中外製薬が迎える「わが世の春」―20年で売上高7倍の成長と今後の展望

2025年現在、日本の医薬品業界を牽引する中外製薬は、スイス大手製薬会社ロシュ傘下入りから20年という節目を迎えました。この20年で、中外製薬の売上高は7倍となり、世界の製薬業界でも存在感が高まっています。これからの数年で「わが世の春」を謳歌できそうな理由について、今後の業界動向とあわせて解説します。

目覚ましい成長の3つの理由

  • ロシュとの連携による研究開発力の強化
    ロシュグループとの連携により、バイオ医薬品分野を中心に他社にはない研究開発パイプラインが拡充されました。画期的新薬の続々とした上市は、中外製薬をグローバルレベルで競争力の高い企業へと押し上げています。
  • 自社開発のイノベーティブ新薬がグローバル市場でヒット
    独自開発力を活かしたがん免疫療法薬などは、日本のみならず欧米・アジア各国で高い評価を受け、売上も急伸。パートナーシップと自社創薬のバランスが、持続的成長を支えています。
  • 国内外の肥満・糖尿病市場の拡大と他社動向注視
    世界的な生活習慣病の増加により、肥満症および糖尿病治療薬の需要が拡大。競合各社による新薬開発競争も激化する中、中外製薬の開発力とロシュの海外ネットワークを活用することで、新たなシェアの獲得が期待されています。

イーライリリー、経口肥満症治療薬「オルフォルグリプロン」で注目集まる

肥満・2型糖尿病治療薬の新時代が到来しています。現在、最大手製薬会社の一角イーライリリーは、注射剤が主流だった分野において経口投与(飲み薬)で効果を発揮する新薬「オルフォルグリプロン(Orforglipron)」の開発で脚光を浴びています。

経口GLP-1受容体作動薬の登場

GLP-1受容体作動薬とは、体内のインスリン分泌を促し、血糖を下げて食欲抑制や体重減少効果を発揮する薬剤群です。これまでは注射による投与が当たり前でした。しかし、オルフォルグリプロンは1日1回経口投与できる非ペプチド型GLP-1受容体作動薬として、新たな地平を切り開きました。

2型糖尿病患者への臨床試験での成果

  • 体重減少効果
    第2相・第3相臨床試験において、2型糖尿病患者で平均10.5%前後の体重減少を記録。具体的には最大用量群で平均7.3kg(7.9%)もの減量効果が示されています。
  • 血糖管理の向上
    HbA1c値(長期血糖指標)が投与開始4週以内で1.3~1.6%低下し、空腹時血糖も改善。従来のGLP-1製剤と同等かそれ以上の効果です。
  • 安全性と忍容性
    主な副作用は軽度~中等度の胃腸障害で、特に服用開始時の用量調整期に発現しやすい特徴がありますが、全体としてはクラス既知の範囲に収まっています。

イーライリリーはグローバル抗肥満薬市場のリーダーへ

イーライリリーはオルフォルグリプロンだけでなく、GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド(商品名:ゼップバウンド、マンジャロ)」などでも世界規模で注目の的となっています。現在、肥満症薬市場の競争は急激に激化し、イーライリリーはこの分野でのリーダーポジションを確立しつつあります。

肥満症治療薬の承認申請と今後の展望

2025年、イーライリリーは経口肥満症治療薬オルフォルグリプロンの新薬承認申請を発表しました。この成功は、患者が注射なしで高い効果を実感できる服薬選択肢の拡大を意味し、生活習慣病治療のアクセシビリティとQOL(生活の質)向上に貢献します。

日本市場も変革期へ

  • 治療選択肢の拡大
    これまで注射薬に抵抗のあった患者層にとって、「飲み薬」という新しい選択肢は大きな希望です。幅広い患者層への治療普及が期待されます。
  • 新薬開発競争の激化
    国内外の大手製薬会社が抗肥満・糖尿病薬に投資を強化しており、今後もますます高機能薬の上市が加速するとみられます。中外製薬も、外部パートナーシップと自社開発力でこの波に乗っています。

まとめ ― グローバル製薬業界の潮流の中で輝く「中外製薬」と「イーライリリー」

これまで紹介してきたように、中外製薬はロシュ傘下での成長実績と継続的なイノベーションによって、今後も自身の存在感を一層強めていくと考えられます。この成長の背景には、世界中で進行する生活習慣病と肥満症への対策があり、グローバル製薬企業間での激しい競争が拍車をかけています。

イーライリリーのようなグローバル企業が経口肥満症治療薬という革新的な新薬を次々と投入し、日本を含む世界の患者に新たな治療体験を届けつつあります。
医療現場、患者、業界のすべてにとって、その恩恵は今後さらに拡がるでしょう。
「中外製薬」が迎える新たな春と、抗肥満症薬を巡る熾烈なイノベーション競争―。両者の動向から目が離せません。

参考元