AGC、2025年1-9月期決算で黒字転換──第3四半期は増益 会社の成長と課題を読み解く
はじめに
AGC株式会社(旧・旭硝子)は、2025年11月5日に2025年12月期第3四半期累計(1月~9月)の連結決算を発表しました。本記事では、AGCの最新決算結果と中に隠れた意味、収益改善の要因、事業ごとの状況、そして今後の課題について、わかりやすく解説します。
2025年1-9月期(第3四半期累計)決算の概要
- 連結売上高:1兆5,121億円(前年同期比1.4%減)
- 営業利益:948億円(前年同期比0.9%増)
- 最終利益(親会社所有者帰属):394億円の黒字(前年同期は1,064億円の赤字から急回復)
この期間は、前年同時期の大幅な赤字から黒字へ転換したことが特筆されます。2025年7-9月期(第3四半期単体)の最終利益も前年同期比で3.2倍の255億円へと急増しました。売上営業利益率も7.2%→7.9%へと改善し、収益体質の転換が数字にも表れています。
黒字転換を牽引した要因
- 価格政策の効果:自動車用ガラス、欧米建築ガラス、機能性化学品での価格改定を進めたことが奏功しました。
- コスト管理と収益改善策:ディスプレー分野などでの収益改善施策も寄与しました。
特に、海外事業を含めた製品価格の見直しによる売上の底上げが全体の利益改善に寄与した形です。一方で、化学品分野では市場の需給環境悪化により、塩化ビニル樹脂等の販売価格が下落し、出荷数量にも減少傾向が見られました。
各事業セグメントごとの動向
- 建築ガラス事業:欧米中心に価格見直しの効果で利益を確保。ただし、欧州建築ガラスの出荷はやや減少しました。
- 自動車用ガラス事業:世界的な自動車生産回復や価格政策を背景に好調を維持。
- 機能性化学品(パフォーマンスケミカルズ):全体的には利益確保も、販売価格の下落や需要の一部低調化がマイナス要因。
- 電子分野:EUV露光用フォトマスクブランクスの出荷減少、ディスプレー事業の収益改善策が影響し、減収増益となりました。
- ライフサイエンス事業:医薬品開発支援などで安定した成長を維持。
このように、基幹となるガラス事業が価格改定の効果を見せる一方、化学品や電子材料分野では市況や需要動向の影響を受けた形です。
2025年通期見通しと今後の展望
- 通期業績予想(据え置き):売上高2兆500億円(前期比0.9%減)、営業利益1,200億円(同4.6%減)、最終利益570億円(前期940億円の赤字から黒字転換予想)としています。
第3四半期までの進捗率をみると、最終利益が計画の69.3%とやや伸び悩んでいるものの、会社側は通期予想を据え置き堅調な回復を強調。今後のポイントとしては、世界経済の不透明要因や原材料価格・エネルギーコストの動向、電子材料や化学品の市況回復がカギを握るとみられます。
財務体質の現状
- 資産合計:2兆8,742億円(前期末比0.5%減)
- 負債合計:1兆2,355億円(前期末比1.4%増)
- 資本合計(親会社所有者帰属):1兆6,387億円(同2.0%減)
- 自己資本比率:49.1%(前期49.7%からやや低下)
全体として着実な資産運用と健全性を維持しつつ、収益回復による財務基盤の強化を目指していることがうかがえます。
株価と市場の反応
AGCの株価は、第3四半期単体での営業利益・最終利益の急回復が市場に評価され、決算発表後に大きく上昇しました。2四半期連続の営業利益増で市場コンセンサスを上回ったことも後押しとなりました。直近では、世界的な自動車・建築需給バランスや化学品の需給サイクルの持ち直し期待から投資家の注目が集まっています。
2025年第3四半期決算発表の意義
- 過去の痛手となった赤字決算から、価格政策とコスト管理の徹底で黒字へと転換したこと。
- マクロ環境の逆風下でも基幹事業の回復力を見せ、市場からの信頼をつなぎとめたこと。
- 事業構造改革と新規分野開拓への投資が今後の更なる収益安定に向けた土台となっていること。
今後の注目点・会社の課題
- 化学品分野の底打ちと市況改善の有無
- ヘルスケアや最先端電子材料といった新規事業への成長投資の成果
- 経営効率のさらなる向上やグローバル供給網の強化
- 気候変動・脱炭素社会に向けた環境施策への取り組み
AGCはグローバルな建築・自動車ガラス大手、化学や電子材料などの幅広い分野で新たな一歩を踏み出しています。持続可能な成長の実現に向け、引き続き環境変化への俊敏な対応と、収益性重視の経営体制強化が求められます。
おわりに
2025年1-9月のAGCは、前年の赤字から見事な黒字転換を達成し、国内外の事業基盤で着実な成果をあげました。足元では各事業の回復基調を維持していますが、化学品などの市場動向やグローバルリスクにどう向き合うかが引き続き重要です。今後も幅広いステークホルダーと共に、社会の発展と企業価値向上を目指すAGCの歩みから目が離せません。




