アスクル、ランサムウェア攻撃から手作業で出荷業務を再開 医療機関優先で復旧進む

オフィス用品や生活用品の通販大手「アスクル」は、10月19日に発生したランサムウェア攻撃による深刻なシステム障害から、現在手作業による限定的な出荷業務を再開しました。10月末時点でも完全なシステム復旧には至っていませんが、社会的に重要性の高い医療機関や介護施設への商品供給を優先する運用体制へシフトしています。

被害の深刻さと初期対応

アスクルが10月19日に公表したランサムウェア攻撃は、同社のシステム全体に影響を及ぼし、法人向けサービス「ASKUL」や個人向けEC「LOHACO」、さらに関連企業のネットストア事業まで広範囲に波及しました。攻撃により、受注および出荷業務が完全に停止し、無印良品やロフト、医療機関などの多くの顧客に甚大な影響をもたらしました。

外部からの不正侵入が確認されたこのランサムウェア感染について、アスクルは親会社であるLINEヤフー株式会社からエンジニア約30名の派遣を受け、システムの全容解明と復旧作業に全力で取り組んでいます。10月21日時点での発表では、復旧の見通しが立っていない状況が報告されていたため、企業としての対応の重要性がより高まっていました。

限定的な手作業復旧への転換

システムの完全復旧までの期間を補うため、アスクルは手作業による出荷業務の再開を決断しました。特に医療機関や介護施設といった社会インフラに関わる施設への供給を優先する運用体制が採用されています。これは、医療現場での必需品不足という懸念に対応するための戦略的な判断です。

10月29日の段階で、コピーペーパーなどの基本的な業務用品について、手作業での出荷が本格化してきました。このアプローチにより、完全なシステム復旧を待つのではなく、段階的にサービスを回復させるという方針が明確になっています。

物流体制の強化と佐川急便への配送委託

アスクルの自社物流体制の復旧見通しが立たない中で、同社は佐川急便への配送業務の委託を決定しました。これにより、限定的な出荷を通じて顧客への商品供給体制を確保しようとしています。外部物流パートナーとの連携強化は、システム障害が長期化する可能性に対する現実的な対応策となっています。

この決定は、単なる応急措置ではなく、段階的なサービス正常化に向けた重要なステップとして位置づけられています。配送機能の外部委託により、オペレーション上の柔軟性が生まれ、システム復旧作業への経営資源の集中が可能になります。

復旧プロセスと現状

アスクルの復旧対応は、複数段階で進められています。まず感染端末の特定とネットワーク遮断が完了し、現在は被害範囲の調査と影響範囲の特定が進行中です。バックアップデータの確認・検証については、部分的に進行している状況にあります。

安全確認後の限定的な業務からの順次再開が予定されていますが、明確な復旧日数はいまだ発表されていません。セキュリティ専門家との連携を通じて、早期のサービス再開とユーザー保護の両立を目指しているとのことです。

社会への影響と個人情報の安全性

今回のランサムウェア攻撃は、アスクル単体にとどまらず、同社の物流基盤に依存する複数の大型小売企業に影響を与えています。また医療現場での医療用品や医薬品の不足という懸念も生じており、社会全体への波及効果が深刻化していました。

個人情報や顧客データの外部流出については、10月27日現在でも確認されていないとされています。しかし調査が継続中であり、詳細が判明した際には改めて公表される予定です。アスクルは公式サイトおよびX(旧Twitter)アカウントで、「お客様・取引先の皆様に多大なご迷惑をおかけしており、深くお詫び申し上げます」との謝罪文を掲載しています。

今後の課題と対策

アスクルは再発防止策として、サーバーの安全性向上や社内体制の点検・強化を実施する方針です。月次決算の開示延期も検討されるなど、企業経営全体への影響も生じています。

近年、国内外の大手企業を狙ったランサムウェア攻撃は増加傾向にあり、大規模なITインフラを抱える企業は特に標的となりやすい状況にあります。この事案は、バックアップ体制の強化や多層的な防御策の重要性を改めて浮き彫りにしました。

アスクルは今後、順次サービスの再開を予定していますが、全面復旧の時期については現時点では未定とされています。医療機関や介護施設への供給を優先する段階的復旧は、社会的責任を果たしながら危機を乗り越えようとする企業姿勢の表れといえます。

結び

10月19日から始まったアスクルのシステム障害は、現在10日以上経過しました。手作業による出荷再開と佐川急便への配送委託により、限定的ながらも顧客への供給体制が整備されつつあります。完全なシステム復旧には時間を要する見通しですが、医療機関優先の運用姿勢を通じて、社会への影響を最小限に抑えるための努力が続いています。

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