地域金融とAIの融合が加速

九州地域を代表する金融グループであるふくおかフィナンシャルグループ(FFG)が、生成AIを活用した業務変革に本格的に取り組んでいます。福岡県、熊本県、長崎県を主な営業エリアとし、福岡銀行、熊本銀行、十八親和銀行、福岡中央銀行、そして国内初のデジタルバンク「みんなの銀行」を傘下に持つ同グループは、少子高齢化や大都市圏への人口集中という地域課題に向き合いながら、AIを活用した新しい金融サービスの実現を目指しています。

この取り組みの背景には、持続可能な地域社会への貢献と、より生産性の高い働き方の実現という明確な目標があります。地方銀行として地域に根差したサービスを提供し続けるためには、デジタル技術を効果的に活用し、限られた人的リソースを最大限に活用することが不可欠となっています。

オープンAIジャパンとの連携による生成AI活用

FFGのAI戦略において注目されるのが、オープンAIジャパンとの協力関係です。オープンAIジャパンの長崎忠雄社長は、生成AIによる業務変革支援に積極的に取り組んでおり、金融業界における生成AI活用の可能性を広げています。

FFGは最初のステップとして、「融資稟議書作成AI」の実証実験を実施しました。融資業務は銀行の基幹業務であり、稟議書の作成には専門知識と多くの時間が必要とされてきました。生成AIを活用することで、この作業の効率化と品質向上を同時に実現しようという試みです。

この実証実験は、DX共創パートナーであるIBMとともに進められており、FFG DX推進本部の副本部長である武重太郎氏が主導しています。金融機関の基幹業務に生成AIを導入するという挑戦は、単なる業務効率化にとどまらず、従業員がより付加価値の高い業務に集中できる環境を作り出すことを目指しています。

共通AI基盤の構築による全社展開

FFGのAI活用戦略の特徴は、個別のAIアプリケーションの開発にとどまらず、システム全体の最適化を見据えた共通AI基盤の整備を進めている点にあります。この基盤は、グループ全体で効率的にAI技術を活用するための土台となるものです。

具体的には、生成AI領域の技術支援、データ・マネジメント、全社アーキテクチャー統制という3つの柱で構成されています。共通AIプラットフォームの上で各種AIサービスを展開することで、開発の重複を避け、セキュリティやガバナンスを一元的に管理できる体制を構築しています。

AI技術の進展やAIに対する社会の受容性が高まる中、今後さまざまなバリューチェーンやプロセスにAIが組み込まれ、産業構造や事業構造が大きく転換する可能性があります。FFGはこの変化を見据え、柔軟に対応できる基盤作りを進めているのです。

クラウド統制基盤とDX戦略の推進

FFGのDX戦略は、AI活用だけでなく、クラウドインフラの整備とも密接に連動しています。IT統括部デジタル基盤グループは、FFG全社の共通基盤となる「クラウド統制基盤」を整備し、DXへのチャレンジを支える新システムの稼働と、既存システムのモダン化とクラウド移行を積極的に進めています。

第7次中期経営計画(2022年4月~2025年3月)におけるDX戦略では、デジタルを起点とする新しい顧客サービスの実現と、銀行業務をはじめとする既存ビジネスのサービス高度化を目指してきました。2023年には、新たなデジタルチャネルとして「個人向けバンキングアプリ」と「事業者向けポータル」のサービスを開始し、顧客接点のデジタル化を推進しています。

このクラウド基盤の整備により、New Relic InfrastructureやLogs、Synthetics、Dashboardといった監視・管理ツールを活用し、システムの安定稼働と迅速な問題解決を実現しています。クラウドネイティブな環境を整えることで、AI技術の導入や新サービスの展開をより迅速に行える体制が整いつつあります。

地域企業との連携とエコシステムの形成

FFGのDX推進は、グループ内部の取り組みにとどまりません。地域企業やスタートアップとの交流イベント「FFGみらいの会議」を開催し、地域全体のデジタル化とイノベーション創出を支援しています。このイベントには株式会社Vなど、さまざまな企業が参加し、新しいビジネスの可能性を探る場となっています。

地方銀行として地域経済の中核を担うFFGにとって、自社のDX推進だけでなく、取引先企業や地域のスタートアップ企業のデジタル化を支援することも重要な使命です。金融サービスの提供にとどまらず、デジタル技術を活用した地域課題の解決や新しいビジネスモデルの創出を後押しすることで、地域全体の持続的な成長に貢献しようとしています。

新たな長期戦略と第8次中期経営計画

2025年4月、FFGは新たな理念体系、長期戦略、そして第8次中期経営計画をスタートさせました。この一連の戦略では、これまでのDX推進の成果を基盤としながら、さらなる進化を目指しています。

長期戦略において、AI技術は重要な位置づけとなっています。生成AIをはじめとする先進的なAI技術を業務のさまざまな場面に組み込み、顧客サービスの向上と業務効率化の両立を図ります。また、従業員の働き方改革にも貢献し、より創造的で付加価値の高い業務に人材を配置できる環境を整えていく方針です。

金融業界におけるAI活用の先駆的事例として

FFGの取り組みは、地方金融機関におけるAI活用の先駆的な事例として注目されています。大手都市銀行と比較して人的リソースが限られる地方銀行にとって、AI技術の効果的な活用は競争力を維持し、質の高いサービスを提供し続けるための重要な要素となっています。

特に融資業務のような専門性の高い分野における生成AI活用は、業界全体に大きな影響を与える可能性があります。稟議書作成の効率化は、融資審査のスピードアップにつながり、中小企業などへの迅速な資金供給を可能にします。これは地域経済の活性化に直結する取り組みといえるでしょう。

今後の展望と課題

FFGのAI活用戦略は、まだ始まったばかりです。融資稟議書作成AIの実証実験の成果を踏まえ、今後は他の業務領域へもAI活用を拡大していく計画です。顧客対応、リスク管理、マーケティング、内部監査など、銀行業務の多岐にわたる分野でAIの可能性が検討されています。

一方で、金融機関におけるAI活用には慎重な配慮も必要です。個人情報の保護、公平性の確保、説明責任の明確化など、AIガバナンスの確立が不可欠となります。FFGは共通AI基盤の整備を通じて、これらの課題にも体系的に取り組んでいく姿勢を示しています。

オープンAIジャパンとの協力関係や、IBMとのDX共創パートナーシップは、最新のAI技術と金融業務の専門知識を融合させる上で重要な役割を果たしています。技術パートナーとの緊密な連携により、FFGは常に最新のAI動向を把握し、実務への応用を検討できる体制を構築しています。

地域金融機関として、地域社会の持続的な発展に貢献しながら、デジタル技術を活用した新しい金融サービスを創出していく。FFGのこの取り組みは、日本の地方銀行が直面する共通の課題に対する一つの解答として、今後も注目を集めていくことでしょう。AI技術と人の知恵を組み合わせることで、より良い地域社会の実現を目指すFFGの挑戦は、まだ始まったばかりです。

参考元