ローンオフェンダー対策研修の実際 ──警視庁公安部に集結する全国捜査員の現場
ローンオフェンダーという新たな脅威に対する警察の取り組みが全国的に加速しています。2025年10月7日、警視庁公安部は、北海道、福島、茨城、埼玉、千葉、静岡の6道県警から選抜された捜査員を迎え、単独でテロを計画・実行する個人犯罪“ローンオフェンダー”(LO)への対策実務研修の開始式を開きました。
ローンオフェンダーとは何か?
ローンオフェンダー(LO: Lone Offender)とは、組織に所属せず、単独でテロや重大犯罪の計画・実行をする人物を指します。従来のようなグループ型犯罪に比べ、事前の兆候を把握しにくく、未然防止が困難とされる現代の社会課題です。
なぜ今、ローンオフェンダー対策が重要なのか
- 世界的な情報発信ツール普及や社会の個人化に伴い、組織的犯罪に頼らない犯行のリスクが増加。
- 過去の国内外の事案で、1人で爆発物や銃器を用いた重大事件が複数発生。
- 事前兆候が表面化しにくく、従来の警察活動だけでは未然防止が困難。
公安部の実務研修、その全体像
今回開始された研修は1年間の長期プログラム。
北海道、福島、茨城、埼玉、千葉、静岡の各警察本部から、警部補や巡査部長の計6名が参加しています。これは日本の警察における「全国規模の人材育成」のためのモデルケースです。
研修の内容と実践の場
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情報収集・分析体制の強化:
爆発物の原料となる薬品の販売業者や、不動産事業者(管理物件での異常音や異臭の通報が集中するケース等)と連携する仕組みの構築。 -
兆候把握・通報体制:
個人による犯行では、日常の些細な行動変化や不審動向の把握がカギとなるため、研修では現場の捜査員が“兆候”を発見しやすくする情報網の拡充・訓練を重点化。 -
指導者育成:
単独犯対策のノウハウや手法を、各道県警の捜査員が持ち帰り、現地警察で指導的な役割を果たすことまでを視野に入れた人材育成プログラムです。
開始式の様子と公安部の思い
2025年10月7日朝、警視庁本部で実施された研修の開始式では、若田英公安部長が参加者を激励。「本研修の参加者が全国の架け橋となり、LO対策を牽引する存在となることを期待する」と訓示しました。
開始式には、参加捜査員のほか公安部幹部や関係部門の担当者らが出席。式後、「家族や地域の安全に寄与したい」「一人ひとりが“地域の目”となれるよう努力する」といった声も多く聞かれました。
現代社会とローンオフェンダー──具体的な脅威
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サイバー空間・SNSとの関連:
各地の単独犯は、動機形成や犯行アプローチでSNSなどのネット情報に影響を受けていることが多く、ネット動向の監視や分析体制の高度化が急務です。 -
市民や事業者の役割:
「見知らぬ人による大量の薬品購入」「管理物件での異常行動」なども、行政機関や民間事業者による早期通報が求められています。 -
社会的不安からの自衛意識:
日常的な違和感や些細な異変も、社会全体が素早く共有し合う空気を醸成していくことが、テロ未然防止のカギです。
全国波及への期待と今後の展開
この研修で得た知識や地域特性に即した対応策は、参加捜査員によって全国に伝播されます。今後の警察庁方針としても、ローンオフェンダー対策を新たな重点分野に掲げ、研修の継続実施・関係機関ネットワークの拡大に注力していく見込みです。
また、学校や自治体、民間事業者との連携・啓発活動もさらに広がるとみられ、社会全体での「見守り力」強化が問われます。
市民生活との接点 ──未然防止のためにできること
- 日々の生活での「異変を見過ごさない」姿勢が重要。
- 家族や知人の急激な行動変化、不審物の発見、SNS上の過激投稿などは、ためらわず警察や関係機関に通報する。
- 地域防災や見守りボランティア、自治会単位の啓発活動への参加も「未然防止力アップ」の第一歩。
警視庁への期待と、今後の課題
警視庁公安部が主導する本研修は、これからの犯罪抑止モデルとなる取り組みです。グループ型から個人型へと多様化・巧妙化する現代犯罪に立ち向かうためには、捜査員ひとりひとりの感度・判断力の底上げが求められます。
しかし、監視強化による個人情報保護や市民のプライバシーとのバランスをどう保つかという課題も残されています。今後は、社会全体の理解と協力を得ながら、未然防止と人権尊重の両立を目指す運用が求められるでしょう。
まとめ──安全安心な社会を目指して
ローンオフェンダーは決して遠い存在ではありません。個人が単独で重大犯罪を起こすリスクは、誰もが身近に感じる現代のリアルな脅威です。警察の取り組みだけでなく、市民一人ひとりの生活意識やコミュニティの連携が、真の未然防止を実現する大きな力となります。
警視庁公安部による今後の挑戦と、地域社会の連携に、ますますの注目が集まります。