福岡市も「おこめ券」配布見送りへ 広がる紙クーポンへの疑問とデジタル化の波

全国で物価高対策の一つとして注目されている「おこめ券(お米券)」をめぐり、福岡市など大都市が配布を行わない方針を固めたことが話題になっています。紙のクーポンにこだわる国の方針と、自治体や有識者からの批判が対立する構図がはっきりしてきました。

この記事では、福岡市を中心に、「おこめ券」をめぐる最新の動きと背景、そして市民生活への影響を、できるだけわかりやすく整理してお伝えします。

「おこめ券」とは?物価高対策の切り札として登場

まず、「おこめ券」とはどのような仕組みなのでしょうか。

  • 全国共通おこめ券は、全国米穀販売事業共済協同組合などが発行する、お米の購入に使える紙の金券です。
  • 1枚あたり440円分(税込)として利用でき、お米を扱うスーパーや米穀店など、対応店舗のレジで提示して支払いに充てることができます。
  • ただし、おつりは出ない仕組みで、利用時には券面額を意識して買い物をする必要があります。

政府は、急激な物価高の中で、特に食料品の負担が増している世帯を支援する目的で、自治体向けの「重点支援地方交付金」の中に、「おこめ券」などの食料支援に使える枠を設けました。 これにより、自治体は現金給付だけでなく、「おこめ券」を配布するかどうかを選べるようになりました。

福岡市と北九州市は「おこめ券配布せず」の方針

そうした中で、福岡県内の大都市である福岡市と北九州市は、いずれも「おこめ券は配布しない」方針を決めています。

NHKは、「物価高騰による食料品支援の手段のひとつにあげられている『お米券』について、福岡市と北九州市は配布を行わない方針を固めた」と伝えています。

特に北九州市は、理由をかなりはっきりと公表しています。

  • 北九州市の武内市長は、「おこめ券は時間がかかる・手数料がかさむ。市民に届く額が相対的に低くなることから採用しなかった」と説明しています。
  • そのうえで、市としては、物価高対策としてプレミアム商品券の発行支援や、住民税非課税世帯への現金給付など、別の形で支援を行う考えを示しています。

つまり、福岡県内でも、「おこめ券」を活用する自治体と、あえて使わない自治体がはっきり分かれはじめている状況と言えます。

福岡県内では太宰府市などが「おこめ券」を配布

一方で、同じ福岡県内でも、「おこめ券」を積極的に活用している自治体もあります。

  • 福岡県太宰府市は、物価高対策として、高校生世代以下を対象に、1人あたり2640円分の「おこめ券」を配布しています。
  • 対象は、10月1日現在で0歳から高校生世代(2007年4月2日生まれまで)の市民で、440円分の「おこめギフト券」6枚が、申請不要で順次郵送されています。
  • この事業は、子育て世帯の家計支援とともに、お米を主食とする食習慣を促すことも狙いとされ、政府の交付金を活用して実施されています。

このように、同じ福岡県内でも、福岡市・北九州市のように配布を見送る自治体と、太宰府市のように子育て世帯向けに配る自治体とで、対応が分かれているのが現状です。

交野市長が指摘「市内で使える店舗は10店舗だけ」

福岡市以外の自治体からも、「おこめ券」の使い勝手の悪さを指摘する声が出ています。

大阪府交野市の市長は、「交野市内で使える店舗はたったの10店舗です」と発言し、市としておこめ券を配布しない方針を改めて表明しました(デイリースポーツ報道による要旨)。

おこめ券そのものは「全国共通」とされているものの、実際に使える店舗の数や立地は地域によって偏りがあるのが実情です。

  • 米穀店や一部のスーパーなど、加盟している店舗でのみ利用可能
  • 車がない高齢者世帯などにとっては、最寄りの利用可能店舗が遠い場合もある
  • おつりが出ないため、買い物の自由度が低いという指摘もある

その結果、「本当に生活に困っている人ほど、自由度の高い現金や汎用的な商品券のほうが使いやすい」という声が、自治体現場から上がっている形です。

ひろゆき氏「デジタル化を拒否する政治家はだいたい利権」

こうした中で、ネット上で大きな反響を呼んでいるのが、評論家のひろゆき氏の発言です。

報道によると、ひろゆき氏は、鈴木農相が紙のお米券にこだわる理由について、「デジタル化を拒否する政治家はだいたい利権」とする趣旨のコメントをしています(スポニチアネックス報道の要旨)。

ここで指摘されているのは、次のような点です。

  • 本来であれば、マイナンバーカード電子マネー・ポイントなど、デジタル技術を活用することで、迅速かつ低コストに給付を行うことも可能ではないかという問題意識
  • それにもかかわらず、紙のクーポン特定業界が関わる仕組みにこだわる背景には、「利権」が関わっているのではないかという疑念

もちろん、これはひろゆき氏の見解であり、政府や関係者が「利権」を公式に認めているわけではありません。ただ、この発言がこれだけ注目されたのは、多くの人が「なぜ今、紙のクーポンなのか」という疑問を共有しているからだとも言えます。

「おこめ券」をめぐる利点と問題点

ここで、「おこめ券」をめぐるメリットとデメリットを、わかりやすく整理してみます。

メリット

  • 食料支援に特化しているため、確実に「お米」という生活必需品の購入に充てられる。
  • 現金給付に比べて、「別の用途に使われてしまう」ことへの懸念が少ない。
  • お米の消費を促すことで、国内の米農家や関連産業の支援にもつながるとされる。

デメリット

  • 自治体が配布する際、印刷・発送・事務処理などのコストがかさみ、北九州市が指摘したように、市民に届く実質的な支援額が目減りするおそれがある。
  • 利用できる店舗が限られており、交野市長が述べたように、市内の利用可能店舗がごく少数にとどまる例もある。
  • 高齢者や子育て世帯にとって、券の保管・紛失リスクがあり、また「おつりが出ない」ため、使い切りが難しいという声もある。
  • デジタル給付に比べて、給付までの時間がかかることが多く、急いで支援が必要な状況に向かない場合がある。

こうした点を踏まえると、福岡市や北九州市のような大都市ほど、「コストと効果のバランス」を重視して、おこめ券以外の手段を選択する傾向が強まっていると考えられます。

経済対策としての「おこめ券」 配布しない自治体も増加

各地の報道や自治体の発表を見ても、「おこめ券」は政府の経済対策メニューの一つとして位置づけられている一方で、実際には配布しない自治体も少なくない状況です。

  • 北九州市は、「おこめ券は時間がかかる・手数料がかさむ」として採用せず、商品券や現金給付を選択。
  • 福岡市も、物価高騰による食料支援策として、おこめ券の配布は行わない方針を固めました。
  • 一方で、太宰府市のように、子育て世帯支援と食習慣づくりの両立を目指して導入する自治体もあります。

また、「おこめ券」を配布する場合でも、事務コストや業者への手数料が発生するため、「その分を現金給付に回したほうが、市民にとってはメリットが大きいのではないか」という議論も続いています。

福岡市民にとって何が変わるのか

では、福岡市民にとって、「おこめ券を配布しない」という方針は、どのような意味を持つのでしょうか。

  • まず、福岡市では、おこめ券そのものは届かないため、「おこめ券をどこで使えるか」といった心配をする必要はありません。
  • 一方で、市としては、物価高対策として、別の形の支援(商品券や現金など)を検討・実施していくと見られます。
  • 市民としては、「なぜおこめ券ではないのか」という点について、事務コストや手数料、デジタル化との兼ね合いを理解しておくと、今後の議論を追いやすくなります。

特に、福岡市のような大都市では、対象者数が非常に多いため、少しの事務コストの差が、総額では大きな金額になることがあります。その意味で、北九州市長が述べた「市民に届く額が相対的に低くなる」という指摘は、福岡市にもあてはまる問題意識だと言えるでしょう。

紙かデジタルか――これからの公的支援のあり方

今回の「おこめ券」をめぐる議論は、単に「お米を配るかどうか」という話にとどまらず、日本の公的支援をこれからどう設計していくのかという大きなテーマにもつながっています。

  • 紙のクーポンは、目で見てわかりやすく、特定の目的に使ってもらいやすい一方で、事務コストや利便性の面で課題があります。
  • デジタル給付は、うまく設計すれば迅速・低コスト・高い自由度を実現できますが、デジタル機器に不慣れな人への対応や、セキュリティ・システムトラブルなど、別の問題も抱えています。
  • ひろゆき氏の「デジタル化を拒否する政治家はだいたい利権」という発言は、こうしたデジタル移行の遅れに対する苛立ちや、既存の仕組みによる利益配分構造への疑念を象徴していると言えます。

福岡市を含む多くの自治体は、こうした課題をにらみながら、限られた財源をどう配分し、市民にとって最も使いやすい形で支援を届けるかを模索している段階です。

今後、物価高が長期化する可能性も指摘される中で、「おこめ券」をめぐる今回の議論は、生活者目線の支援とは何か、そしてデジタル時代の公的給付はどうあるべきかを考えるきっかけになりそうです。

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