中国の対日輸出規制とレアアース問題 ――「経済的威圧」と日本経済への影響をやさしく解説

中国が日本向けの軍民両用(デュアルユース)品目の輸出管理を強化すると発表し、レアアース(希土類)も対象になりうるとの報道が広がっています。レアアースはハイテク製品やEV、風力発電などに欠かせない重要資源であり、日本でも不安の声が高まっています。ここでは、今回の流れや背景、日本への影響を、専門用語をできるだけかみ砕きながら整理してお伝えします。

1.今回のニュースの概要――「軍民両用」対日輸出規制の強化とは?

中国商務部(日本の経産省にあたる役所)は2026年1月6日付の公告で、日本に対する「軍民両用(デュアルユース)品目」の輸出管理を強化すると発表しました。これは、軍事用途にも民生用途にも使える物資について、対日輸出を厳しく管理するという方針です。具体的な品目は公告の中で明示されておらず、今後の運用次第で影響が変わる点が大きな不安材料になっています。

公告の要点は、「日本の軍事ユーザー、軍事用途、そして日本の軍事力向上に寄与するその他の最終ユーザーに対して、すべての軍民両用製品の輸出を禁止する」という内容だと日本側の分析では整理されています。 しかし、どこまでを『軍事ユーザー』『軍事用途』とみなすのか、その線引きは明確ではありません。これにより、名目上は安全保障目的の規制であっても、実態としては幅広い分野に影響が及ぶ可能性があります。

2.中国側の説明:「民生用途への影響はない」と強調

この輸出管理強化について、中国商務省は「軍民両用品目の対日輸出規制強化は、あくまで軍事分野を念頭に置いたものだ」と説明しています。報道によれば、中国側は『民生用途への影響は生じない』と強調しており、日常的な商取引や一般の民間産業には直接的な制限はかからないとの立場を示しています。

ただし、実際には、多くのハイテク部品や素材が軍事にも民生にも利用可能な「デュアルユース」扱いであるため、「軍事用途だけに限定して規制する」と言っても、結果として民間企業の調達や生産に影響が出るリスクは否定できません。 どの範囲の品目が実際の運用で対象になるのかが、今後の最大の焦点です。

3.レアアースは規制対象になりうるのか

今回特に注目されているのがレアアース(希土類)です。中国政府系英字紙「チャイナ・デイリー」などの報道では、特定のレアアース関連製品について対日輸出許可の審査を厳格化する方向が示唆されたと伝えられています。 日本・中国双方のシンクタンクや証券会社のレポートも、レアアースが「軍民両用リスト」に多く含まれている点を指摘し、規制対象に組み込まれる可能性を警戒しています。

また、中国は2024年11月に「両用品目輸出管理リスト」を公表しており、その中には特殊用途材料、化学製品、微生物などと並んでレアメタルやレアアースが含まれているとされています。 現段階で「レアアース全般が即座に対日輸出禁止になる」とまで確定しているわけではありませんが、審査の厳格化や許可手続きの遅延などによる「事実上の制限」が行われる可能性は現実的な懸念として受け止められています。

4.レアアースとは何か――なぜここまで重要なのか

レアアース(希土類)は、ネオジム、ジスプロシウム、テルビウムなど17種類の元素の総称で、以下のような分野で欠かせない素材です。

  • 電気自動車(EV)モーターに使われる高性能磁石(ネオジム磁石)
  • 風力発電機、産業用モーターに必要な強力な永久磁石
  • スマートフォン、パソコン、家電製品の部品
  • 光学レンズ、レーザー、各種センサーなどのハイテク機器

特にEV用モーター向けのネオジム磁石の性能を高めるジスプロシウムやテルビウムについては、日本はほぼ100%を中国に依存しているとされています。 そのため、これらが軍民両用品目として厳しく管理されると、自動車産業をはじめとした日本の製造業に大きな影響が出る可能性があります。

5.2010年の「尖閣レアアース問題」とその後の教訓

今回の状況を語る上でよく引き合いに出されるのが、2010年の尖閣諸島をめぐる対立の際に起きたレアアース輸出規制です。当時、中国は日本向けレアアースの輸出を事実上制限し、日本の製造業は大きな打撃を受けました。 この経験を契機に、日本は中国産レアアースへの依存度を減らす取り組みを進めてきました。

その結果、日本が輸入するレアアースの中国依存度は、2010年当時の約90%から現在は約60%へと低下したとされています。 代替供給源の開拓やリサイクル技術の開発などが進んだおかげです。とはいえ、いまだ過半を中国に頼っている状況であり、「中国からの供給が止まれば日本が困る」という構図自体は完全には解消されていません。

6.「経済的威圧」としての輸出規制――社説が指摘する問題点

日本の新聞各紙の社説では、今回の輸出規制強化を「経済的威圧」あるいは「経済的な圧力の手段」として用いることは許されないと強く批判する論調が見られます。中国は過去にも、米国との通商摩擦や半導体規制をめぐり、レアアース輸出制限を交渉カードとして使った実績があります。

こうした経緯から、今回の対日措置についても、中国が外交・安全保障上の不満に対して経済カードを切ったのではないかとする見方が出ています。 社説では、特定の国に対し重要物資の供給を絞る行為は、世界貿易機関(WTO)のルールにも反するおそれがあり、国際社会の信頼を損なうといった指摘もなされています。

7.日本経済への影響――「損失は限定的」説と「大きな打撃」説

レアアースが本格的に規制された場合の影響については、専門家の間でも見方が分かれています

野村證券のレポートでは、今回の対日輸出管理強化について、実際にどの品目がどの程度運用されるかによって影響の大きさは変わるが、レアアースが含まれても日本経済全体への損害は「限定的」になりうるとする見方が示されています。 これは、日本がすでに調達先の分散を進めてきたことや、在庫の積み増し、代替技術の検討が一定程度進んでいることを踏まえた判断です。

一方、別のシンクタンクの分析では、もしレアアースが本格的に輸出規制され、3カ月程度続いた場合、日本経済の損失は約6,600億円に達し、1年間続くと2.6兆円規模になるとの試算も示されています。 この試算では、GDPを0.4%程度押し下げるインパクトがあるともされています。 特に、自動車や電機など日本の基幹産業に集中して影響が出ることが懸念されています。

このように、「全体としては乗り切れる」「しかし特定産業には相応の痛手」という二面性を指摘する声が多いのが現状です。

8.玉川徹氏の見解――「日本は圧倒的に不利」という問題提起

テレビの情報番組などでも、今回の輸出規制とレアアース問題が取り上げられています。コメンテーターの玉川徹氏は、番組内で「日本と中国でチキンレースになると思っている人もいるかもしれないけれど、日本は圧倒的に不利だ」といった趣旨の発言をしています(報道要旨)。スポーツ紙・ネットメディアでもこのコメントが紹介され、話題となりました。

玉川氏が強調しているポイントは、「レアアースなど戦略物資の供給を握る側」と「それを輸入して産業を回している側」の力関係の非対称性です。中国は世界のレアアース生産の大半を担っており、日本を含む各国は依然として中国への依存を続けています。 この構図の中で輸出規制が行われれば、短期的には日本側の方がダメージを受けやすいという懸念が背景にあります。

ただし、一方で、日本も過去の経験から調達先の分散やリサイクル、代替技術の開発を地道に進めてきており、2010年当時に比べれば、確実に「備え」は強化されているとも指摘されています。 どこまでの期間・範囲で規制が行われるかによって、「圧倒的に不利」という評価が当てはまる度合いは変わりうると言えるでしょう。

9.日中関係と今後の行方――「デ・リスキング」と「戦略的互恵」

今回の輸出規制強化は、日本政府にとって経済安全保障の重要性を改めて意識させる出来事になっています。専門家の多くは、日本企業の「デ・リスキング(リスク低減)」をさらに進める契機になると指摘しています。 具体的には、次のような動きが加速するとみられます。

  • レアアースなど重要物資の輸入先の多角化
  • リサイクルや代替材料など技術開発への投資強化
  • 在庫・備蓄の見直しなどサプライチェーンの強靱化

一方で、経済界には日中の「戦略的互恵関係」を維持しつつ、対立を深めすぎないようにしたいという思いも根強くあります。中国は依然として日本の最大の輸入相手国であり、2024年時点で日本の輸入に占める中国の割合は22.5%とされています。 完全な「デカップリング(切り離し)」ではなく、過度な依存を避ける「デ・リスキング」を進めることが現実的な方向性とみなされています。

10.私たちが押さえておきたいポイント

今回の一連の動きを、難しい国際政治や経済の話と感じる方も多いと思いますが、日常生活や将来の仕事にも関わる重要なテーマです。最後に、ポイントを整理します。

  • 中国は日本向けの軍民両用品目の輸出管理を強化すると発表し、レアアースが対象に含まれる可能性が意識されている。
  • 中国商務省は「民生用途への影響はない」と説明しているが、実際の運用次第では民間産業にも影響が及ぶおそれがある。
  • レアアースはEVやスマホ、風力発電などに不可欠な資源で、日本は今も多くを中国から輸入している。
  • 2010年の尖閣問題時の輸出規制を教訓に、日本は依存度を90%から60%程度に下げてきたが、完全には中国依存から脱していない
  • 社説などでは、重要物資の供給を外交カードにする「経済的威圧」は許されないと批判されている。
  • 日本経済全体への影響については、「損害は限定的」とする見方と、「EVなど特定産業には大きな打撃」と見る分析が併存している。
  • 日本政府と企業には、サプライチェーンの見直しやデ・リスキングを一段と進めることが求められている。

今後、実際にどの品目がどの程度規制されるのかによって、日本への影響の姿は大きく変わります。感情的な対立をあおるのではなく、冷静に事実を確認しつつ、日本としての備えを着実に進めていくことが重要だと言えるでしょう。

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