イギリス空母「プリンス・オブ・ウェールズ」日本寄港と日英防衛協力の現在地
2025年8月、イギリス海軍の最新鋭空母「プリンス・オブ・ウェールズ」が東京都江東区の東京国際クルーズターミナルに寄港しました。この出来事は、1997年以来28年ぶりとなるイギリスの空母の東京寄港として、日本だけでなく国際社会からも大きな注目を集めています。最新鋭のステルス戦闘機F-35Bを多数搭載し、イギリス史上最大の軍艦である「プリンス・オブ・ウェールズ」の寄港の背景には何があるのでしょうか。
イギリス空母「プリンス・オブ・ウェールズ」とはどんな艦か?
「プリンス・オブ・ウェールズ」は全長284メートル、最大幅73メートル、排水量約6万5000トンという堂々たる規模を誇ります。最大36機のF-35B戦闘機および4機のヘリコプターを搭載でき、現代海軍の中でもトップクラスの戦力投射能力を保有しています。特長的なのは、スキージャンプ型の甲板を持ち、F-35Bが約100メートルの滑走で発進できることです。
- 2025年8月28日~9月2日まで東京に停泊
- 一般向け見学ツアーやイギリス企業によるレセプションを実施
- 日本の護衛艦「あけぼの」とともにマレー沖海戦の追悼儀礼にも参加予定
なぜ今、イギリス空母が日本に寄港したのか?
多くのメディアや専門家が一致して指摘しているのは、「プリンス・オブ・ウェールズ」寄港の大きな目的がアジア太平洋地域の安定確保と抑止力強化にあるという点です。特に中国やロシアなど、力による現状変更が警戒される地域情勢を背景に、「イギリスがアジア安定の一翼」を担う意思が明確に示された形です。
また、アメリカ合衆国が主導する「自由で開かれたインド太平洋」構想と足並みを揃えた形で、同盟国やパートナー国の結束を世界にアピールする狙いも見て取れます。英国国防省によると、この寄港はインド太平洋地域へのイギリスの軍事的関与を深める「ハイマスト作戦」の一環でもあります。
日英防衛協力の「黄金時代」到来
イギリス空母の日本寄港は、「日英防衛協力の黄金時代」を象徴しています。両国は防衛のみならず、研究や文化の分野でも協力を深化させています。英国防相による寄稿文では、グローバルな安全保障課題に共同で取り組む決意が強調されました。情報共有、共同訓練、新技術開発や装備の共同開発など、多層的な協力体制が構築されています。
- 2022年には「日英円滑化協定(RAA)」が署名され、部隊の相互訪問や訓練が容易に
- 航空機やミサイル技術、防衛装備品分野での共同開発が進展
- サイバー安全保障やAI技術を活用した新分野での連携も拡大
- 人材交流や共同研究、文化イベントによる相互理解の深化も加速
こうした協力の強化は、日本とイギリスの外交・安全保障戦略が急速に接近した結果といえます。特にロシアによるウクライナ侵攻以降、民主主義国家連携の重要性が高まり、日英関係は「特別なグローバル・パートナーシップ」へと発展しています。
対中国関係の再構築と経済協力の最前線
イギリス国内では、中国との関係再構築も進められています。英政府関係者や貿易担当相は「投資家と連携」しながら、中国との適切な経済・通商関係を求めているとコメントしています。これは一方で安全保障上の懸念には厳しく対応しつつも、経済分野では現実的な連携を模索する姿勢を示しています。
現在、イギリスはアジア各国との貿易拡大を積極的に進めており、日英経済関係も新たな段階に入っています。経済連携協定(EPA)により双方の企業活動が促進され、日英間の投資や人材交流は今後さらに加速するとみられています。
一般公開された空母と市民交流:日本の受け止め
「プリンス・オブ・ウェールズ」は東京国際クルーズターミナルで一般公開が行われ、多くの一般市民が抽選で艦内見学ツアーに参加しました。普段は接する機会の少ない最新軍艦やF-35B戦闘機の実物を間近に見学できたことで、防衛への関心や日英友好への理解が深まっています。
- 参加者からは「スケールの大きさ」に圧倒されたとの声
- イギリス海軍関係者や企業による交流レセプションも開催
- 「安全保障は難しい話だけではない」と多くの市民が実感
また、空母の寄港は、時代を超えた日英両国の歴史的な縁や絆に新たな意味を与え、未来志向のパートナーシップ構築に確実な足跡を残しています。
今後の展望:日英協力の波及効果と課題
今後、イギリス海軍は日本の海上自衛隊と共同演習や様々な交流行事を予定しており、この協力はASEAN諸国やインド太平洋全体への波及効果も期待されています。防衛だけでなく、さまざまな分野での日英連携は「黄金時代」を迎えており、両国が共にアジア太平洋の安定に積極的に関与していく姿が浮かび上がります。
一方で、中国との関係を巡るバランスや、多国間協力の中での日英の役割分担など、今後克服すべき課題も少なくありません。ヨーロッパとアジアの架け橋としてのイギリスの存在意義が問われる中、日本にとっても新たな国際安全保障環境への主体的な対応・選択が求められているのです。
まとめ
イギリス空母「プリンス・オブ・ウェールズ」の日本寄港は、外交・防衛・経済と多方面での日英連携の質的な転換点を象徴する出来事となりました。両国は平和と安定に向けて、軍事的・経済的に強固なパートナーシップを築いています。アジア太平洋情勢の不確実性が増すなかで、日英関係の今後の展開に世界の注目が集まっています。