シンガポール大手銀DBS、イーサリアム上で「トークン化仕組債」提供へ

はじめに:DBS銀行が暗号資産市場で新たな一歩

シンガポール最大手の銀行DBS銀行が、暗号資産技術を活用した革新的な金融サービスへの取り組みを発表しました。2025年8月21日、同銀行はイーサリアム(Ethereum)のパブリックブロックチェーン上で「仕組債(ストラクチャードノート)」をトークン化し、適格投資家へ提供することを明らかにしています。この新たな商品は、従来の金融市場や資産運用のあり方を大きく変える可能性を持っています。

仕組債(ストラクチャードノート)とは?

仕組債(Structured Note)とは、一般的な債券に加えて、デリバティブ(派生金融商品)が組み合わさった金融商品です。株式市場、為替、クレジット、暗号資産などのさまざまな資産や指数の変動、さらには複数要素の条件に連動したリターン構造を持つのが特徴です。投資家は自身のリスク許容度や投資戦略に基づき、多様な仕組債から選択でき、より柔軟な資産運用が可能となります

イーサリアム上でのトークン化がもたらす変化

これまで仕組債への投資は、最低でも10万ドル以上のまとまった資金が必要とされていました。今回のトークン化によって最小投資額が1,000ドル単位へと大幅に引き下げられ、より多くの投資家が参加しやすくなります。この最小単位の小口化により個人投資家や中小規模の適格投資家のアクセス性が劇的に向上することになります。

加えて、従来は主に証券会社や金融機関が中心となっていた取引が、イーサリアムのようなパブリックブロックチェーンを介することで、透明性や取引の即時性が向上。投資家は24時間365日、どこからでも取引や資産の確認が可能になります。スマートコントラクトの活用により、条件付き取引や分配も自動化され、投資家の利便性、安心感も大幅に高まります

DBS銀行のトークン化仕組債の概要

  • 提供開始日:2025年8月21日発表
  • プラットフォーム:イーサリアム(Ethereum)パブリックチェーン
  • 対象:適格投資家・機関投資家
  • 取扱先:ADDX、DigiFT、HydraX等の認可デジタル取引プラットフォーム
  • 最小投資額:1,000ドル
  • 商品の種類:暗号資産連動型(第一弾は仮想通貨価格に紐づく参加型ノート)

既存金融とブロックチェーンの融合が生み出すメリット

DBS銀行は、これまでにもブロックチェーン技術の活用事例として、シンガポールの中央銀行である金融通貨庁(MAS)の主導する「プロジェクト・ガーディアン(Project Guardian)」に協力し、パーミッション型ブロックチェーンでの実証実験を進めてきました。ですが、今回は初めてパブリック(公開型)ブロックチェーンであるイーサリアム上で本格的な事業展開を開始する意義深い取り組みです。

この仕組債のトークン化によって、金融商品の流動性が格段に向上します。少額から分散的に投資ができるだけでなく、必要に応じて簡単に売却が可能となり、従来に比べて市場が活性化します。さらに、トークン化の大きなメリットは透明性の高さや取引過程の記録(トレーサビリティ)、従来型金融インフラとの相互運用(インターオペラビリティ)です。

トークン化された「仕組債」の仕組み・商品設計

今回発表された最初の仕組債商品は、仮想通貨の価格変動に連動する「参加型ノート(パーティシパティング・ノート)」です。このノートは仮想通貨の価格上昇時には価格上昇分が現金で支払われ、価格が下落した場合には個別に設定された損失の上限が設けられているため、投資家のリスクコントロールも考慮されています。

今後DBS銀行は、株式連動型やクレジット連動型といった金融商品ラインナップの拡大も予定しています。これにより、より多様な資産への分散投資や、投資戦略のバリエーション拡大が図られていく見通しです

ADDX、DigiFT、HydraXとは?

これらの第三者デジタル投資プラットフォームは、規制当局の認可を受けた安全かつ信頼できるデジタル証券取引所として機能しています。投資家や金融機関はプラットフォームを通じてトークン化された資産を売買、保有、管理することができます。こうしたプラットフォームがあることで、技術的に困難な取引や資産管理も容易になり、投資の裾野が広がることが期待されています。

トークン化仕組債とイーサリアムブロックチェーンの役割

DBSが採用するイーサリアムは、世界的に普及するパブリックブロックチェーンであり、スマートコントラクトと呼ばれる自動実行プログラムによって「条件付きの資金移動」「利払い」など複雑な金融取引も自律的かつ正確に管理できます。

また、独自のEVM互換パーミッション型ブロックチェーンや複数の決済インフラと組み合わせることで、リアルタイム決済や24時間365日の取引、複数通貨での対応など、より高性能な金融サービス基盤を構築しています

仕組債市場の成長と今後の展望

  • 2025年上半期には、DBSの該当取引額は10億ドルを超える
  • 第1四半期から第2四半期にかけて約60%増加
  • トークン化金融商品の拡大と取扱高の増加が予想される
  • 今後も多様な資産クラスへの対応が進む見込み

DBS銀行の発表によると、2025年上半期だけで対象となる仕組債・オプションの取引額は10億ドルを突破し、取引量は第2四半期だけで前四半期比約60%増という著しい成長を示しています

投資家にとってのメリットと注意点

  • 少額からの分散投資がしやすくなる
  • リアルタイムに資産状況を確認できる
  • スマートコントラクトの活用による高い透明性と安全性
  • 規制下での信頼性の高いプラットフォーム利用

一方で、暗号資産やブロックチェーン技術特有のリスク(価格変動リスクやセキュリティ、ブロックチェーン技術自体への依存など)もあるため、金融リテラシーを持ち、十分に商品や仕組みを理解したうえで利用することが大切です。

DBS銀行の今後の展望とイノベーション

今回の取り組みをきっかけに、既存の金融業界がさらにデジタル化し、伝統的な金融商品とブロックチェーンや暗号資産のハイブリッド型サービスが今後加速化していくことが予想されます。DBS銀行は、今後もさまざまな金融商品へのトークン化展開や、投資環境のさらなる改善、少額投資や分散投資ニーズへの対応を強化することで、デジタル資産時代をリードしていく姿勢を見せています。

まとめ

DBS銀行によるイーサリアム上での仕組債トークン化は、多くの投資家にとって金融市場への新たな扉を開くものです。ブロックチェーン技術活用による利便性、透明性、少額からの参加可能性といった特長が、今後の金融サービスにも大きなインパクトを与えることでしょう。 この動きにより、アジア、ひいては世界の金融業界におけるデジタルトランスフォーメーションが一層進展していくことが期待されます。

参考元