日本企業の「データ活用」が進まない本当の理由と、東大・江崎教授が語る“正しいデータ戦略”とは

日本企業では、データやAIの活用が重要だと言われ続けていますが、実際に全社レベルで十分な成果を出せている企業はわずか2.4%しかないことが、ガートナージャパンの最新調査で明らかになりました。
なぜこれほどまでに「データ活用」がうまくいかないのでしょうか。そして、企業はどのようにデータ戦略を立て直せばよいのでしょうか。
本記事では、ガートナーの調査結果と、「分散データをどう活かすか」という課題、さらに東京大学・江崎教授が解説する「正しいデータ戦略」のポイントを、やさしい言葉で整理してお伝えします。

日本企業のデータ活用、全社で成功しているのは「2.4%」だけ

ガートナージャパンが発表した日本企業のデータ活用に関する調査によると、「データ活用で全社的に十分な成果を得ている」と答えた企業は、全体の2.4%にとどまりました。
多くの企業がDXやAI、データ利活用を掲げているにもかかわらず、「きちんと成果につながっている企業」はごく一部だと言えます。

この背景として、以下のような課題が指摘されています。

  • データが部門ごとに分断されており、全社的な活用ができていない
  • データを扱う基盤やルールが整っていないため、分析よりも“集める作業”に時間がかかってしまう
  • 経営層がデータ活用を戦略テーマとして位置づけきれていない
  • 「データはある」が、ビジネスの意思決定や新サービスにうまく結びついていない

また、別の調査では、データを直接お金に変える「データ収益化」の取り組みを行っている企業は3.9%に過ぎず、そのうち経済効果を上げている企業はさらに一部にとどまるという結果も出ています。
つまり「データは持っているが、活かしきれていない」という日本企業の姿が浮かび上がっています。

なぜ「分散されたデータ」が問題になるのか

多くの企業では、営業、購買、生産、人事、マーケティングなど、部門ごとに別々のシステムを導入してきました。その結果、データは縦割りでバラバラに蓄積されているケースが目立ちます。

この「分散データ」がもたらす問題には、次のようなものがあります。

  • 全体像が見えない:部門ごとには状況がわかっても、「顧客単位」「案件単位」「サプライチェーン全体」などで俯瞰することが難しい
  • 同じデータを何度も集めている:レポート作成のたびに、各部門からエクセルで吸い上げるなど、非効率な作業が増える
  • データの整合性が取れない:A部門とB部門で顧客コードや品番の体系が違い、突き合わせに時間がかかる
  • ガバナンスが効かない:誰がどのデータを扱えるのか、管理や監査の観点からもリスクが高まる

これらの問題は、単に「システムが古い」からだけではなく、長年にわたり個別最適でシステムを導入してきた結果として起こっています。
別の調査でも、日本企業のデジタル化予算の多くが特定部門向けの部分最適に偏っており、全社的な「情報基盤づくり」まで手が回っていない現状が指摘されています。

なぜ「一元管理できるデータ基盤」が重要なのか

分散されたデータを活かすために、いま多くの専門家が強調しているのが「データの一元管理を可能にする基盤整備」です。
ここで言う「データ基盤」とは、データウェアハウス(DWH)、データレイク、あるいはそれらを統合したプラットフォームなどを指し、社内外のデータを集約・整理し、必要な人が必要な形で利用できるようにする土台のことです。

データ基盤を整えることには、次のようなメリットがあります。

  • 全社横断の分析が可能:営業データと製造データ、人事データをまたいだ分析など、「部門の壁」を越えた示唆が得られる
  • データ品質の向上:重複や欠損、形式のバラつきを、基盤側で統合的に管理しやすくなる
  • 新サービス・新事業への転用:社内向けのデータ活用にとどまらず、顧客向けサービスやデータ収益化につなげやすい
  • AI活用の前提条件が整う:AIや機械学習に必要なデータを、安定的かつ安全に供給できる

近年は、クラウドの普及や分析ソフトウェア、機械学習アルゴリズムの進化によって、データ基盤の構築コストは以前より下がり、中小企業でも取り組みやすくなってきています。
一方で、「とりあえずクラウドにデータを集める」だけでは不十分で、どのデータをどの粒度で、どの目的のために集約するのかという設計思想が問われています。

東大・江崎教授が語る「企業の正しいデータ戦略」とは

こうした状況を踏まえ、東京大学の江崎教授は、企業が取り組むべき「正しいデータ戦略」の重要性を指摘しています。
江崎教授の解説では、データ戦略を考えるうえで特に重要になる2つの要素が強調されています。

要素1:データを「経営資産」として位置づけること

1つ目の要素は、データを単なる「システムの副産物」ではなく、経営の中核となる資産として位置づけることです。
これは、データを「コスト削減のための道具」とだけみなすのではなく、売上拡大や新規事業、顧客価値の向上に結びつく戦略的リソースとして扱う、という考え方です。

この発想を持つと、企業の意思決定も次のように変わっていきます。

  • 短期的な効率化だけでなく、「データを蓄え、将来の分析やサービスに活かす」という中長期の視点が生まれる
  • 新しい業務システムを入れる際に、「そのシステムでどんなデータが貯まり、どう活かすか」を最初から設計するようになる
  • 経営指標やKPIに、「データ活用度」「データ品質」「データを活用した新売上」などが組み込まれる

実際、データ収益化に取り組んでいる企業の一部は、顧客データや行動データを分析することで、新しい料金モデルやダイナミックプライシングを実現し、収益を最適化しています。
このようなケースでは、データは単なる管理情報ではなく、まさにビジネスを生み出す源泉として機能しています。

要素2:全体最適を見据えた「データ基盤」と「組織体制」の両輪

2つ目の要素は、データ戦略を「技術」と「組織体制」の両面で設計することです。
データ基盤だけを立派に整えても、現場が使いこなせなければ意味がありませんし、逆に、現場の意欲が高くても、全社横断でデータを扱える環境がなければ、取り組みは部分最適にとどまってしまいます。

そのため、正しいデータ戦略では、次のような全体像が意識されます。

  • 経営層のコミットメント:データ活用を経営戦略として明言し、予算と人材をきちんと割り当てる
  • データ基盤の整備:分散データを統合し、品質を担保しながら、安全に活用できる環境を作る
  • ガバナンスとルール:誰がどのデータをどう使えるのか、プライバシーやセキュリティの観点も含めて定める
  • 現場との連携:ビジネス部門とIT部門が協力し、「現場で使える分析」を一緒に設計する
  • 人材育成:データサイエンティストだけでなく、現場でデータを読み解ける「データリテラシー人材」を増やす

AI活用に成功している企業の多くは、こうした「全体最適」の視点を持ち、部分的な自動化にとどまらず、業務全体やビジネスモデルの変革まで見据えています。
江崎教授が語る「正しいデータ戦略」とは、まさにこのように、経営・組織・技術を一体で捉えるアプローチだと言えるでしょう。

日本企業がこれから取り組むべきステップ

では、現時点で「2.4%に入っていない」多くの企業は、どこから手を付ければよいのでしょうか。
すべてを一気に変えるのは難しいため、次のようなステップで段階的に進めることが現実的です。

  • 1.自社のデータ活用の現状を見える化する
    どの部門にどんなデータがあり、どのシステムに蓄積され、誰がどう使っているのかを棚卸しします。これにより、「分散の実態」や「データ品質のばらつき」が見えるようになります。
  • 2.経営課題と結びつくテーマを1つ決める
    売上向上、離職率低下、在庫削減、顧客満足度向上など、経営が重視しているテーマと結びつけて「データで解くべき課題」を明確にします。
  • 3.そのテーマに必要なデータを「横串」で集める
    部門の枠を越えてデータを集約し、試行的に小さな「データ基盤」を作ってみます。この成功体験が、全社展開の足がかりになります。
  • 4.成功事例を社内で共有し、経営層の理解を深める
    「データ活用でこれだけの成果が出た」というストーリーを可視化し、次の投資や組織体制づくりにつなげます。
  • 5.中長期のデータ戦略と基盤ロードマップを作る
    東大・江崎教授が説くように、データを経営資産として扱い、全体最適を見据えた中期的な計画(3〜5年程度)を描いていくことが重要です。

「ゆず」にたとえると見えてくる、日本企業のデータ活用の課題

ここで、少しやわらかい例えとして「ゆず」を使って考えてみましょう。ゆずは、そのまま食べるだけでなく、果汁、皮、香りなど、さまざまな形で活用できる果物です。

企業のデータも、ゆずとよく似ています。

  • そのままでは価値が限定的:収集しただけの生データは、「ゆずを収穫して箱に詰めた状態」に近く、そのままでは価値が十分に引き出されていません。
  • 加工してこそ価値が高まる:果汁を飲料に、皮を調味料やお菓子に、香りをアロマや化粧品に使うように、データも加工・分析することで初めて高い価値が生まれます。
  • 保管と品質管理が重要:ゆずも保管方法が悪いと傷んでしまうように、データも管理が甘いと欠損や矛盾が増え、使いものにならなくなります。
  • レシピ(戦略)が必要:どのような商品に仕立てるのか、どの市場に出すのかという「レシピ」がなければ、せっかくのゆずも活かしきれません。データ戦略も同じで、「どのデータを、どのように、どんなビジネス価値につなげるのか」という設計が不可欠です。

今の日本企業は、たくさんの「ゆず(データ)」を持ちながら、箱に入れたまま置いてしまっている状態だと言えるかもしれません。
ガートナーの調査が示す「2.4%」という数字は、「収穫したゆずを、きちんと商品に仕立てて売上につなげられている企業」が、まだごく一部に限られていることを物語っています。

これからの日本企業に求められる視点

AIやデータの活用は、もはや一部の先進企業だけの話ではなく、多くの企業にとって生き残りに直結するテーマになりつつあります。
そのなかで、東大・江崎教授が強調する「正しいデータ戦略」の2つの要素――

  • データを経営資産として明確に位置づけること
  • 全体最適を見据えたデータ基盤組織体制を両輪で整えること

――は、日本企業が「2.4%」から抜け出し、真にデータを活かす組織に変わっていくための重要な指針と言えるでしょう。
分散されたデータを一元的に扱える基盤を整え、そのうえで、現場と経営が同じ方向を向いてデータを活用していく。この地道な取り組みこそが、「ゆず」のように多彩な可能性を秘めたデータの価値を引き出すカギとなります。

参考元