ファイントゥデイ、2度目の上場延期――話題の「ツバキ」ブランドが直面する新たな局面
2025年10月20日、パーソナルケアブランド「ツバキ」で知られるファイントゥデイホールディングス株式会社(以下、ファイントゥデイHD)が、東京証券取引所スタンダード市場への新規上場を再び延期することを発表しました。これは2024年12月に続く2度目の延期となります。この決定を受け、東京証券取引所も同社の新規上場承認を正式に取り消しました。日本のビューティー&パーソナルケア業界で多くの注目を集めていた上場案件だけに、関係者や投資家、関心を持つ消費者の間に大きな波紋が広がっています。
上場延期の理由と発表内容
- ファイントゥデイHDは、2025年11月5日に予定していた株式上場を延期すると発表。
- 昨年12月に続いて2回目の延期となる。
- 延期の理由は「昨今の株式市場の動向などを総合的に勘案した結果」であり、今後の手続き再開は未定。
- これに伴い、予定していた募集株式の発行および株式売出しも中止された。
- 東証は同日、ファイントゥデイHDの新規上場承認を正式に取り消したと発表。
この度の延期について、公式発表では「市場環境の不安定さ」など株式市場動向が大きな要因であると説明されています。特に近年のマーケットでは地政学リスクや金利動向、日本企業全体の評価など外部要因による不確実性が高まり、身を引く企業も少なくありません。ファイントゥデイHDも株主および将来的な企業価値向上の観点から慎重な判断を下した形となります。
ファイントゥデイの事業概要とブランド展開
ファイントゥデイHDは、2021年5月に設立され、資生堂のパーソナルケア事業を引き継ぐ形で「ファイントゥデイ資生堂」としてスタートしました。その後、株主構成変更や事業再編を経て2023年1月から現社名となりました。現在はCVCキャピタルパートナーズ(イギリス系投資ファンド)と資生堂が筆頭株主となっています。
- 代表的なヘアケアブランド:TSUBAKI(ツバキ)
- スキンケアブランド:専科(SENKA)
- メンズブランド:UNO(ウーノ)
- 主な販売地域:日本を含むアジア11カ国・地域
- 事業運営は、研究開発から生産・マーケティング・販売まで一体で行い、高い品質管理とスピードを特色としています。
特に「ツバキ」ブランドは、優れた香りや保湿・補修成分で国内外の消費者から高く評価されており、アジア圏での売上拡大に大きく貢献しています。また、資生堂から引き継いだ既存ファンの厚い支持も同社の事業基盤を支えています。
上場予定と業績の見込み
- 当初は1581万8700株を公開する計画だった。
- 売出し価格は10月27日に決定予定だったが取り消しに。
- 2025年12月期(IFRS)の業績見通しでは、
- 売上高:前年比5.5%増の1133億円
- 営業利益:同6.9%減の136億円
- 純利益:同679.1%増の77億円
この数字からも分かる通り、売上高は好調ながら、営業利益はやや減少、しかし純利益は大幅な伸長が見込まれていました。これは経営構造改革や一時的なコスト圧縮、非経常項目の影響などが予想されており、経営基盤の再構築途上にあることが分かります。
再上場の可能性と関係者の声
ファイントゥデイHDは「今後の上場手続き再開は市場動向を見極めた上で判断する方針」を表明し、明確な再上場時期については未定としています。一方、業界関係者からは以下のような意見や見方が浮かび上がっています。
- 多額の資金調達が予定されていたため、上場延期が今後の成長戦略にどの程度影響するか見通せない。
- コロナ禍以降のマクロ環境の不透明さ、日米欧の金融政策の違いが市場全体のリスクとなっている。
- アジアでのブランド拡大や新規研究投資に充てる資金計画の見直しも避けられない可能性。
- 一方でブランド力自体は依然として高く、長期的には再挑戦に期待する向きも多い。
特に消費者や小売業関係者の間では、「ツバキ」や「専科」「ウーノ」といったブランドが今後も現行の品質と体制で供給・展開できるかについて関心が高まっています。
資生堂との関係と製造体制の今
ファイントゥデイHDは2021年の創設からしばらく、資生堂のIT・ロジスティクス・人材マネジメントシステムを部分的に活用してきました。2022年には資生堂の生産事業取得も実現し、開発から生産・流通・販売まで独自のサプライチェーンを構築しつつあります。これにより、研究開発力や商品クオリティ、サステナビリティ対応がさらに高まるとファイントゥデイHD自身は説明しています。
- 資生堂グループ時代からの人員・ノウハウ流用により、「日本的品質」に根差したものづくりが継続。
- 今後、アジア市場での現地開発・現地生産モデル強化が加速する可能性。
- サステナビリティ、クルエルティフリー対応の新製品開発も計画中。
消費者への影響と販売現場の声
上場延期自体が直接、消費者の手元に届く商品の品質や供給体制へ即時的な影響を及ぼすものではありませんが、一部小売店や流通業界では「経営の先行きに多少なりとも不安を感じる」との声も出ています。
- 短期的には商品展開や価格設定の変更はない見込み。
- 中長期的には、「新ブランド投入」や「季節限定品の生産規模調整」など、マーケティング戦略で慎重な舵取りを余儀なくされる可能性。
- 大手ドラッグストア担当者:「ツバキや専科のファンが多く、ブランド価値を守りながら安定供給してほしい」
- 消費者:「新しい髪質改善ラインやボディケア新商品の展開に期待しているので、今後に注目したい」
業界全体の文脈で見るファイントゥデイの意義
2020年代以降、化粧品・パーソナルケア業界では企業の再編や新規上場が活発ですが、世界的な景気変動やサステナビリティ重視、新興市場拡大など外部環境の激変が大きな挑戦となっています。ファイントゥデイHDの上場延期もこうした時代背景の一環といえ、企業自体の強みやブランド資産を基盤にしつつ、柔軟な資本政策が今後一層求められるでしょう。
まとめ――ファイントゥデイの今後に期待
今回の上場延期および東証の承認取り消しは同社にとって大きな転機となりましたが、既存ブランドの強固なファンベースやアジア圏への事業拡大など、ポジティブな要素も多く残されています。新規上場を通じた資金調達や成長戦略の再考が課題となるものの、消費者やパートナー企業からは今後の安定したブランド展開と、「日本発の高品質ケア製品」への期待が引き続き高まっています。ファイントゥデイHDが今後どのような道筋を描くのか、引き続き注目を集めることは間違いありません。