「10年に1度の規模」とも言われる変異株サブクレードKが猛威を振るう

2025年の冬、日本全国でインフルエンザの感染が例年を大きく上回るペースで拡大しています。厚生労働省の発表によると、2025年第46週(11月10~16日)のインフルエンザ定点あたり報告数は37.73人で、過去5年の同時期平均(3.51人)を大きく上回っています。さらに第47週には定点当たり報告数が51.12人まで急増し、警報レベルの30人の約1.7倍に達しており、39都道府県が警報レベルを超えている状況です。昨年同期比では約22倍というペースで感染が拡大中です。

この異常な流行の背景にあるのが、H3N2型インフルエンザウイルスの新しい変異株「サブクレードK」です。9月以降11月5日までに国内検出株の約96%、入国時検体の約73%がこの変異株であることが確認されており、今年の冬の流行を大きく左右する存在となっています。

サブクレードKはなぜこれほど広がりやすいのか

流行開始が例年より約1ヶ月早い

サブクレードKの特徴の1つが、流行開始の早さです。2003~04シーズン以来、最も早い流行開始となっており、例年より約1ヶ月以上早く、11月時点で既に警報レベルを超えています。通常よりも1ヶ月以上早くシーズンが立ち上がることで、まだワクチン接種を受けていない人が多いタイミングでウイルスが広がりやすくなることが懸念されています。

感染しやすさが高い可能性

サブクレードKは、ウイルス表面のたんぱく質(ヘマグルチニン:H)で複数の変異を持つとされており、従来株やワクチン株との「見た目(抗原性)」が異なります。このため、過去にインフルエンザに感染した経験やワクチン接種で獲得した免疫をすり抜けやすくなっており、感染しやすくなる懸念があります。これは「抗原ドリフト」と呼ばれる自然界で起こる変異によるもので、従来の免疫やワクチンで獲得した抗体を一部回避する可能性が指摘されています。

1人の患者から次々と感染が広がる

サブクレードKは「広がりやすさ」を示す指標が、通常のシーズンより高いと推定されています。1人の患者から次の何人に感染が広がるかという平均値が上がることで、同じ期間でも患者数の増え方が一気に急カーブになり、ピーク時の負荷が跳ね上がります。その結果、救急や入院ベッドが一時的にパンクしやすくなるのです。

若い世代を中心に感染が拡大

サブクレードKの流行には、年齢層による特徴もあります。特に18歳未満・若年成人で感染が拡大しており、英国データでは18歳以下の検体の95%がサブクレードKでした。英国では子どもや若い世代を中心に先に流行が起こり、その後時間差で高齢者に広がっていくパターンが懸念されています。

日本への流入と地域別の状況

サブクレードKが日本に持ち込まれた背景には、海外からの観光客増加があると考えられています。南半球(オーストラリア等)で記録的な流行を起こしたこの変異株が、2025年の大阪・関西万博開催に伴う国内外の人の移動がかつてない規模で活発化したことにより、日本に運ばれてきたと推測されています。

地域別では、宮城県が定点当たり80.02人ともっとも多く、埼玉県(70.01人)、福島県(58.54人)が続いています。東京都内でも11月3日から11月9日(第45週)の患者報告数が警報基準を超えており、さらなる拡大が見込まれている状況です。福岡などを含む西日本でも警報が継続されており、全国的に感染が広がっています。

現在のワクチンはどの程度効果があるのか

重症化と入院を防ぐ効果は期待できる

ここで重要なのが、ワクチンの効果についての情報です。2025年11月時点で使われているインフルエンザワクチンについて、医療専門家からはサブクレードKによる重症化や入院をある程度防げているとの報告がなされています。つまり、サブクレードKに感染する可能性を完全には防げませんが、万が一感染した場合でも、ワクチン接種によって重症化や入院のリスクを大きく低減できるということです。

注意すべき点:抗原性の完全一致がない可能性

ただし、サブクレードKはワクチン選定後に広がり始めた変異株であるため、現行のワクチン株との「抗原性」が完全に一致しない可能性があります。このため、感染そのものを完全に防ぐことはできないと考えられています。しかし、これはインフルエンザワクチンの効果がないということではなく、重症化予防という最も重要な役割を果たしているということです。

今冬の流行が「10年に1度の規模」になる可能性

英大手紙のガーディアンは、2025年のインフルエンザの流行が10年に1度の規模になる可能性があると報道しています。この予測の根拠は、複数の要因が組み合わさることにあります。

「変異による免疫すり抜け」、「流行開始の早さ」、「ウイルスの広がりやすさ」といった複雑な要因が同時に作用することで、通常のシーズンとは比較にならない規模の流行が起きる可能性があるというわけです。実際に、定点当たり報告数が例年の約10倍を超える水準に達しており、この警告は現実味を帯びています。

医療機関の負担増加と対策の必要性

感染の爆発的な広がりは、医療機関の負担を大きく増加させています。ピーク時の患者数が一気に増えることで、救急外来や入院ベッドが逼迫する可能性があります。このため、基本的な感染対策の徹底がこれまで以上に重要になっています。

今からできる対策

ワクチン接種を優先的に検討する

まず推奨されるのが、推奨されているインフルエンザワクチンをシーズン前に接種することです。サブクレードKに対しても、重症化や入院リスクを下げる効果が期待されています。特に以下の人は優先的に検討することが重要です:

  • 高齢者
  • 持病のある方
  • 妊婦さん
  • 小さなお子さん

症状が見逃されやすいことに注意

サブクレードKは、従来のインフルエンザとは異なる症状が見られるケースも増えており、「隠れインフル」が急増しています。このため、早期発見・早期治療がこれまで以上に重要となっています。症状が出現時は適切な検査と治療を心がけることが必要です。

基本的な感染対策の徹底

福岡などの自治体でも「インフルエンザ警報」が継続されており、基本的な感染対策の徹底が呼びかけられています。手洗い、うがい、咳エチケットなどの基本対策を徹底することが、自分自身と周囲の人を守ることにつながります。

まとめ

2025年冬のインフルエンザは、サブクレードKという新しい変異株の出現により、例年とは異なる状況になっています。流行開始が早く、感染しやすく、広がりやすいという複数の要因が組み合わさることで、「10年に1度の規模」とも言われる大流行になる可能性があります。

ただし、現在のワクチンは重症化や入院を防ぐ効果を発揮しており、適切な対策を取ることで最悪の事態は避けられます。ワクチン接種、基本的な感染対策、症状が出た際の迅速な対応が、この冬を無事に乗り切るための鍵となるのです。

参考元