愛知の“ミリ単位”技術が核融合発電の夢を支える――日本発・無限クリーンエネルギー実現への最前線
はじめに
核融合発電――それは「夢のエネルギー」と呼ばれ、長年にわたり科学技術の粋を集めて追い求められてきました。
石油や石炭などの化石燃料に頼らず、CO2を出さず、しかも燃料となる重水素は海水から採れるため、「無限」とも呼べる新たなクリーンエネルギーとして世界中が期待を寄せています。
2025年現在、日本ではこの核融合発電の商用化が具体的な道筋を描き始め、各地の中小企業やベンチャー企業、それを支える地域の精密技術が熱い注目を集めています。
核融合発電とは?夢が現実になるまでの壁
核融合発電は、太陽がその膨大なエネルギーを生み出す仕組みと同じ反応――「軽い原子核が融合し、より重い原子核になる時に生まれるエネルギー」を地上で制御し、発電に用いる技術です。
最大の特長は、次のとおりです:
- CO2などの温室効果ガスを排出しない
- 燃料(重水素や三重水素)は海水など地球上に豊富に存在
- 放射性廃棄物の発生量も極めて少なく、将来的なエネルギー安全保障へも貢献
技術的な実現には、1億度を超える超高温プラズマの安定制御、極限環境に耐える材料の開発、「実用発電」と呼べるレベルでのエネルギー取り出しなどの複数の大きな壁が存在します。
世界が動く――日本の核融合国家戦略の転換
2025年6月、日本政府は核融合国家戦略「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を改定。「2030年代に世界に先駆けて実証」を明記し、商業化に向けた方針を大きく転換しました。
これまでは「2050年以降」と言われ続けてきた核融合が、「あと十数年」で私たちの生活に電気を届ける現実の目標へと、ぐっと身近になったのです。
支えるのは“精密技術”――愛知・中小企業のすごい現場
日本の核融合発電開発を語る上で、見逃せないのが地元企業による極限の精密部品供給です。
特に航空宇宙向けのミクロン単位の金属加工で世界に誇る地域――愛知県の中小製造業が、核融合炉開発の最先端を力強く支えています。
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コイルケース製作:愛知県一宮市の老舗「菱輝金型工業」では、1億度以上のプラズマを閉じ込める核融合炉用「高温超伝導コイル」のコイルケース製作を担当。
高温で膨張変形する大型金属を、航空機部品で鍛えた“ミリ単位”の精度で仕上げる熟練技術が求められます。 - 航空宇宙技術の転用:これまでボーイングや国産ロケット部品を手掛けてきた同社は、従来のスキルを核融合部品製造へと転用し、「モノづくり日本」の底力を見せています。
こうした中小・町工場レベルでの精密切削や溶接、表面処理が、実は最先端の核融合炉開発を“下支え”しており、世界の技術開発競争の一翼を担っています。
ヘリカル社&愛知の企業提携――核融合の商用化を加速
特に注目されているのが、ヘリカル社(Helical Fusion)が愛知の部品加工企業と提携し、核融合炉の開発を加速しているニュースです。
ヘリカル社は、世界で唯一、「商用核融合炉の三要件」
(定常運転・正味発電・効率的な保守性)を今すぐ実現可能な「ヘリカル方式」による開発を進めています。
- ヘリカル方式:より小型・安価で、安定稼働しやすいのが特徴。三交代制の現場で連続運転+短期メンテナンス可能で、産業利用と親和性が高い方式。
- 地元企業との連携:部品生産だけでなく、AI技術による制御システム開発なども含め、産業界とアカデミアが連携した“オールジャパン体制”で国際競争へ。
AI需要やデータセンターの電力需要増加にも応えるべく、核融合を活用したクリーンで膨大な電力供給を実現しようという動きが活発化しています。
世界の競争・日本の産業化へ
核融合発電の実現を目指す動きは日本だけでなく、海外でも加速しています。
アメリカのCommonwealth Fusion Systems(CFS)は、400メガワット級の商用核融合発電所「ARC」をバージニア州で建設し、2030年代前半の運転開始を目標としています。
NTTやその他日本企業も資金面・技術面で支援し、将来的に国内商用化へのノウハウ獲得を目指しています。
- 日本企業の国際連携:日本の企業コンソーシアム12社は、アメリカCFSとの連携を通じて商用炉の開発・建設・運転の知見を蓄積し、国内導入や社会実装を推進。
- 国内ベンチャーの躍進:「京都フュージョニアリング」などスタートアップ企業も台頭、資金調達や海外展開を積極化。技術革新が進む一方、材料耐久性など解決すべき課題も多い。
2030年代の商用化を現実にするため、さまざまな分野・規模の企業が垣根を越え協力し、日本のエネルギー新時代“自給自足”に向けて一丸となっています。
CO2ゼロ・燃料輸入不要――実現すれば「夢の無限クリーンエネルギー」
核融合発電が本格稼働すれば、日本が直面するエネルギー問題――CO2排出削減、エネルギー自給率向上、燃料コスト・需給変動リスクの回避など、さまざまな課題の解決につながります。
燃料は海水由来、しかも膨大な発電能力。発電時にはCO2も放射性廃棄物もほぼ発生せず、地球環境への影響も最小限です。
- 石油やLNGなど化石燃料の価格高騰や地政学リスクからの脱却
- 産業競争力・AIやデータセンターなど成長分野の安定インフラ
- クリーンエネルギー技術を日本発で世界へ輸出し、新たな成長エンジンに
今後の展望と残る課題
一方で、核融合発電には今も様々な技術的課題が残されています。たとえば、長期間の安定運転に耐える材料の研究や、より効率的なエネルギー取り出しシステム、大規模な安全基準の策定、発電コスト低減などです。
各国・各企業の競争は激化しており、知的財産確保や人材育成という“産業エコシステム”整備への取り組みも加速しています。
こうした状況の中で、愛知の中小企業による日本のモノづくりの力、そして産学連携によるイノベーションが核となり、新しい時代のエネルギーが生まれつつある――これこそが、2025年現在の大きなニュースと言えるでしょう。
おわりに―「あと一歩」がリアルな未来に
かつては「30年先の未来技術」と言われてきた核融合発電。しかし今、日本では地元企業による手作業の“ミリ単位”精度や、ベンチャー企業の果敢な挑戦、グローバルな連携によって、夢の実用化へ秒読み段階に来ています。
地元工場の技術から最先端AIシステムまで、すべての部品と知恵が結集する日本。エネルギー産業と社会そのものが大転換期を迎え、“あたりまえに核融合発電で暮らせる日、あと一歩”です。