富士フイルム、米国にバイオ医薬品最大級受託製造拠点を開設 ― グローバル戦略の核心へ

2025年9月24日、富士フイルム株式会社の子会社であるFUJIFILM Biotechnologiesが、米国ノースカロライナ州ホーリースプリングス市において、大型のバイオ医薬品製造工場を開設し、現地で開所式を行いました。この新工場は、世界的にも有数の生産能力を持つ、北米最大級のバイオ医薬品開発・製造受託施設(CDMO)です。これにより、富士フイルムは「バイオ薬のTSMC」をめざすとともに、グローバルなバイオ医薬品製造の中核拠点として大きな一歩を踏み出しました。
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1. バイオ医薬品業界のグローバル競争と富士フイルムの戦略

バイオ医薬品は、抗体医薬品、遺伝子組換えタンパク医薬品、遺伝子治療薬、ワクチンなど、最先端の医療を支える存在です。しかし、開発・製造には膨大な設備投資と高度な技術が必要であり、多くの製薬企業が専門の受託製造企業(CDMO)に業務を委託する流れが加速しています。
このCDMO分野で、半導体の受託製造大手TSMCになぞらえ、「バイオ薬のTSMC」を目指すのが富士フイルムです。

  • グローバル製薬会社のニーズの拡大:北米を中心に高品質・高効率な原薬供給への需要が急増。
  • 最先端生産技術・生産能力の拡充:大型化・自動化・データ活用による効率アップ。
  • 米国市場の優位性:バイオ医薬市場規模が世界最大級、高関税政策による国内生産加速の追い風。

2. 米国ホーリースプリングス新工場の全貌

新工場は、総建設費約4800億円を投じた北米CDMO最大規模の施設で、第一段階として「2万リットル動物細胞培養タンク8基」が年内に本格稼働を開始します。さらに2028年には同規模タンク8基を追加、世界でも屈指の原薬生産能力へと進化していきます。

  • 稼働開始日:2025年9月24日(現地時間 開所式)
  • 投資総額:約4800億円
  • 主要設備:20,000リットル大型動物細胞培養タンク×8(一次)、さらに8基増設予定(2028年)
  • 主な受託範囲:抗体医薬品、遺伝子組換えタンパク医薬品、遺伝子治療薬、ワクチンなど
  • 巨大な原薬製造能力:北米におけるバイオ医薬品原薬の生産拠点として最大級へ

ここで製造されるバイオ医薬品の原薬は、米国内外の製薬大手に提供されることで、患者さんの治療選択肢拡大・新薬開発の加速につながります。

3. CDMO分野で際立つ富士フイルムの技術力とサービス

富士フイルムグループのバイオ医薬品開発・製造受託会社は、30年以上の経験を活かし、以下のような統合型のサービスをワンストップで提供しています。

  • 細胞株開発:高生産性かつ安定した細胞株作成、独自技術により高効率化。
  • プロセス開発:スケールアップ試験、品質保証のノウハウ。
  • 治験薬・本製品の一貫製造:原薬製造から最終製品化まで、規模を問わず柔軟に対応。
  • コンプライアンス・品質保証:米国・欧州・日本の規制対応とグローバルなサプライチェーン構築。

さらに、グループ会社の富士フイルム富山化学でも2027年に新たなバイオCDMO拠点が稼働予定、デンマーク拠点の増強も進めることで、全世界での受託体制を強化しています。

4. 米国進出の背景と意義 ― 高関税政策も追い風に

米国市場におけるバイオ医薬品の需要増大および高関税政策の影響により、現地生産の重要性が増しています。 富士フイルムの新工場は、現地サプライチェーンの強化と、米国内外の製薬企業のニーズに対応するための大規模インフラ整備です。

  • 地政学的リスク分散:サプライチェーン混乱や世界的な医薬品需要の変動に対するレジリエンス強化
  • 現地雇用創出・地域活性化:ノースカロライナ州を中心に新たな高度人材雇用、多層的な波及効果

5. TSMCモデルを目指すバイオCDMO戦略と今後の展望

富士フイルムは「バイオ薬のTSMC」と呼ばれる通り、委託製造における規格化・高品質生産、そしてIT・AIなど先端技術の導入を進めています。
TSMC(台湾セミコンダクター大手)が世界中のIT企業から製造委託を受けているように、多様な製薬会社のパートナーとして各社の医薬品開発・生産を支えるプラットフォーム企業を志向しています。

  • 最先端設備×デジタル化: 工場の自動化、AIによる工程最適化、異常検知などで効率と信頼性を最大化。
  • ワンストップ受託モデル: 開発初期から治験・商業生産まで全工程を一貫受託し、リードタイムの短縮を実現。
  • 積極的な海外展開: 米国・デンマーク・日本など多拠点体制をさらに拡大中。

バイオ医薬品市場は今後も拡大が予想され、複雑かつ高機能な製品開発が加速しています。富士フイルムは今回の米国大型工場を軸に、世界のバイオ医薬品開発をさらに加速・効率化し、競争力を強化する方針です。

6. 医薬品業界・社会へのインパクト

新工場が生み出すのは単なる生産量の拡大にとどまりません。革新的な医薬品の普及促進や安定供給、安全性・品質水準の向上、地域社会の雇用・発展など、幅広いプラス効果が期待されています。

  • 新薬開発スピードアップ:治験薬から商用製品まで効率的な生産体制により、医薬品の上市期間短縮。
  • グローバル医薬品供給の安定化:パンデミックや地政学的リスクにも強いサプライチェーン構築。
  • イノベーション拠点としての役割:高付加価値分野での技術革新・新技術導入が世界へ波及。

7. 取材協力・関係者の声

富士フイルムの現地関係者は
「米国新工場の稼働開始は、グローバルCDMO戦略の集大成。米国をはじめ世界中のお客様の信頼に応えるため、最先端の技術と体制を活かして新たな価値を提供していきます」
とコメントしています。
また、ノースカロライナ州ホーリースプリングス市の行政関係者も
「地域経済の活性化はもとより、医薬品の安定供給による地域社会への安心感も大きい」と歓迎の声を寄せています。

8. 今後の見通し ― 世界の医薬品供給拠点へ

新工場のフル稼働後は、より多くのバイオ医薬品原薬を世界各地に安定供給できる基盤が整います。また、AIやデータサイエンスの活用で生産性・品質をさらに高め、グローバルな「CDMOプラットフォーム」として先駆的な役割を担い続ける計画です。
今後、富士フイルムは世界中のパートナーや医療機関と連携し、革新的医薬品の開発・普及、医療現場への貢献をますます拡大していくでしょう。

まとめ

富士フイルムのノースカロライナ新工場稼働は、バイオ医薬品生産の未来像を描く壮大なプロジェクトです。グローバルな受託製造ネットワークの中核として、日本発の技術力・品質管理が世界中の患者さんの命と健康を支えています。今後、バイオ医薬品業界における「TSMCモデル」の実現を目指し、富士フイルムの挑戦はますます注目を集めることとなるでしょう。

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