシングモデルが「TCRレーサー」です。

Lynk & Co 03 TCRは、すでに国際的なTCRシリーズで強豪マシンとして知られており、中国だけでなくヨーロッパのレースでも活躍しています。今回の03+ TCRレーサー即完売は、次のような意味を持ちます。

  • 中国国内に、TCR規定マシンを個人やチームで購入しようとする層が十分に存在することを示す。
  • 中国ブランドのレーシングマシンが、ホンダ シビック タイプR TCRなど海外勢と肩を並べる存在として認識されていることの表れ。
  • モータースポーツを通じたブランドイメージ向上戦略が、中国メーカーにも浸透していることを象徴する出来事。

ここでもやはり、「TCR」といえばシビック タイプR TCRが代表格の一つであるため、Lynk & Co 03+ TCRレーサーはホンダのライバルとして語られることが多くなります。中国メーカーのTCRマシンが完売するというニュースは、そのままホンダと中国メーカーによるハイパフォーマンス市場でのせめぎ合いを映し出している、とも言えるでしょう。

シビック タイプRの市販モデルも価格上昇と人気が続く

こうしたレーシング分野での動きと並行して、シビック タイプR市販モデルも世界的に注目を集め続けています。たとえばベトナムでは、2025年モデルのシビック タイプRに新色が追加されるとともに、販売価格が大きく引き上げられたことが報じられています。

具体的には、ホンダベトナムが2025年1月からシビック タイプRの価格を23億9,900万VNDから29億9,900万VNDへと約6億VND引き上げており、装備は大きく変わらないものの、人気と需要の高まりを背景とした価格改定とみられています。日本国内でも、シビック タイプRは新車価格が600万円台と、かつてよりも大幅に高額になったことが話題になりましたが、それでも販売面では依然として高い人気を維持しています。

このように、市販モデルとしてのシビック タイプRは、世界各国で「高価だが欲しいクルマ」として位置づけられており、その一方で、レース用のシビック タイプR TCRは、TCRカテゴリーの「基準」とも言える存在になっています。そのため、中国ブランドが同価格帯・同カテゴリのマシンを発売するとき、自然と比較対象や“ベンチマーク”としてホンダの名前が挙がるのです。

中国市場で見えてきた「ホンダ vs 中国メーカー」の新しい構図

ここまで見てきた3つのニュースは、一見バラバラの話題のように見えますが、「ホンダ」というキーワードを中心に整理すると、いくつかの共通する流れが見えてきます。

  • 中国ブランドによるシビック タイプR TCRライバル車が、約19万8,000ドルという高額にもかかわらず即完売
  • Lynk & Co 03+ TCRレーサーも同様に発売と同時に売り切れ
  • ロボティクス分野では、LingSheng Technologyが1億元の資金調達を行い、AIとロボット技術に巨額投資が集まっている。

これらの動きを総合すると、現在の中国市場には次のような特徴があると考えられます。

  • ハイパフォーマンスカー市場の急速な拡大:レーシングカーやサーキット志向のスポーツモデルに対する需要が高まり、ホンダ シビック タイプR TCRクラスのマシンに匹敵する価格帯でも、完売するほどの支持がある。
  • 中国ブランドのブランド力向上:価格や性能でホンダなどの海外勢に迫り、あるいは並びつつあり、「国産ハイパフォーマンスカー」として自信を持ってTCRマシンを打ち出している。
  • モビリティとテクノロジーの融合:LingSheng TechnologyのようなAIロボット企業への投資が活発で、自動車だけでなく「移動するロボット」としてのモビリティに対する期待が高い。

ホンダにとって、この状況は脅威であると同時にチャンスでもあります。脅威という意味では、中国ブランドがTCRマシンやハイパフォーマンスカーの分野で急速に力をつけており、「速くて高級なスポーツモデル=海外ブランド」という構図が崩れつつある点が挙げられます。

一方でチャンスという意味では、ホンダ シビック タイプRというモデルが、いまだに中国を含む世界中で「スポーツカーの物差し」として扱われていること自体が、ブランド価値の高さを示しています。中国市場でTCRマシンやハイパフォーマンスカーへの関心が高まれば高まるほど、「本家」としてのホンダやシビック タイプRに対する注目も、引き続き集まり続けるでしょう。

今後ホンダに期待される方向性

今回のニュース群から見えてくる、「これからホンダに期待される方向性」は、おおまかに次の3点にまとめられます。

  • モータースポーツ分野での存在感維持・強化
    シビック タイプR TCRはすでに世界的なTCRマシンの代表格ですが、中国ブランドなど新興勢力が増える中で、引き続き勝てるマシンとしての進化が求められます。
  • 市販スポーツモデルの魅力向上
    価格が上昇傾向にある中で、それに見合う走りの楽しさや質感、所有する喜びをどこまで磨けるかが重要になります。
  • AI・ロボティクスとの連携強化
    LingSheng Technologyのような企業の台頭は、将来的に自動車とロボットの境界を曖昧にしていく動きでもあります。ホンダがかつてから取り組んできたロボット技術や自動運転技術を、どのように次世代モビリティとして形にしていくかも大きなポイントです。

いま中国で起きている「シビック タイプR TCRライバル車の即完売」や「Lynk & Co 03+ TCRレーサー完売」、そして「Embodied AIロボットへの大型投資」は、すべてがモビリティの未来像の一端を示しています。その中心に、依然としてホンダという名前があり続けていることは、日本のメーカーにとって大きな誇りであると同時に、これからも進化を止めてはいけないというメッセージでもあるのかもしれません。

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