中国経済の弱さが映し出す「日中対立」と日本企業への波紋

最近のニュースでは、中国経済そのものの減速感に加えて、日中関係の悪化が日本企業や金融市場に与える影響が、大きな注目を集めています。この記事では、

  • 中国経済の足元の状況
  • 「存立危機事態」発言に対する中国側の過剰反応
  • 資生堂・サンリオなど中国消費関連株の急落
  • 荒波が続く日中関係と、これからの課題

といった点を、できるだけわかりやすく整理してお伝えします。

中国経済は「強さ」より「弱さ」が目立つ局面に

まず押さえておきたいのは、現在の中国経済が決して盤石ではないという現実です。民間調査や日本のシンクタンクのレポートでは、2025年に入ってからも中国景気は弱い動きが続いていると指摘されています。

例えば、景気の方向性を示す代表的な指標であるPMI(購買担当者景気指数)を見ると、

  • 製造業PMIは、11月時点で8カ月連続の「50割れ」=景気判断の分かれ目を下回る状態が続いている
  • 非製造業PMIも下落し、ゼロコロナ政策解除後初めて50を下回った

とされており、製造業・サービス業ともに景気の力強さを欠いていることがうかがえます。

一方で、2025年7〜9月期の実質GDP成長率は前年比+4.8%と、政府目標の「5%前後」に近い水準を維持しているものの、前期からは伸びが縮小しています。業種別では、かねてより懸念されている不動産業が4四半期ぶりにマイナス成長に転じるなど、構造的な弱さも目立ちます。

消費の面でも、

  • 小売売上高の伸び率は、数カ月連続で縮小
  • 雇用悪化が家計心理を冷やし、消費マインドの低下が続いている

とされ、パンデミック後の「爆発的な消費回復」は見られていません。

著名エコノミストも警告する「景気刺激策と財政危機」のジレンマ

足元の景気が弱くなる中で、中国政府はインフラ投資や不動産支援など、相次ぐ景気刺激策を打ち出してきました。しかし、これに対して国内の著名エコノミストから「やり過ぎは財政危機を招きかねない」との警鐘が鳴らされています。

中国のエコノミスト・劉曉書氏は、

  • 短期的な景気刺激は、多くが政府の借入増加に依存している
  • 債務が膨らめば、利払いが社会保障などの公共支出を圧迫し、財政リスクが高まる
  • 最悪の場合、投資家の信頼低下と借入コストの上昇を通じて「財政危機」の悪循環に陥るおそれがある

と指摘しています。すなわち、「景気を下支えするために財政を使う」と「債務膨張によるリスク拡大」という、難しい綱渡りを迫られているのが今の中国経済の現実です。

「存立危機事態」発言に過剰反応する中国、その背景にあるもの

こうした中、日本国内の安全保障をめぐる発言が、新たな外交火種となりました。高市首相が、国会の場で「台湾有事は日本の存立危機事態となり得る」と述べたことがきっかけで、中国側が強く反発し、日中関係が急速に冷え込んでいます。

中国にとって台湾問題は「核心的利益の中の核心」と位置づけられており、日本のトップによる発言は、北京にとっては対中包囲網への加担と受け止められやすい構図があります。このため、中国政府は、

  • 日本への渡航・留学の自粛勧告
  • 中国航空会社による日中路線の欠航
  • 日本映画の公開延期(「クレヨンしんちゃん」など)
  • 日本産水産物の輸入停止

など、経済・文化面で目に見えやすい対抗措置を相次いで打ち出しました。

金沢工業大学虎ノ門大学院の伊藤俊幸教授(元海将)は、こうした動きを「強さではなく、むしろ中国側の弱さのシグナル」と読み解いています。つまり、国内経済や社会の不安を抱える中、対外的な強硬姿勢を示すことで内向きの求心力を保とうとする側面もある、という見方です。

中国消費関連株からマネー流出、資生堂・サンリオが1割安

日中関係の悪化は、すぐさま金融市場にも波及しました。中国からの観光客や消費に大きく依存している日本の中国消費関連株からは資金が流出し、株価が大きく下落しています。

なかでも象徴的なのが、

  • 資生堂(化粧品大手)
  • サンリオ(キャラクター事業・テーマパークなど)

といった銘柄で、いずれも中国・アジア圏の消費やインバウンド需要への依存度が高い企業です。報道では、両社の株価が一時的に1割前後も下落したと伝えられており、市場がどれほど敏感に中国動向を織り込んでいるかがよくわかります。

背景には、

  • 中国政府による日本渡航自粛の呼びかけにより、日本へのインバウンド需要が冷え込む懸念
  • オンライン通販や越境ECを含め、日本ブランドへのボイコットや「静かな不買」が広がるリスク
  • 中国経済そのものの減速で、中間層の消費意欲が低下していること

などがあり、中国経済と政治情勢の変化が、直接的に日本企業の売上・利益見通しに影を落としているのです。

日本企業に広がる「脱中国依存」の動き

実は、こうした緊張は今回に限った話ではありません。2012年の尖閣諸島問題時には、中国各地で大規模な反日デモが発生し、日本企業の店舗や工場が被害を受けた苦い経験があります。

その後も、

  • 米中対立の激化
  • コロナ禍でのサプライチェーン混乱
  • 技術流出に対する懸念

などから、日本企業の間では「中国リスク」をどう管理するかが、大きな経営課題となっていました。今回の「存立危機事態」発言を発端とする対立激化は、こうした問題意識にさらに火をつけています。

ある国際安全保障の専門家は、

  • 中国はかつての「世界最大の成長市場」から、
  • 地政学的リスクと技術流出懸念を伴う市場へと認識が変わりつつある

と指摘し、日本企業は「脱中国依存」を一時的な回避策ではなく、恒常的な構造リスクへの対応として考えなければならないと述べています。

具体的には、

  • 生産拠点を東南アジアやインドなどに分散
  • 中国向け売上比率を徐々に減らし、北米や欧州、他のアジア市場を開拓
  • 技術や知的財産を扱う部門は中国から切り離し、国内や第三国で管理

といった動きがすでに進みつつあります。資生堂やサンリオの株価下落は、その最前線にいる企業が直面するリスクの大きさを、投資家があらためて意識した結果とも言えるでしょう。

「話せばわかる」とは限らない荒波の中で

「荒波の日中関係」という表現に象徴されるように、いま両国の関係は、経済・安全保障・世論のあらゆる面で複雑に絡み合いながら不安定化しています。

一方で、日中間には、

  • 貿易・投資を通じた深い経済的結びつき
  • 観光や留学、文化交流など人と人とのつながり
  • 気候変動や環境問題など、協力が不可欠な地球規模の課題

も多く存在します。こうした現実的な利害を考えれば、たとえ「話せばすぐにわかる」関係ではなくとも、対話のチャンネルを閉ざさないことは、双方にとって重要です。

その意味で、今回の中国側の強硬なリアクションは、経済的な強さよりも、むしろ内外に不安を抱えるがゆえの「過剰反応」という側面があると見る専門家も少なくありません。中国経済が減速し、国内の雇用や不動産、市場心理が不安定なときほど、対外的な問題が国内政治の道具として利用されるリスクが高まります。

これからの日本と投資家・企業に求められる視点

では、日本として、また企業や投資家として、どのような視点が求められるのでしょうか。

ポイントは大きく3つあります。

  • 1. 中国経済の「弱さ」を直視する
    GDP成長率や株価だけを見るのではなく、PMI、消費データ、不動産市況、地方政府債務といった指標に目を向けることで、中国経済の体力やリスクをより立体的に把握する必要があります。
  • 2. 地政学リスクと経済リスクを切り離さない
    台湾海峡情勢や日米同盟の動きは、もはや政治ニュースだけの話ではありません。今回のように、ひとつの発言が日中対立を激化させ、インバウンドや株価、中国ビジネスに直接影響を及ぼす時代です。
  • 3. 「脱中国依存」は感情ではなく戦略で
    中国市場を一気に捨てることは現実的ではなく、日本企業にとっても大きな損失となります。その一方で、特定の国や地域に過度に依存しない分散戦略は、もはや避けて通れないリスク管理です。

このように、中国経済の弱さと日中対立の激化は、表面上は別々のニュースに見えても、実は深く結びついた問題です。資生堂やサンリオの株価下落は、その「接点」がもっともわかりやすく表れた一例と言えるでしょう。

荒波が続く中で、日本にとって大切なのは、感情的な反応に流されず、冷静にリスクと機会を見極める視点を持ち続けることです。中国経済の行方と日中関係の変化は、これからも日本経済と私たちの暮らしに大きな影響を与え続けます。その動きを丁寧に追いかけ、事実に基づいて判断していくことが、いま一段と求められています。

参考元