エミレーツ航空、機内でのモバイルバッテリー使用を全面禁止へ―リチウム電池の安全対策が強化される背景
はじめに
エミレーツ航空は2025年8月8日に発表した公式声明において、「2025年10月1日より機内でのあらゆる種類のモバイルバッテリー使用を全面的に禁止する」としました。この措置は、近年増加しているリチウム電池の安全性に関する懸念や事故報告を受けて行われます。本記事では、リチウムイオンバッテリーがもたらすリスク、米当局による実証試験の内容、そしてエミレーツ航空を含む各国当局の対応について詳しく解説します。
ほぼすべての乗客が持ち込む「リチウム電池」~熱暴走のリスクとは?~
モバイル機器の普及に伴い、スマートフォンやタブレット、ノートパソコン、カメラなどに使われるリチウムイオン電池は、いまや飛行機利用者のほとんどが所持しています。しかし、このリチウムイオン電池は、その高いエネルギー密度ゆえに「熱暴走」と呼ばれる危険な現象を起こすことがあります。熱暴走とは電池内部での異常発熱が連鎖的に進行し、最悪の場合発煙・発火や爆発に繋がる現象です。
米連邦航空局(FAA)など米当局は、近年の事故事例増加を受けリチウム電池熱暴走の実証試験を行い、万一の際、機内ではどのような被害が広がるかを評価しています。その報告では、発火時には有毒ガスの発生や座席周辺の高温化、炎が天井近くまで瞬時に達する危険性など、消火が極めて難しいことが明らかになっています。
モバイルバッテリー規制強化の経緯
- モバイルバッテリー(パワーバンク)は、スマホやPCなど電子機器の充電に使われますが、小型ゆえにカバンやポケットに収容でき、取り扱いも容易です。
- しかしながら、近年は電池の品質不良や改造品、粗悪品による発火・爆発事故が世界的に報告されています。
- 従来の航空会社では「100Wh(ワット時)未満の持ち込み」「一人あたり複数個数制限」などが一般的なガイドラインでしたが、事故リスク増大と規制強化の動きが加速していました。
エミレーツ航空の新安全規則のポイント(2025年10月1日からの全面改定)
2025年10月1日以降、エミレーツ航空を利用する際は、次の点に特にご注意ください。
- 機内でのあらゆる種類のモバイルバッテリー(パワーバンク)使用が全面禁止
- モバイルバッテリーの持ち込みは100Wh未満のもの1つまで
- 機内でモバイルバッテリーによる電子機器充電は禁止
- 機内電源を使ってモバイルバッテリーを充電することも禁止
- 持ち込むバッテリーには容量(Wh)情報の明記が必須
- モバイルバッテリーは頭上の棚には収納不可。座席ポケットまたは前席下のバッグ内に必ず収納
- モバイルバッテリーの受託手荷物(預け入れ荷物)への収納は禁止(以前からの制限を継続)
従来は「一部条件による使用可」でしたが、今後エミレーツ航空では原則持ち込むのみで、使用は一切NGとなります。
制度変更の背景と国際的な動き
2020年代に入り、リチウムイオン電池搭載製品の発火・爆発事故が40件以上世界で報告されています。これを受け、
米運輸保安庁や欧州航空安全庁(EASA)、そして日本の国土交通省も航空機内での電池持ち込み・使用に関するガイドラインを随時アップデート。特に日本では2025年3月から補助バッテリー(パワーバンク)に関する安全管理対策強化策が施行されています。
国際民間航空機関(ICAO)の勧告やIATA(国際航空運送協会)の運送危険物規定でも、リチウム電池運搬条件の厳格化が進められています。エミレーツ航空の今回の措置も世界的な動きに歩調を合わせるものといえるでしょう。
日本の新たな補助バッテリー機内管理対策
- 2025年3月から施行中の新ルールに、2025年9月1日から一部追加補完規定が実施される予定
- 国際基準に準拠し、短絡(ショート)防止のため、バッテリー端子をビニール袋などで個別包装することが推奨された
- 国産メーカー製でも、端子部がむき出しのものは収納方法に注意喚起
これはバッテリー端子が他の金属と触れ、「短絡(ショート)」による異常発熱・発火を防ぐための仕組みです。
機内リチウム電池事故がもたらすリスクとその現場対応
仮に機内でリチウム電池の熱暴走事故が起これば、消火作業は極めて困難です。空調による煙・ガスの拡散、限られた消火器材、乗員乗客の密集状態が、被害の拡大要因となり得ます。FAAの実証実験では、消火前後で座席やカーペットの一部が全損し、近辺の機器にも深刻なダメージが及ぶことが再現されています。
また、煙が客室全体に広がれば、パニックや二次被害も予想されるため、予防こそが最重要との結論が出されています。
多くの航空会社で広がる新ルール
エミレーツ航空に加え、他の多くの国際航空会社も同様のルール改訂を進めています。特に長距離や超長距離路線を運航する航空会社ほど規制が厳格化され、機内電源での充電を推進・代替とし、持ち込むバッテリーの個数・容量・包装状態の提示を義務付ける傾向が高まっています。
利用者が注意すべき点―安心・安全な空の旅のために
- 持ち込めるモバイルバッテリーは容量100Wh未満かつ1人1台まで。高出力モデルの多くは持ち込み不可なのでご注意ください。
- Wh(ワット時)表示のないバッテリーは原則不可です(必ずラベル等で要確認)。
- 端子に絶縁カバー、またはビニール袋などで保護して携行すること。
- バッテリー内蔵機器(ラップトップ等)も利用可能ですが、モバイルバッテリー経由の充電は不可。
- 荷物からバッテリーを発見された場合、最悪持ち込み拒否や別途廃棄等、現地空港でトラブルになる場合も。
- 各航空会社ごとに条件が異なるため、事前に公式サイト等で最新情報の確認を厳守。
最後に:エミレーツ航空の決断が示す今後の航空安全のあり方
エミレーツ航空によるモバイルバッテリーの機内使用全面禁止は、乗客全員の安全確保と、数々の悲惨な事故事例を未然に防ぐ観点から、大変重要な一歩です。現代社会において「どこでも充電」は便利ですが、一方でその利便性を支えるリチウムイオン電池の持つリスクを正しく認識しなければなりません。
各国の航空規定と比べても厳しい部類となる今回の措置ですが、それだけ空の安全への危機感が高まっていることの証です。空港や機内での戸惑いを防ぐため、利用者一人一人が新ルールを理解し、協力することがいま何より求められています。安心・安全な空の旅のため、どうぞご理解とご協力をお願いいたします。