鳥インフルエンザウイルスの脅威が急速に拡大 フランス専門家が新型コロナを上回る危機的状況を警告
現在、世界中で高病原性鳥インフルエンザの感染が深刻化しており、フランスの感染症研究の権威が衝撃的な警告を発しています。野生鳥類、家禽、哺乳類の間で広がる鳥インフルエンザウイルスが、ヒトの間で感染する変異を起こした場合、新型コロナウイルスよりも深刻なパンデミックを引き起こす可能性があるというのです。この警告は、世界保健機関(WHO)が公表した最新の統計データとも相まって、国際社会に大きな衝撃を与えています。
フランス専門家の重大警告
フランスのパスツール研究所呼吸器感染症センターの責任者、マリアンヌ・ラメックス・ウェルティ氏は、ロイターとのインタビューで次のように述べました。「われわれが懸念しているのは、ウイルスが哺乳類、特にヒトに適応し、ヒトからヒトへの感染能力を獲得して、ウイルスがパンデミックを引き起こすウイルスとなることだ」と警告しています。
重要なのは、ヒトは一般的なH1型やH3型の季節性インフルエンザに対する抗体を持っているが、H5型鳥インフルエンザに対する抗体を持たないという点です。これは新型コロナウイルス出現時と同じ状況であり、世界中の人類がこのウイルスに対して完全に無防備であることを意味しています。
新型コロナとの大きな違いも指摘されています。コロナウイルスは主に高齢者や基礎疾患を持つ人々に重大な影響を与えましたが、インフルエンザウイルスは子どもを含む健康な人々の命を奪いかねないという特性があります。これは1918年のスペイン風邪で多くの若年層が命を落とした状況と類似しています。ラメックス・ウェルティ氏は「鳥インフルエンザのパンデミックはおそらく非常に深刻で、われわれが経験したコロナ禍よりもさらに重大な事態となる可能性がある」と警告しています。
感染者数の増加と深刻な死亡率
世界保健機関(WHO)の最新の鳥インフルエンザ報告書によると、2003年から2025年までにヒトへの感染は1000件近くに上り、そのうち48%が死亡しているという驚くべき統計が明らかになりました。この死亡率の高さは、新型コロナウイルスの初期段階よりも深刻であり、医療現場の負担がいかに大きくなるかを示唆しています。感染の主な場所は、エジプト、インドネシア、ベトナムなどの東南アジア地域と中東地域に集中しており、これらの地域での監視体制の強化が急務となっています。
ヨーロッパでの急速な拡大
一方、ヨーロッパでは鳥インフルエンザの感染が急速に拡大しています。2025年、ヨーロッパ20カ国で商業用家禽に高病原性鳥インフルエンザが295件発生し、ハンガリーが105件で最多、次いでポーランド94件、ドイツ19件と報告されています。これらの発生のほとんどでH5N1型が検出されており、既存のワクチンでは完全に対応できない可能性もあります。
さらに懸念されるのは、家庭用や動物園の飼育鳥でも83件が報告され、野生鳥類では743件の発生が確認されているという点です。これは、ウイルスが動物界全体に深く浸透していることを意味し、変異のリスクが日々高まっていることを示しています。オランダでは種鶏農場で陽性確認後、全国的な屋内飼育命令が発出され、フランスもリスクを「中程度」に引き上げるなど、各国が神経を研ぎ澄まして対応しています。
日本での感染拡大と新たな変異株への懸念
日本国内でも状況は深刻化しており、インフルエンザ患者が全国的に拡大している状況が報告されています。特に注目されているのが、「サブクレードK」と呼ばれる新しい変異株の出現です。この変異株は既存の免疫をすり抜ける性質を持っており、過去10年間で最大規模の流行が予測されています。医療の最前線からも、この新しい変異株への対策強化の必要性が指摘されています。
ただし、パンデミック発生のリスクは「依然として低い」
一方で、国際獣疫事務局(WOAH)の科学部長、グレゴリオ・トーレス氏は、ロイターに対し「ヒトにおけるパンデミック発生のリスクは依然として低い」と述べています。この見解と専門家の警告のギャップは、ウイルスの変異可能性に関する科学的な不確実性を反映しています。
準備態勢の充実が明るい材料
しかし、新型コロナウイルスの経験から、世界は以前よりも適切に準備できているという利点があります。ラメックス・ウェルティ氏は「新型コロナと比較して、鳥インフルエンザには具体的な予防策が整備されていることが明るい材料だ。ワクチン候補の準備ができており、迅速な製造方法も分かっていると説明しています。さらに「原理上、この鳥インフルエンザウイルスに有効な抗ウイルス薬も備蓄されている」と付け加えており、パニックに陥る必要はないという立場を示しています。
今後の対応が重要
世界中の各国政府と国際機関は、このウイルスの監視体制を強化し、防疫措置を徹底する必要があります。特に、感染者との密接な接触による感染が現在のところ主体となっていますが、ウイルスの種間移動の頻度が増加していることに注視する必要があります。高病原性鳥インフルエンザはすでに世界中で数億羽の家禽を殺処分に追い込んでおり、経済的にも甚大な被害をもたらしています。
パスツール研究所が新型コロナウイルスの警告を最初に発信した権威ある研究機関であることを考えると、今回の警告の重要性はさらに増します。新型コロナの経験を踏まえ、ワクチン開発体制の整備や抗ウイルス薬の備蓄、そして何より重要な「予防と検査の充実」に全力で取り組むことが、人類社会にとって急務となっています。
個人レベルでは、手洗い、うがいなどの基本的な衛生管理の徹底、そして鳥との密接な接触を避けるなどの予防措置が重要です。政府レベルでは、国際的な連携の下、情報共有と技術協力を加速させることが求められています。今後、ウイルスの動向がどのように変わるかは予測困難ですが、準備万端の体制を整えることで、最悪のシナリオを避けることができるでしょう。




