中部電力、矢作ダムで初の「水位運用高度化操作」試行―発電量増加の新たな一歩

2025年7月、中部電力株式会社と国土交通省中部地方整備局矢作ダム管理所は、矢作ダム(愛知県豊田市・岐阜県恵那市)で「水位運用高度化操作」の試行を初めて実施しました。この取り組みは、同年7月17日夕方から20日午前まで、約3日間にわたる運用の結果、ダムに貯留された約179万立方メートルの水が中部電力・矢作第一水力発電所で有効活用され、約321メガワット時(MWh)の発電量増加につながりました。これは一般家庭約1,240戸が1カ月に消費する電力量と同等です

「水位運用高度化操作」とは?

今回の試行で注目すべきは「水位運用高度化操作」と呼ばれる新たな発電管理手法です。洪水調節と発電のバランスを最適化するために、従来は洪水制御の観点から必要時にダムの洪水吐きゲートを開け、貯水を放流していました。しかし、この手法では発電に利用できる水量が制限されていました。
最新の気象予測技術とダム運用ノウハウを活かした高度化操作では、洪水リスクが低いと判断された場合に限り、ゲートからの放流を制限し、発電用放流管のみで水を流すことで発電量の最大化が図られました。これにより治水安全性を確保しつつ、エネルギー利用も同時に最適化されます

  • 運用期間:2025年7月17日18時~20日10時まで
  • 有効活用した水量:約179万立方メートル
  • 増加した発電量:約321メガワット時(MWh)
  • 一般家庭への電力換算:約1,240戸1カ月分

ハイブリッドダムへの挑戦と地域社会への貢献

この施策は、国が推進する「2050年カーボンニュートラル」および「2030年温室効果ガス46%削減」目標にも合致したものです。既存インフラを賢く活用し、安定的でクリーンな電源として水力発電を最大限に活用する姿勢が求められている今、矢作ダムでの実証は極めて意義深い一歩となりました。
今後は、天候、河川流量、流域バランス、地域防災なども勘案しながら、こうした高度なオペレーションが全国各地のダムでも広がっていくと期待されています

中部電力の水力発電が支える「安定供給」―奥美濃水力発電所の挑戦

中部電力の注目される水力発電所ランキング1位は、岐阜県に位置する奥美濃水力発電所です。その最大出力は150万キロワットと国内最大級。この発電所は気象や季節に極端に左右されず、じつに安定的な電力供給を実現しています。これが、中部地方の産業はもちろん、地域住民の安心な生活やインフラ支援を下支えしているのです。

  • 発電方式:揚水式水力発電(奥美濃は日本最大級)
  • 最大出力:150万キロワット(1,500,000kW)
  • 安定供給実績:天候・季節に左右されにくい強みが特徴
  • 活用分野:家庭用電力、工業用途、非常時のバックアップなど

水力発電が持つ「再生可能エネルギー」としての価値は、単なるCO2削減だけに留まりません。日本は水資源に恵まれ、環境保護とエネルギー安定供給を両立しやすい条件が整っており、季節ごとの雨量変動や異常気象があっても、揚水式などの大規模発電所を中心に需給バランスを調整できるのが強みです。とくに奥美濃の存在は、全国規模で見ても大きな安心材料といえます。

中部電力の挑戦と現状の水力発電の役割

カーボンニュートラルや再生可能エネルギーの拡大が加速するなか、水力発電はその絶対的な安定性と即応性で注目を集めています。中部電力は伝統的なダム式、揚水式に加え、既存設備のアップグレードや河川全体を活用したシステム最適化にも意欲的です。
また、流域全体でのカーボンニュートラル推進にも積極的に取り組んでおり、愛知県の矢作川・豊川流域プロジェクト等でも官民一体となった先進モデルの構築を進めています

市場評価も上向く…アナリストが見る中部電力の展望

中部電力は今、投資家やアナリストからも大きな関心を集めています。2026年3月期に向けた経常利益予想は、直近1週間で約3%上昇というポジティブな動きがみられます。これは、電力の安定供給や再生可能エネルギー活用への期待感、そしてダム高度化運用など高付加価値の取り組みが成果として現れはじめていることへの評価の表れです。
具体的には、天候リスクに強い水力・揚水発電の存在、異常気象時も安定して発電できる強み、カーボンニュートラル対応のフィットなどが根拠になっています。

今後の展望―安全・安心な電力供給と環境対応の両立へ

中部電力の水力発電をめぐる最新動向は、単なる「新技術導入」「発電量アップ」ではなく、地域社会や産業を支える安定供給と、地球環境との調和の両立に向けた総合的な取り組みの広がりにあります。
矢作ダムの高度化運用――すなわち従来の常識や制度を見直し、技術的にも運用的にも一歩先を行くプロジェクトは、全国各地の水力発電ダムの新たなロールモデルとなるでしょう。
そして奥美濃に代表される中部電力の大規模水力発電所群の安定したエネルギー供給力は今後も変わることなく、日本の持続可能な社会と経済発展を支える礎となり続けることでしょう。

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