オーストラリア大手銀行CBA、AI導入による人員削減を撤回──業界全体が揺れる「生産性」と「雇用」の議論
2025年8月31日──オーストラリア最大手銀行の一つ、コモンウェルス銀行(CBA)がAI導入による人員削減を巡り方針を大きく転換しました。AIによる自動化を理由に社員の解雇を進めていた同銀行でしたが、労働組合などからの強い反発や社内外の混乱を受け、「今回の削減は誤りであった」と公式に認め、対象社員の復職支援に乗り出すことを発表しました。
話題の背景:AI活用と人員削減の波
CBAは2024年末ごろから、生成AIチャットボット「Hey CommBank」を顧客対応部門に本格導入。その結果、2400名いたコンタクトセンタースタッフのうち、多数が「AIに業務が置き換わる」として解雇・配置転換されました。
CBAのほかにも、オーストラリア国内外でAIによる業務効率化を進める企業が増加しています。例えば通信大手テレスラは同時期にAI導入を進めつつも、大規模な人員削減の背景には「AIは関係ない」と強調しています。しかし、AmazonやIBMなど海外大手企業でAI化と人員削減を結びつける声は絶えません。
「AI解雇」は本当に得策だったのか──銀行の“誤算”
- コスト削減や効率化を狙ったAI化のはずが、業務に支障や顧客クレームが多発。
- AIチャットボットによる応対の精度や複雑案件への対応力に限界。
- 顧客からは「人間の担当者による丁寧な対応が失われた」と不満噴出。
- 結果として、AI置換された一部業務で解雇されたスタッフを再雇用せざるを得なくなった。
CBAは「役割は冗長ではなかった」「現場の実情やお客様の声、経営全体への影響を過小評価していた」と認めました。加えて「ビジネス判断にあたって全ての関連要素を十分に考慮していなかった」とも表明し、内部体制の見直しと社員への支援を強化するとしています。
社会に波紋:労働者とAI活用の新たな均衡点
CBAの“大転換”は大きな社会的反響を呼びました。労働組合であるFSU(オーストラリア金融サービス組合)のジュリア・アングリサーノ全国書記は
「労働者が団結し戦った結果の勝利だ。AI導入を口実とした雇用削減には断固反対し続ける」と力強くコメントしています。
FSUやオーストラリア労働組合会議(ACTU)は「AI導入にあたっては雇用継続や職場の公正を厳密に担保する契約(AI実装協定)」を求めています。今後は“AIと人間の協働”をどう最適化するかが企業社会全体に問われそうです。
- AIを導入したことで業務の一部で明らかな生産性向上は見られたが、すべてのケースで人員が不要とはならなかった。
- 特に“共感”や“柔軟な対応”が必要な業務、複雑な問題解決では人間スタッフの方が高く評価される。
事例は他社にも:国際的な「AIで解雇→再雇用」の動き
CBAだけでなく、AI化による一時的な解雇の“巻き戻し”は海外にも見られます。
- スウェーデンのフィンテック企業Klarna(クラーナ)は、AIチャットボット導入でカスタマーサービス部門を縮小しましたが、結局カスタマーの不満が続出し、一部スタッフを再雇用。
- 米国IBMも人事部門のAI置換を推進したものの、手続きの複雑化や社員からのフィードバックを踏まえ、人員の再採用を実施。
こうした事例は、「AI導入が必ずしも雇用削減=利益増大」と短絡的にはいかない現実を示しています。
AI導入と生産性──これから問われる企業の在り方
今回のCBAのケースは、AIが本当に生産性向上やサービス品質向上に寄与するのか、多面的な検討が必要であることを示唆しています。
- 業種や職種ごとにAI導入の「最適解」は異なる。
- 人間とAI、それぞれの強みを生かした組織運営の必要性が高まっている。
- 労働者が自ら新しい技術と向き合い、スキルを進化させる機会を持つことも大切。
AI技術は今後も劇的な進化を続ける見込みですが、「AIによる効率化」だけを追求し雇用や現場の実情を無視した経営判断は、企業ブランドや競争力低下、社会不信につながるリスクがあります。
CBAの判断の転換は、企業と社会全体が「人間とAIが共存する持続可能な社会」のあり方を真剣に問い直す転機として記憶されることでしょう。
まとめ──AI時代の働き方と企業経営の新常識
今回のニュースは、AIテクノロジーと「働くこと」の未来を考えるうえでとても示唆に富んでいます。企業の生産性向上と従業員の安心・納得感、どちらも軽視せずバランス良く進める道が求められる時代となりました。
- AI導入の際は、現場・顧客の「リアルな声」や働く人々の視点を必ず反映させる。
- 労使間のコミュニケーションを強化し、雇用の安定と技術革新の両立を追求。
- 新たなAI活用社会のモデルケースとなるよう、企業の先進的な取り組みが注目される。
オーストラリアをはじめ、世界中の企業・組織で「AIをどう活かし、人と共生させていくか」。この問いに対する最適解を求めて、労使双方が歩みを進めていくことが期待されます。