ニセコの持続可能な未来を築く—「ニスエコ」プロジェクトと地域の先進的取組み
北海道の大自然と、世界中から観光客が集まるスノーリゾートとして知られるニセコは、いま「持続可能な地域づくり」に真剣に取り組んでいます。そこで大きな役割を果たしているのが、有志による「ニスエコ」プロジェクトです。発足から4年目となるこの活動は、多様な企業・個人・自治体が連携し、「未来寄付」と環境保全を軸とした具体的な取り組みを進めています。この記事では、その歩みと成果、さらに全国でも注目を集める新たなチャレンジについて、最新の動向に基づき、やさしく丁寧にご紹介します。
ニセコの持続可能な地域づくり——課題と背景
ニセコ町は近年、観光客の増加や開発による環境・社会面への影響を受けつつも、観光を通じた持続可能な発展を目指してさまざまな課題に取り組んできました。
気候変動への対応、自然資源の保全、地元住民と観光事業の調和、経済循環の強化といった課題に向き合いながら、国際的な認証や評価も受けてきた地域です。
- 文化・自然資源の保全と振興：貴重な自然や伝統を守り、次世代に価値をつなぐための継続的な努力
- 環境の持続可能性：観光客の増加に伴う二酸化炭素排出量など、環境負荷を抑える地域を目指す
- 社会・経済の持続可能性：地元住民の生活と観光の調和、経済的利益の地域還元を重視
- 観光による地域価値の向上：訪れる人々と住む人々が共に豊かさを享受できる仕組みづくり
これら複合的な課題へのアプローチとして、地域一丸となった取り組みが求められています。
「ニスエコ」プロジェクトとは——4年目を迎えた実践型サステナブル活動
「ニスエコ」は、市民有志・地元企業・自治体らが連携し、持続可能なニセコづくりを目指す草の根プロジェクトです。2021年の発足以来、毎年着実に進化を遂げ、今や町の顔となるサステナブル活動の中心的存在となっています。
- 植樹活動：最大の柱は、企業や個人、観光客が参画して進める植樹です。昨年からは「お客様1名のアンケート回答ごとに1本の植樹」というユニークな仕組みも導入され、宿泊施設と連携し、観光と環境保全を結びつける流れを生み出しています。
- 「未来寄付」商品：地域産の商品、サービスに寄付金を付加した「未来寄付商品」が年々拡がり、消費と寄付の両立を実現。売上の一部が植樹など環境活動に充てられ、消費者一人ひとりの行動が森づくりにつながっています。
- 教育旅行プログラム：学校の修学旅行や体験学習の一環として、植樹体験や森づくりを行うプログラムも誕生。苗木の購入費用も「未来寄付商品」等で賄われ、子どもたち自身が地域の自然と触れ合い、未来への責任を実感しています。
これらの活動は一過性のイベントに留まらず、町を挙げた生活文化として根付き始めています。参加企業数や寄付金額も年々増加し、「持続可能な観光地モデル」として国内外から注目されています。
参画企業による新たな植樹モデル
2025年には、新たな企業も参画し、特に宿泊業や観光業を中心に「ゲストアンケート1件につき1本の植樹」モデルが始まりました。この仕組みは、観光とエコ活動の接点をつくると同時に、地域経済と自然環境の循環強化にも大きな役割を担っています。
- 企業は、CSR（企業の社会的責任）の一環として活動に協賛し、自社ブランドの価値向上にもつなげています。
- 観光客は、滞在体験や消費行動そのものが森づくりに直接貢献することに満足と誇りを感じています。
- 地元の小中高校とも連携し、植樹や自然保全活動が学習機会になっています。
このように企業・観光客・地域住民が三位一体となった実践型サーキュラーエコノミーのモデルと言えます。
「未来寄付」商品の多様化と消費者参加型の寄付文化
寄付付き商品、サービスのラインナップも大きく拡大しています。地元農産品、お土産、飲食サービス、宿泊体験、さらにはオンラインでのクラウドファンディング型商品まで、消費者の多様な選択肢が用意されています。
- 購入や利用を通じて、誰もが気軽に環境保全の一端を担える。
- 寄付金の使い道や活動報告が可視化され、信頼性と納得感を高めている。
- 新たな商品開発や市場拡大のきっかけにもなり、経済循環と社会貢献が好循環を形成。
この「未来寄付」文化は、多くの観光地や地域コミュニティのロールモデルにもなろうとしています。
地域発の先進的プロジェクト——AIやNFTを活用した環境保全
「ニスエコ」だけでなく、ニセコ町は最先端の取り組みにも積極的です。2025年11月からは、AIとNFT（非代替性トークン）を活用した独自の寄付プロジェクト「北斎冨嶽令和景プロジェクト」が始まりました。
- 葛飾北斎の視点を取り入れた郷土アートをAIで生成し、NFTとして販売。
- 販売価格の半額を自然環境保全団体に寄付し、残りはアーティストやプロジェクト継続費用に。
- 購入者には特別な自然体験や記念品などの返礼も。
このプロジェクトは、資金不足や人手不足に悩む保全活動の新たな資金源となるとともに、インバウンド観光客の参加や地域外からの支援も呼び込むモデルとなっています。
地域内外からの広がる共感——ベスト・ツーリズム・ビレッジ認定へ
これら継続的な取り組みは、国連観光機関（UN Tourism）など国際的な評価も受けています。ニセコ町は2025年、観光を通じた自然・文化遺産の保全や、地域の持続可能な発展が認められ、「ベスト・ツーリズム・ビレッジ（BTV）」にも連携認定されました。
- SDGs（持続可能な開発目標）に沿った多面的な活動の成果
- 産官学・民間の緊密な連携
- 透明性の高い情報発信と住民参加型の合意形成
こうした認定やシンポジウム開催は、地域に励みと誇りを与え、新たな連携や投資の呼び水にもなっています。
国内最北のチャレンジ——綿花の露地栽培成功と商品化
また、2025年には高橋農園による国内最北となる綿花の露地栽培が成功しました。これまで北海道の気候では難しいとされてきた綿花ですが、地元の創意工夫と気候変動に対応した農業技術で見事に実を結びました。
- これまでニセコの名産とされてきた野菜・果物のみならず、アロマ商品やテキスタイルなど高付加価値商品への展開も計画
- 観光体験や「未来寄付」商品にも活用されるなど、地域全体のブランド力向上にもつながっている
- 農業の多様化と気候変動への適応力強化も評価されています
この成功は「チャレンジする農業」として、持続可能な食と産業への布石となっています。
「みんなで築く、これからのニセコ」——町民・企業・観光客が協働する未来
「ニスエコ」をはじめとする連携プロジェクトや創造的なチャレンジを背景に、ニセコは観光地としてだけでなく「持続可能な未来都市」として進化を続けています。
- 町民が主体となり、地元の価値と責任を再認識
- 企業や観光客も「一緒につくる」参画型の町づくり
- ICTやAI活用による新たな推進力、グローバルな広がり
- 教育・体験を通じて、子どもから大人まで世代を超えた取り組み
これらの歩みは、全国・世界の観光都市や地方創生を目指す地域にも重要なヒントを与えています。変わりゆく時代のなかで、地域を愛し、守り、育てあう循環の力が、確かな未来への道標となるでしょう。
